ラウドネスノーマライゼーションとは
こんにちは、あいまいです。今回は何かと話題に上がるラウドネスノーマライゼーションについてまとめました。
1. ラウドネスとは
前回の記事「音圧戦争とは」と同じ内容です。
ラウドネスとは「主観的な音量」です。人によって聴力は異なるので厳密には音量の捉え方に違いはありますが、「音量」=「主観的な音量」ではありません。
上図は「主観的な音量」を示す等ラウドネス曲線と呼ばれるものです。少し見ずらいのですが、破線は気にせず赤い線と数字だけを見てください。真ん中に100、80、60といった数字があります。これは「1,000Hzを〇dBで鳴らした音量」を意味します。
例えば60phonは「1,000Hzを60dBで鳴らした音量」という意味になります。等ラウドネス曲線はこのphonを規準に音量を見ていきます。60phonの赤い線を見ていくと、例えば「60」という数字のすぐ右にに山があります。この山の頂点のx軸はおよそ1,500Hz、y軸はおよそ65dBです。これは「1,500Hzを65dBで鳴らすと、1,000Hzを60dBで鳴らした時と同じ音量に聞こえる(60phonのとき、1,500Hzは1,000Hzより5dB聞こえにくい)」という意味になります。このことから「周波数によって音量の感じ方が変わる」ということが分かります。次に80phonの赤い線を見ていくと、60phonよりも線が直線に近いです(250Hz以下が顕著)。このことから「音量を上げると、音量を上げる前より、より多くの周波数の音が聞こえやすくなる」ということが分かります。これが「音量が大きいと良い音に聞こえる」理由の1つです。他にも原始時代には大きな音は自然災害によるものしかなく、原始時代からの本能として、大きな音には覚醒作用があるとも言われています。音楽に迫力を持たせたり、音楽を聞いてテンションを上げるのにラウドネスはとても重要な役割を持っています。
2. ラウドネスメーター
ラウドネス・メーターはラウドネスを測定するメーターです。このメーターはざっくり説明すると、等ラウドネス曲線に似たK特性フィルタを用いた、人の感覚に近い音量メーターです。もっと仕組みを知りたい方はこちらに詳しく書かれています。
作られた経緯
もともとラウドネスメーターは音楽のために作られたものではなく、テレビ番組の音量を揃えるために作られたものです。
アナログ放送の時代は、音声成分にピークがあると映像に影響が出るため、送出段にリミッター、コンプレッサーの機能を持ったオートレベルコントローラーが組み込まれていました。さらにその後段に、完全にピーク成分をカットするためにソフトスライサーが設備されていました。そのため、番組ごとに音量がバラバラでも送出段階である程度音量が揃いました。
デジタル放送になると、音声成分のピークによって映像が影響を受けることがないためオートレベルコンプレッサーやソフトスライサーを通さず、そのまま放送することになります。そして、番組ごとやCMの音量差がそのまま放送されてしまうことが問題になりました。
そこで音量を揃えるための基準を作るために、人の感覚に沿った音量を測定するためのメーターが必要になりました。そうして作られたのがITU-R BS.1770やEBU R-128などのラウドネスメーターです。音量の単位はITU-RではLKFS、EBUではLUFSですが、メーターの中身は同じだと思って大丈夫です。ラウドネスの数値には全体の平均値を示すIntegrated Loudness、3秒間測って1秒ごとのラウドネスを測定するShort Term Loudness、400msの範囲で100msごとのラウドネスを示すMomentary Loudnessがありますが、一般的に-〇〇LUFSとだけ書かれている場合は全体の平均値を示すIntegrated Loudnessを指しています。
3. ラウドネスノーマライゼーション
Youtubeやニコニコ動画、SpotifyやApple musicなどのオンラインサービスで動画を見たり音楽を聞く際、動画や曲によって音量がバラバラだと視聴者は困ってしまいます。そこで各種配信サービスには視聴者の代わりに音量を自動で調節してくれる、ラウドネスノーマライゼーションという機能が導入されています。
ラウドネスノーマライゼーションの仕様(Spotifyとニコニコ動画)
ラウドネスノーマライゼーションのかかり方は配信サービスによって異なり、また仕様が非公開のものもあります。ここでは公式に情報が公開されているSpotifyとニコニコ動画のラウドネスノーマライゼーションの仕様を紹介します。
Spotifyのラウドネスノーマライゼーション(2021/05/21現在)
Spotifyでは、-14LUFSを基準に音量が調節されます。アルバム単位で聞く場合は曲ごとの音量差を残したまま音量が調整されますが、シャッフル再生やプレイリストから曲を再生する場合は曲ごとに音量が調節されます。
曲のラウドネスレベルが-14LUFSを超える場合、ラウドネスレベルが-14LUFSになる様に音量が調節されます(Negative gain)。曲のラウドネスレベルが-14LUFSを下回る場合、最大音量が-1dBFSになるように音量が調節されます(Positive gain)。例えば、曲のラウドネスレベルが-20LUFSで、最大音量が-5dBFSのとき、その楽曲は-16LUFSになるように音量が調節されます。
Spotifyの有料会員だとラウドネスノーマライゼーションのかかり具合をLoud、Normal、Quietの3つから選ぶことができます。Loudは-11LUFSになるように音量が調節されます。こちらは-1dBFSを天井にして、アタックタイム5ms、ディケイタイム100msでリミッターがかかります。Normalは-14LUFSで音量が調節されます。Quietは-23LUFSで音量が調節され、これは欧州のテレビ放送のラウドネス規準です。(日本のテレビは-24LUFS)
ニコニコ動画のラウドネスノーマライゼーション(2021/05/21現在)
ニコニコ動画では-15LUFSを規準に音量が調節されます。動画のラウドネスレベルが-15LUFSを上回る場合は-15LUFSになるように音量が調節されますが、-15LUFSを下回る場合はなにもしません。
このように、SpotifyのLoud設定を除いて、ラウドネスノーマライゼーションは音量を調節するだけです。ちなみにAES(Audio Engineering Society Inc.、音響関係の国際組織)は-20~-16LUFSを推奨しています。
4. ラウドネスノーマライゼーションで音が変わる?
「ラウドネスノーマライゼーションによって音が変わってしまう!」といった発言をされる方がいらっしゃいますが、ラウドネスノーマライゼーションによって音声データそのものは変わりません。音量を変えているだけです。ただ等ラウドネス曲線が示すように、音量が変わることによって「音の聞こえ方」は変わります。「ラウドネスノーマライゼーションで音が変わる」と感じる方はこの機能をオンにしたときとオフにしたときで、聴覚上の音量を揃えて比較してみてください。
5. 「ラウドネスノーマライゼーションをオフにすると音が良くなる」という発言の危険性
ラウドネスノーマライゼーションは動画や楽曲の音量を揃えるための機能ですが、この機能によって楽曲を制作する側には「楽曲のラウドネスを無理に上げなくてもいい」というメリットがあります。つまりダイナミックレンジが広い曲にしたいならダイナミックレンジを広く、ハイパーコンプレッションされた音が好きならハイパーコンプレッションをするといったように、音楽的な表現の自由が保証されるのです。
「ラウドネスノーマライゼーションをオフにすると音が良くなる」という発言は、等ラウドネス曲線の知識がないことによる発言であると思われるのですが、このような発言をしてラウドネスノーマライゼーションをオフにする人が増えてしまうとラウドネス・ウォーが激化してしまう恐れがあります。
6. 終わりに
ラウドネスノーマライゼーションについてまとめました。仕様が公式に発表されているものが少なく、具体例をあまり挙げることができず残念です。ラウドネスノーマライゼーションに対しての誤解を解くためにも各サービスは仕様を公開していただけるとうれしいのですが・・・
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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