小出稚子「南の雨に耽ける」
環境・身体・思考停止
ーー山根:「南の雨に耽ける」(NHK委嘱)は、南国の雨の感覚を管弦楽で書いた作品ですよね。
小出:環境っていうのかな。自分が置かれちゃった環境をそのままドーンて。
ーーその発想に至った経緯はありますか?どういう風に。
小出:それがね、あるんだよね珍しく。ジャワに行ったとき。私ジャワに行く前オランダにいて、オランダから直でジャワに行っちゃったんだ。日本を経由してじゃなくて。日本からオランダに留学しててオランダ5年、ジャワ1年ぐらいいたかな。気候が全然違って。だからこう、暑すぎたんだよね。ただ単純に。
ーー「気候」が。
小出:暑すぎた。オランダにも9月の頭ぐらいに行ったんだけど。日本って9月の頭ってまだ半袖。暑いじゃん。
ーー暑い暑い。
小出:暑々なのに。その格好で行ったらもうすっごい寒くて。降り立った途端なんか・・・どうしようこれ!みたいな。日本の12月ぐらいの感じになっちゃうんだよね、オランダだと9月の頭って。毛穴がずっと閉じてたのに、ジャワでは・・・!暑すぎて。毛穴という毛穴から汗が吹き出して痺れてくる、脱水症状だよね。学校に着く前に倒れそうになったの。
ーー大変だったね。
小出:そう。今まで自分が居た環境が変わるとさ、適応できてない身体が。ボディが適応できてない。脱水、熱中症?頭も働かない。ボディの現象。
あとはそこから次々と、蛇口ひねったら泥水出てくるとかさ。ねずみがすごいとかさ。自力ではどうにもならないこと。水道局に電話かけて日本だったらすぐ工事してくれるじゃん。でも向こうだったら水道局自体がポンコツだから、何度言ってももう全然。これ一生泥水だなみたいな感じ?もう頭痒いし泥水で洗うと。今日お風呂どうしようみたいなこと毎日考えていて。お風呂も水だから慣れてなくて、水を頭から被ると寒いんだよね。だから大きいやかん買ってきてお湯を沸かして、でっかいゴミ箱に水とやかんのお湯足してそれをかぶる。毎日続けてると、慣れてくるんだよ?もうなんかどうでもよくなってくるっていうか・・・子育ても同じような感じあるじゃん、自分じゃどうにもできない部分。
ーーどうにもできない部分ある。
小出:この夜泣き!いつまで続くんだろう。誰に聞いてもわかんない!みたいな。
ーーわかんないよね。常にいつ何がくるか。
小出:そういうのの応酬じゃん。そうするとだんだんこう諦めモード・・・あんまりこうカチカチ予定を決められないし、見通しが立たないっていうかさ。そういうのって環境にこう、自分がぽつんと入っている。環境のお風呂ん中にぽつんと入っちゃったっていうか。で思考停止になるっていうのを、曲でも、そういうのできないかなと思って。それで、できた!
ーーすごいよね、音でさ・・・!
小出:一個一個はちっちゃいことじゃん。まあ蛇口ひねって泥水出る時もあるかな、ネズミが出る時もあるかなだけど。色々応酬されると!もうぼーっとするっていうか(笑)
自分が何に慣れるかもわかんないよね。これは無理だろうって思ってることに慣れちゃうとかさ。あとバイク社会だったから、もう無法地帯いわゆる東南アジアの。最初ぜったい怖くて乗れないって思ったけど、最後ノンヘルでビーサンワンピース着て後ろに乗っかってたから(笑)二人乗りしてた。それで事故にもあってるから、慣れってやばいなって。
ーー救急車?
小出:救急車も来ないから。一緒に乗ってた友達と血だらけで家に帰る。今だと考えられない。当時はそれができちゃってたけど。今お風呂あったかくないと無理だし。バイクの後ろにノンヘルでは乗れないし。怖くて。
ーー日本に戻ったら揺り戻されるんだ。日本の環境に、身体が?
小出:そう!今は日本に慣れたんだと思うんだよね。
ーーそうか。馴染んでいく感じがあるんだね。
小出:あ!そう!馴染む。
ーー思考がストップして。身体が慣れてくんだ。
小出:慣れてく。そう。
ーーその感覚を音でやろうとして。
小出:そうそう、その感覚を。
仲間と作る作曲
ーーまず歌の部分にびっくりしました。最初聴いてもうやばい!って。震えた。
小出:ああ、桂ちゃんが歌ってるとこだ!新美桂子ちゃん。しかも宅録だからね。私がキーボード。スタジオでもないからピーポーピーポーとか来たら止めてもっかい!みたいな感じ。
ーー歌を入れる発想はどうやって?オケだよだって。オケ曲で。
小出:これはオケじゃないと、人数いないと環境は多分表現できない。でも予算でさ、電子音(エンジニア)とか他の、例えば歌手とかを入れられなかったから。打楽器の人にon、offをやってもらって全部。あれを入れようと思ったのは、インドネシアで野外?コンサートっていうか、結婚式とかお葬式とか、他にも室内楽みたいなのも半分野外でやってるから。道歩いているとああいう感じで、ふゎーっと聞こえてくんだよ。ふゎーっと。
ーーそれを、そうか・・・それを・・・なんだろう。すごい天才だと思いました。
小出:桂ちゃんはいい声だよね!
ーーうん、いいよね。なかなか思いつかないよ。
小出:道歩いてたら声聞こえたりするし、物売りの人が来るし。それをそのままどーんて写しとったって感じかな。私エレクトロニクスも全然できないから。本当に自分でできることをやろうって感じで、なんだっけMacに入っているソフト、
ーーGarageBand?
小出:そうGarageBand!ガレージバンドしかできないけど(笑)
ーー全体の楽譜もすごくシンプル。意識してシンプルに?
小出:そうだね。やっぱりあの・・・怒られたくないっていう(笑)演奏家に。もうなんか別に、そんなに私真っ黒な楽譜とか、そもそもあんまり興味もないというか。私も難しいこと、できないし。だからできるだけみんながやりやすいように。
ーー書くときはどういう手順で書いていきますか?
小出:最初、雨。雨季のことが書きたかったから。雨の中で寝る前。雨季の夜とか夕方とかそんな感じにしたくて。だから最初雨の音が聞こえて、そっからなんか、もわ~っとその世界にいけたらいいかなっていう。
ーーその、楽譜にしなきゃいけないじゃない具体的に。
小出:そうなの!そうしないとね、弾いてくんないからね。例えば最初の雨の場面。半分は電子音っていうか録音してきたやつ?で半分は人間がやってる、なんか・・・ええ、だからなんなんだ?(笑)
ーーどこから書き始めるか、じゃあ最初!一番最初、Finale(浄書ソフト)?
小出:最初!そう!最初最初!何でも最初から最後までこう、行く。Finaleと一緒にWordも立ち上げておいて。今何の場面書いているってことを忘れちゃうから私(笑)だから雨と言えば?みたいな感じで、材料をパパパって書いて。
ーー材料って何その、例えば楽譜に書いてあるこの・・・シラブル、とか。
小出:あ、そうぴちぴちぴちってやつ、ぴぴぴって、そう材料!これ雨っぽいなあって思ったことを書いて組み合わせると・・・今雨降ってきたよーみたいになるかなって思って。
ーー書き始めるときは最後までなんとなく頭にある?それともまず書き始める?
小出:それねーできないんだよねー私最後までの見通しは未だに・・・できないから。だから最初からちょっとずつ。
ーーじゃあ書き始める前の時間はあまりない?構想は構想で、ありますか?
小出:構想が文章で、(※数ページにわたる資料を見せてくれる。以下一部掲載)
ーー・・・文字でしっかり書かれていたんだ!
小出:これはね、桂ちゃんに見せたの。こういうことをやりたいって。これをもとに桂ちゃんが詩を書いてくれた。でもねーこの資料は、こんなことがありましたみたいなことだから。
ーー詩を新しく書いてもらって。
小出:そうそう。日本の詩は桂ちゃんで、英語の詩が太田先生って私の英語の先生。2人に書き下ろしてもらった。これ持って説明して。こんな感じ!つってまず詩を。自分が書く前に、お願いって。
このプレゼン資料は、私が書く上での資料でもある。こういうことを曲にしたい、3人が共通して持ってるもの。ここには全然音楽的なこと書いてないんだ。私はこれを音にするし、2人はそれを詩にしてくれって。でも歌はー、村を歩けばどっかしらで聞こえてくるから歌は入れたかったんだよね。
ーーそこは強かった。
小出:それとか雨の音、物売り、バイクの音だとか、日常ですっごいよく聞こえてきたものを入れたいって。ジャワの私が住んでた家の周り。
ーージャワの歌はえっと、ポップスになるのかな、
小出:あ、そうそう、ポップス・・・だね。ポップスだけど伝統・・・ガムランで伴奏するから。日本で言ったら昭和歌謡みたいな感じかな。
ーーそれと同じ様式で書いてるわけではなくて、
小出:ではない。けど雰囲気は似てるかなあとは思う。
ーーオリジナルで。スコアとは別に譜面を起こして。
小出:そうでーす。
ーー弾いて。
小出:そう。シンガーソングライターみたいな感じ。
ーー英語の朗読は誰が?
小出:それはねサラっていうんだけど。サラ、声がね落ち着いていいからお願いしたいって思って。やっぱり女の人の声が良かった。
ーーどうして?
小出:それこそね、ジャワの古典の歌とかも入れようかと思ったんだけど。ジャワって全然こう、男性が書くっていうか。そういうものとかも全部男性が作っているし、演奏する人も男性。だから今も大相撲みたいに男の人メインで構成されている世界なんだよね。男目線からの世界。だけどそういう視点じゃなくって、私が自分で感じたことだから、女の人の声の方がいいかなって思って。
ーーじゃあね、小出さんにとって詩って何ですか?
小出:詩は・・・補強してくれる。私は言葉の使い手じゃあなくて言葉で表せないんだけど、言葉ってやっぱそれですごい世界がある。だからこうやって環境を書きたいときに、ふわっとしちゃいがちだからプラスもう一層ないと、お家が建たないじゃないけど。
例えば桂ちゃんのはね、単語が一個一個その世界に連れてってくれるキイになるっていうか。「弔いの雨」とか出てこないもん私じゃ!これでいける(笑)
ーーそれがあの歌で出てきて。素敵だよ。
小出:そう。・・・生死っていうかねその、周りで、すごいよく死んじゃうから。それを表したかったんだよねこの曲では。植物でも動物でも人間でも、生命のサイクルが早いって思う。
ーーそれをジャワで感じたの?
小出:ジャワで感じた。日本みたいにさ、動物飼ったら絶対避妊手術してくださいとかそういうのが全くない。野良猫がすごい多いとか、鶏とかもね、そこらへんにぴよぴよ孵ってるし。人間も日本みたいに延命治療とか、大きい病院でずっと入院してるとかそういうのもないし。すぐ死んじゃうんだよね、割と。
ーー生死の見え方が違うよね日本と。オランダもまた違うのかな。
小出:オランダは安楽死OKだから。あのおばあちゃんはもう今度いつ安楽死することになってるんだよっつって、その前のお別れパーティとか開いちゃったりして。みんな集めてお誕生会みたいな感じでグッバイパーティ。だから全部違う価値観なんだろうなとは思うんだけど。
ーー録音ね「弔いの雨を降らすー」の後にヴィブラフォンのアルコがくるの、
小出:!それねーそれ偶然なんだよー!
ーーやっぱり!サウンドファイルと合わせるもんね。
小出:あれさーラッキー!まじかー!とかって。高関さん(※初演指揮者)すごい!見事にハマらせてくれた!って。うん、ラッキー。そう。あっはっはっは!ラッキーも起こる。
楽譜の役目
ーー書く過程の中で一番好きなところはどこですか?
小出:最初の、文字で考えているところかな。どんなことしたいか考えているところ。それ以降はもう必死だから。どうしたらいいのこれはー!って。
ーー文字で考えているのは全ての曲でそうやってる?
小出:多分そうだと思う。どんなん書こうかなーって考えてる時。それができるかできないかはわかんないけど、考えているときが楽しい。
ーー自由なんだねそこは!ノートの世界で。
小出:そうだね。幼稚園生が書いてるみたいでやばいよこれー。何を言いたいんだろうとかがわかんないから、自分が!だから、書かないと。
ーー出すことによってわかってくる。そこは全く自由に発想できる。そして実際フィナーレ立ち上げて、オケだったら書き始めてどれくらいの期間かかる?
小出:半年とか。ソロとかだったら3、4ヶ月とかかな。でも実際書く時間ていうか・・・考える時間が必要かな。
ーー何考えてる?
小出:風呂で考えてる、
ーーこういう音あったらいいなあって?
小出:脳内プレイバックが、こう・・・それをすごいしないと、なんか・・・
ーーその段階では実際的な音を?
小出:ぷちぷちしててー・・・何がきたら、気持ちいい?みたいなこと考えて。
ーーでそれとこれを組み合わせて。とか。
小出:そうそう。料理と似てるかなって。このスパイス入れてこれとこれを混ぜたら食べ合わせがすごいみたいなのと似てる気がするけど。
ーーほんとー?
小出:うん。え、思わない?
ーーそこは多分違うところ、私味覚と音は繋がってないかも。
小出:すっごい食感をイメージするけどね。あっこちゃんの曲から。
ーー作曲の中で楽譜が担う部分というか、小出さんは、紙の上で構成する以前の音楽的思考の比重が大きいって数年前話していたと思うの。楽譜は必要なんだけど、実際直接弾いて見せて伝達することが多かったり。
小出:私がそこの技術がない。楽譜で表現したことが伝わりにくい。どうやって書いたらいいかわかんない。楽譜で書くことで欲しい音が鳴るかって、そこもちょっと曖昧で。やっぱあの・・・ピアノコンクール(※課題曲作曲)やったときから、同じ楽譜見てあんなに演奏違うんだったら、もう私の目から見た私の音楽を書くしかないって!あっこちゃんもピアノコンクールやってるよね、どうだった?
ーー違った違った!全然違った!
小出:全然違うよね!全然違うから!
ーーもう違うんだよ!演奏でそれぞれ違うんだよ!
小出:だってテンポだって!数字で書いてんのに!全然違うから!
ーーなまものです。
小出:だからそういうもんじゃないって。同じ楽譜を見て違う演奏が出てくるのは大前提なんだと思う。機械じゃなくて人間が演奏してるから。同じレシピを見て作った料理でも使っているフライパンが違えば味も変わるし、当日の湿度や気温によっても変わるよね。それこそ、自分が思い描いていた音量、テンポ、フレージングなどが最善なのかといったらそういうわけではないし。
だからやっぱコミュニケーションツールっていうか、できるだけストレスフリーに演奏してもらう。でその、次の段階を一緒に共有したい。
天然記念物、聴けるだけでラッキー
ーー曲の流通や受容についてはどう思いますか?
小出:今ネットで聴けるのは、いいよね、ひとつ!逆にホールに生演奏を聴きに行く機会が私はすごく減ってしまった。色々な面で余裕がなくて。あとは現実的に企画や演奏する側からしたら、現代音楽ってコスパが悪いんじゃないかと思うんだ。お客さんやっぱり少ないし、レパートリーとして定着していないものの方が多いから譜読みから新たに始めないといけないし、レンタル楽器をたくさん使う曲も多いし。もし現代音楽を欲している聴衆がたくさんいてプログラムに入れるだけで集客がめちゃくちゃ上がるなら、とっくにたくさん演奏してる状況になってると思う。
ーー普段の生活に余裕がないっていうのは本当そうで、あと新しい音楽って、聴いて消化するまでに時間もエネルギーもかかるじゃない。このサイクルだと回収できないよね。
小出:そうそう。わざわざプログラムにコスパの悪いものをたくさん入れるわけないよなぁって思う。オーケストラ自体も経営が危ぶまれる中で、現実的じゃないと思うし。でも一方で、コスパの良いものばかりが溢れかえる世の中って本当つまらなすぎるって思うんだ。私が今まで観たり聴いたりしためちゃくちゃに心を動かされた芸術って、どれもコスパすごく悪いと思うもん。受容する側としてはコスパの悪い面白いものを欲しているのに、作る側としては(渡辺裕紀子ちゃんがアンケートをとった作曲委嘱料とその時給換算のことを考えると)コスパの悪い創作活動を続けていくことに厳しさを感じているという・・・。
もっとヨーロッパみたいに補助があればいいのかなぁと思いきや、クラシック音楽自体が他国の文化のものだから、日本で助成金とかに依存しまくるのもどうなんだろうかと・・・。逆にヨーロッパの国で日本の伝統芸能にめちゃくちゃ助成金出してるとかないと思うし。
ーーそうだよね、西洋音楽ばかりだったじゃない?日本の音楽教育が近代以降基本的に。その割合が変わったりするのかな今後。そしたら上手く回ったりするのかな。
小出:ね。でも今さ、学校教育はすごい変わってきてるよね。音楽の教科書にも色んな音楽が載るようになってきてて。だから西洋音楽一辺倒っていうとこからだいぶ、ましになってるとは思うんだけど。
ーーピアノも家に置ける環境が少なくなったり、
小出:そうなんだよね。
ーー変わってきてるよね。
小出:そこが「西洋音楽とステータスが結びつく」っていうのはもう終わったかな・・・って。思いたいけど。
ーーじゃあさあ、オーケストラの、何に魅力を感じますか?
小出:生きてる人があんだけ大勢演奏してること。それこそ全然経済的じゃないじゃん。でもさ、全然さ!その、お金とか、経済系の観念とは全く別のとこにあるっていうか。今この時代で、なんかヴァイオリン何十人とか!お給料払って演奏させるってすっごいもう、ちょっとやばいよねって。
ーー考えてみたら状況がおかしいよね。
小出:状況がおかしい。関わってる人数とか、演奏行くっていったら全部楽器運ばないといけないとか。もうそこが・・・なんだろ、もうどうにかこう保護していかないと生き残っていけないような、天然記念物系のイメージ。ちょっと。
ーー立派だから強く見えるけど、弱くて守ってあげなきゃいけない対象って。
小出:(笑)そんなこと私が言ってもあれなんだけどさ。でもさ。
ーー状況的にはそう。
小出:そう!状況的には!明らかに。その・・・まあ、昔のものだよね。オーケストラっていうのが。だから、あれ聴けるだけでけっこう、ラッキーだと思うっていうかさ(笑)
ーー聴けるだけでラッキーだ!
小出:いなくなって初めてびっくり、もうオーケストラ聴けませんって言われたら。それこそ博物館にあるような感じじゃない?人が集まってお金を出して楽器運んで。こんだけ練習してこれができますっていうの考えると・・・作曲家としてはさ!すごいだからそこは魅力なんだよね。人間がいっぱいいる、生身の人間があんだけ集結して音を出す、その状況がないっていうか。レア。銀行の窓口がATMになって、それがネットバンキングになっている時代に。
ーーレア。まさに・・・じゃあそれを新しくどんどん書いていくことについては?
小出:いっぱいいないとできないことはあるよね。それこそリモートワークじゃできないことみたいなやつが、わかってきた世の中で。オケじゃなきゃできないことってあると思うんだよね。と同時に私にとっては、オーケストラじゃなくても人間がいっぱいいる作品っていうのは、別のフォーマットでもやってみたいかなって思う。群舞じゃあないけどさ、別にヴァイオリンが1、2、ヴィオラ、チェロ、コントラバスみたいな感じであらかじめセッティングされてなくても。
ーー100人のための音楽。とか?
小出:そうそう、
ーー楽器やってない人でもいいし、
小出:やってる人でもいいし。
ーーそう楽器編成が不思議!ロマン派に合わせているから。
小出:そうなんだよね!だから別にこんなにこの楽器はいらないとかさ、カスタマイズができればいいんだけど。やっぱりそれがねシステムと、今のこうしたいっていう需要と、あってるのかどうかっていうと・・・わかんない。こっちがちょっと合わせてるっていうところが、けっこう私はあるかなって思う。
ーーあまり編成はカスタマイズせず書いてきてるよね。
小出:そうだね。オケってあの定位置じゃないけど、あれで一個になっちゃってるところが、パッケージ化されちゃってるとこがあるじゃん!だから、中を減らしたり増やしたり標準からバラしていくと、ちょっとバランス崩れたりするから。全く何もないところであの人数集めてきた全然違う団体とは違う、気がする。
ーーどこまでがあの、オーケストラか。アイデンティティは。
小出:だから難しいとこだよね。
ーーカスタマイズやってる作家もね色々いるけど。
小出:大変。なんかそこに労力かけるんだったらって思っちゃう。3回のリハで!
ーーリハの回数とか、ホールの空間設計とか。全部が関係している、作る音楽に。
ポップ考
ーーデビュー時私たち、ポップって言われることが多かったよね。
小出:多かったね。色んな人に言われた。今でも言われてる。
ーーオケに限らないんだけど、とりあえずオーケストラでね、ポップってなんだと思う?・・・ポップって・・・例えばポップスをオーケストラでそのままやっちゃうとポップじゃなくなっちゃうじゃない。
小出:それ、とは違うよね。
ーーわかりやすいっていうことでも全然ないと、私は思うのです。
小出:・・・私の場合はだけど、題材とか考えてることが軽いっていう意味で、ポップって言われてると思う。私の場合はね。
ーー軽さ。軽いというか、ダイレクトみたいな。
小出:そうそう。私自身が身近なことしか題材にできないからー。
ーー「身近さ」か・・・
小出:それがポップっていう風に表現されることに繋がってるのかなって思う。なんつーんだろう、かなり高度な理論とかさ!そういうところと繋がってるわけでもないし。例えば重たいテーマっていうのか昔の・・・書物からこう引っ張ってきたりとか。そういうのが多分私はできない。自分が興味があることが身近なことだからなのか。
ーーそういう軽さは、あんまりそういうオーケストラの新しい曲って、聴けることがなかったよね。
小出:そうそうなかったよねー。ちゃんとしたやつ作んなくちゃいけないみたいなのはさー、あった。
ーーちゃんとしたやつ、
小出:それこそ解説とかさ。すごそうじゃん。なんか。みんな。
ーーなんか、すごいんだよ。
小出:偉いんだよ、とにかく!あっはっは。
ーーそっか・・・身近さ、身体への近さ。
小出:でもー・・・うーん私の場合はって感じだからなー、なんか。みんながそれかっていうと、わかんない。
ーーポップはそれぞれ細かく思考できそうだと思ってる。身近さはその中の質のひとつかも。小出さんの作曲は全身的な感度がすごくあって、多分思考的に遠いところに行くというよりは、その、身体の接点で受け止められることからすごい最大限に表現してる感じがします。
小出:確かに。毛穴が開くかどうかみたいなね。
ーーそうそう身体、だって身体って神秘じゃない?身体、
小出:神秘神秘!
ーー生きてること自体神秘だし。人によって違う、感覚も。そこ最大に開いてる。
小出:いいこと言ってくれたッ(笑)
ーー(笑)
小出:私が!このボディ!で感じることしか出せません、みたいなところが。
ーーそれがすごくある、全身で。
小出:逆に頭使えないからってところがあるね。
ーーああ、制限が全身感覚に向かわせるのか、それとも全身で受け取るものが大きすぎて頭がフリーズするのか。とても面白いし大切で、すごいことだと私は思ってて。
(著作権の都合上)別の小出稚子管弦楽作品「チョコレート」音源を紹介します→
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