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問いを立ち上げ、探索するー「ひらくデザインリサーチ 活動共有会」イベントレポート

こんにちは。
私が所属するデザイン会社、コンセントでは昨年から有志メンバーで「ひらくデザインリサーチ」という活動を行っています。2024年7月8日にこの「ひらくデザインリサーチ」の活動共有会が恵比寿のイベントスペース「amu」で開催されましたので、今回はそのレポートを書きたいと思います。

ひらくデザインリサーチとは

コンセントは企業や行政と伴走し活動を支えるデザイン会社です。普段の業務では、クライアントの課題に向き合い、解決に向けてさまざまなデザインを提供しています。
「ひらくデザインリサーチ」は普段のクライアントワークから少し離れて、自分の興味や関心をベースに問いを立ち上げ、探索するためのデザインリサーチプログラムです。
2023年度は「土着」「工夫」「余裕」という3つのテーマのチームで活動をしました。

「ひらくデザインリサーチ」概要

共有会は本活動に参加している有志と活動に興味を持った社内メンバー、スペシャルゲストとして「動きそのもののデザイン リサーチ・スルー・デザインによる運動共感の探究」の著者である三好 賢聖さんに参加いただきました。
イベントはひらくデザインリサーチの運営者である小山田 那由他から「ひらくデザインリサーチとは?」と題して活動の目的について、小橋 真哉から「デザインリサーチ」に関する前提のインプットから始まります。

デザインリサーチについての解説するコンセントのデザインリーダシップ所属の小橋

活動の目的、デザインリサーチに関する記事はこちら。

いよいよ、各チームの発表へ

小山田、小橋からのインプットが終わったあとにはゲストの三好 賢聖さんから自己紹介をしていただき、いよいよ各チームの発表へ移ります。

Team「工夫」

Team「工夫」は普段遣いの創造性をテーマに、4名がそれぞれに発表を行いました。
一人目の発表者は運営メンバーであり、コンセントのストラテジックデザイングループのマネージャーの小山田。小山田は、創造性を「工夫」と「目的外利用」と捉え、ユニークな事例を紹介しました。

不確実性が高まっている中で企業や組織は自立して問題解決ができるデザイン人材を求めるが、一方で自律性がある人は危険性も秘めていると言われることもある。そのような中で、人はどのように創造性を発揮するべきなのかを考えたいと考えた。
見た目は良くなくても個人の問題を解決することは、工夫でありデザインだと思った。『工夫』は街場の創造性の活路なのではないか。街場の『意味のイノベーション』なのではないかと。(小山田)

続いて発表した猪瀬は、新宿・ゴールデン街で調査を実施。飲み歩きながら話を聞いたりゴールデン街の歴史を調べたそう。

この街の独特のコミュニティや暗黙のルールが存在していることがわかった。そして、この街は常連客にとってのサードプレイスであることにも気づいた。
今のゴールデン街は観光地化しているが、そんな中での『工夫』もこれから覗いていきたい。(猪瀬)

3人目の発表者である岡村は「AIとの共存」をテーマに設定してみましたが、当初なかなかリサーチテーマを絞ることができなかったそう。そこで、まずは手を動かしてみようと、『Design Matter Tokyo』というイベントのワークショップに参加したそうです。体験を通じて、クラフトマンシップの大切さ、主観的な想像力やアナログの良さにあらためて気付いたと話してくれました。

リサーチ内容について発表する岡村

最後の発表は佐藤 史。「創造性を引き出すしかけ、『工夫』したくなる場とは?」をリサーチクエスチョンに、手織り工房で機織り体験をしてきたそうです。

体験を通じて感じたことは、そもそも間違えとは何か、ということ。
機械の出現によって「効率化」という概念が生まれ、創造性が奪われてしまったのではないかと感じた。今回体験した『さをり織り』では何をやってもいい、間違えはないと言われた。それが面白さなんだと感じた。(佐藤)

機織り体験でつくったストールを紹介する佐藤

質疑応答・審査員コメント
小橋:メンバー各自の発表だったが、全体通してデザインの話しに聞こえてきた。共通していることは設計図がないということ。工夫は実スケール、実時間でやっている。設計やデザインは本来実スケール・実時間でやることを抽象化して机の上やPCの中でやるので、工夫はデザインの対局にあるのではないか。
三好さん:デザインリサーチの文脈であるから、デザインにどう結びついていくのかなと思った。純粋な興味から発する観察と前段で整理された問題意識、危機感を持って向き合いたいこと、そこから生まれる実践があると面白いのではないかと思いました。

Team「土着」

Team「土着」は、地域に専門的なデザイナーが介在しなくてもコ・デザイン的な活動を実践している事例を元に、「土着的なコ・デザイン」はどういうエコシステムによって生まれるのか、そのエコシステムに対して、専門的なデザイナーはどう関与するべきかという問いに対して、「複眼的に」捉え、コモンズ、デモクラシー、ケアなどをめぐるマクロな社会構造や価値観の変化を探索しました。発表は会津地方で実施したフィールドリサーチの記録動画の上映から始まります。
その後、「複眼的に捉える」ということで、メンバー各自の視点(Perspective)とインサイトを発表。メンバーによってインサイトはさまざまですが、共通してわかったこととして、「土着」というものは地方や特定の地域に限定されるものではないということです。
フィールドリサーチを通じて起こった自分自身の意識の変化や気づきを話す一方で、小橋はフィールドリサーチで出会ったモノ(古民家を改装した宿泊施設の襖)に焦点を当てて「土着」を捉えました。

フィールドリサーチに行くまでは自分の中に土着はないと思っていたのですが、気づかないうちに自分の中にあるものなんだなとフィールドリサーチに行って気付いた(近藤)

土着とは、自分の生活がどこにあるかを自覚し、その生活に根ざし始められたら、土着が始まる(川岸)

リサーチ内容について発表する川岸。動画の撮影・編集も担当した。

質疑応答・コメント
三好さん:リサーチに行ってみて、一度東京を出てみるとそれまで東京を「対象物」としてみていたものが「自分込み」で東京を考えるようになっていた。デザインリサーチにおいて、このような視点の置き換えは重要だと思いました。
また、皆さんがインサイトを紹介しているのが印象的でしたが、インサイトに結びついていないクエスチョンはあったのでしょうか?
近藤:どちらも。各自で問いを持って現地へ行っきましたが、現地で気づきを得たことが多くありました。

参加者A:会津は歴史や文化のある地域だと思いますが、そういった特質すべきものがない地域でリサーチを実施すると新しい視点が見えるのではないかと。
小橋:「土着」は都市に紐づかないと定義しました。Snow Peakの店員は土着的だと思っていて、販売する製品(ガジェット)を詳しく語れる。それは都市の消費社会にいながら、一つの物に対しての解像度が非常に高いということ。ある地域を主観的に、土着的に捉えようとしたら、できるのではないかと思う。土着はいわゆる田舎を意味するわけではないが、フィールドが変わると視点は変わると思います。

Team「余裕」

とにかくいつも余裕がない、と感じるメンバーで集まったというTeam「余裕」。発表者の中安以外の3人のメンバーが業務都合で発表会に参加できていない、と笑いを誘って発表をスタートしました。
「なぜいつも余裕がないと感じるのか」という問いから出発し、「余裕」とは何かをリサーチしたところで、生活の中で余ったリソースを余裕のまま楽しむ能力・姿勢がないことが「余裕のなさ」だと捉え直し、活動のキーワードを「余裕する力」に設定したとのこと。活動の中では、「あっ」というフィールドワークを実施したそうです。このフィールドワークは強制的に「あっ」と発することで新たな発見を作り出すことができるそうです。フィールドワークを通じて、強制的に周りを見てみることができ、さらには、「余裕とは、自分の外に目を向けること」だと体感したそうです。
発表の中では、とあるコンセント社員が休日に道端でカメを見つけたのでなんとなく追いかけてみた、というエピソードを交え、「余裕する力」を具体的に説明していました。
Team「余裕」はRESEARCH Conference 2024のポスターセッションで発表も行ったとのことです。

リサーチ内容について発表する中安

質疑応答コメント
参加者B:「あっ」のワークについて、「あっ」と言うか言わないかの尺度をどう設定したのか?
中安:尺度を見極めることが嗜好性を探すことだと最初思ったがどうしても恣意的になってしまう。身を委ねるために、さきにあと言っておもしろいことを探していくことにした。対象ではなくプロセスが重要だと思った。

参加者C:結果、チームの皆さんの余裕度はあがりましたか?
中安:自分自身は進捗はないのですが、「ここだと余裕がない状態だ」ということが分かるようになってきたとメンバーで話していた。何が余裕を奪っていくのか、は見えてきたと思います。

三好さん:めちゃくちゃ本質的な問い設定で非常に面白かったし、この共有会にメンバーが忙しくて参加できないという演出もすばらしい(笑)。
問いがリフレーミングされるプロセスがすごく良いなと思いました。問いを一つづつ記述しているから生まれるリフレクション、自己変容。この記述がないと自分の変化の証拠が薄くなってしまう。
また、自分のために驚きをどう設定できるかどうかも重要。「省察的実践(Reflevtive Practitioner)」を書いたドナルド・ショーンは、「良いプラクティショナーは自分にとっての驚き、全てを計画せずにどうなるかわからないけどやってみよう、ということを織り交ぜられることが良いデザイナー・実務家」だと言っていて、そこに踏み込めたことが非常に良いと思いました。
問題設定が毎日感じている問題で、自分の工夫によっては解決できるけど、ちょっと考えなければいけないことというのが重要。
自分が感じていて、他の人も共感する問題は、問題意識ひとつで支える理論や実践が自然発生していくので、今は問いの設定が一山超えた状態だと思いました。ここから研究を進めていく上でどうしていくのか、問題設定をどうするか、また山はあると思いますが、この先が非常に気になっているので、引き続き聞かせてほしいです。

発表後は懇親会も兼ねたリフレクションタイム

各チームの発表後は、活動メンバーやゲスト、共有会参加者で懇親会も兼ねたリフレクションタイムを実施しました。まずは乾杯から。しばらく歓談した後に、各自が気づきや感想、意見、今後議論したいトピックなどをMiro上の付箋に貼っていきました。

当日気づきや感想、意見を書き込んだMiroボード
Miroボードを眺めながら感想を述べたり意見交換を行った

「問いを立ち上げるのは難しかった」「どうやって問いを立ち上げているの?」といったものもあれば、発表者に対する共感、中には「どっぷりリサーチしたくなった」というコメントも。
「この活動がコンセントらしい」「普段の仕事をしながらこういった活動もできるのがすごい」といった活動自体に対するコメントも多くありました。

ここまでの活動で感じたこと

このひらくデザインリサーチの活動は今年も引き続き継続していきます。ここからさらに問いが深まってさらなるリサーチを続ける人もいれば、新たな問いを立ち上げる人もいるでしょう。各自の活動がとても楽しみです。

私自身はTeam「土着」のメンバーとしてこの半年ほど活動をしてきましたが、普段のお仕事では「プロデューサーはクライアントの課題解決のために提案をしなければいけないのだ」とか「このプロジェクトの本質的な目的と導かなければいけないゴールは…」と考えるクセがついていることに、改めて気づきました。それは職業柄必要なことなのですが、時には深く考えすぎずにやってみる、行ってみることで、想像しなかったような気づきや充実感が得られるのだと思いました。
ここで得た経験や知識、気づきが普段の業務に何かしらの良い影響を与えてくれると良いなと思うと同時に、お仕事から少し離れた自分の関心事に向き合う時間を作れるというのは、まさに「余裕」だなと感じました。

最後に、このイベントのレポート動画をYouTubeにアップしていますので、そちらもぜひご覧ください。ここではゲストの三好さんのコメントを一部抜粋してご紹介します。
ひらくデザインリサーチ2023年度活動共有会 YouTube動画

普段、会社でサービスデザインやUXデザインをしている方がアカデミックなデザインリサーチに興味を持っていることが興味深い。僕はアカデミックから産業に入った。ここからどう接続するかが楽しみ。将来的に学びを交換し続けられる関係性ができたら非常に良いなと思っている。

三好 賢聖さんコメント抜粋


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