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理系向け料理本のご提案

そういえば、理系向け料理本って何冊かあるけど、私、もっと実験や失敗を前提とした理系向け料理本っていうのがあって良いと思うのですよ。

私は、高校からずっと文系だし、理系の流儀って実はよくわからないけど、「実験」っていうのは、「実験を成功させること」が目的じゃなくて、突き詰めたい事実を確認するためだったり、一定条件における現象を一般化させることが目的なんじゃないかと思うのですよ。

だから、実験に関しては、そもそも失敗したって良いし、というか、失敗の積み重ねこそが、問題点の洗い出しや、重要な事象の確定につながるものだと思うのです。

それって、料理も同じで、"誰かが美味しいと感じた" 特定の成功例を再現させることが重要ではなくて、自分が目標とする「おいしい」への達成に向けて試行錯誤できるための材料を提示することこそが、理系向けを謳うにふさわしい料理本なのではないかと思うのです。

だって、そもそも、料理レシピなんて、だいたいの人が美味しいと感じる(というか、むしろ、作った本人が美味しいと感じた)料理を作るための手順であって、目指す完成形には、成功とか失敗とか言えるような客観的な判断基準は無いじゃないですか。
多少焦げていても、美味しかったら成功だし、見た目がよくできていても自分が美味しくなかったら失敗なんだと思うのです。
そうです、この場合、全ての成否判断が、自分の主観的な感覚に依存しているのです。

どんなに正確に分量を計ろうが、正しい時間、正しい調理をしようが、「自分が食べた時美味しくなかったら」それは失敗なのです。

それって、全然理系っぽく無いとは思いませんか?

例えば、食材ごとにそれぞれ火の通り方に違いがありますよね。
豚肉は牛肉に比べて火が通りやすいし、
野菜も種類によって、味のしみ込み方が違います。
一緒に料理する食材による酵素で肉の硬さが変わったり、
加える熱の量や時間によっても、味や食感やしみ込み方が違って来ますよね。

そもそも強火とか弱火とかっていう書き方も気に入らないのです。

鍋やフライパンの材質によって、熱伝導率は違うし、さらに言えば、その上に乗っている食材の種類や量によっても必要な熱量は変わってくるはずなのです。
それなのに、一律「強火」とか「弱火」とか、全然理系っぽくない!

調理器具の材質による熱伝導率と、食材の体積と、食材の熱伝導率から、コンロの火が、その食材の中心部分にどれだけの時間、どのくらいの温度になることを必要としているか、という情報こそが欲しいはずなのです。
それは、強火で五分、なんていういい加減な、全然理系っぽく無い言葉で表現してはいけないことだと思うのです。

理系の人に必要なのは、それぞれの食材の熱伝導率だったり、食材の熱可塑性の詳細だったり、食材の細胞膜の有無が調理にどう影響するのかとかとか。

さらには、味の判断基準として、一般的に人間が美味しいと感じる塩分濃度の規定値と、自分が美味しいと感じる塩分濃度の乖離がどのくらいあるのかとかとか。

食材全体の体積に対してどのくらいの醤油を入れると塩分濃度が(自分にとって)適切になるのかとか
食材の相性(それこそ、グルタミン酸やらのアミノ酸がどのくらい出て、どのくらい影響し合うのとか)だったり。

そういった情報が網羅された上で、
例えば「肉じゃが」なら、その料理としての最低構成要素を提示することで、自分なりの、自分が美味しいと感じる料理の完成のための試行錯誤ができるのではないかと思うのです。

そうであれば、肉じゃがの肉は、必ずしも切り落としの牛肉じゃなくても、焼肉用の肉や、厚切り、ブロック肉を使っても良いし、じゃがいもだって、男爵やメークイーン、なんならじゃがいもの代わりにさつまいもを使った肉じゃがだってありだと思うのです。

お仕着せの、誰かの美味しいを上手に真似できたことを成功とするのではなくて、
ある料理における食材や調理手法の構成要素を満たした上で、科学的に、「自分が美味しいと思う」料理を作り上げる情報を補完をしてあげるような料理本こそ、理系には必要なのだと思うのです。

理系が望む料理ってそういうことじゃないのでしょうか?

という、理系のことをよく知らない文系が偏見のみで語ってみました。

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