誰も教えてくれない会社の印鑑のこと
リーガルとして長く働いている中で日常なことでも他の部門や新人さんでは経験することがなく知らないということもあるのかなあとおもい、頻繁に社内から質問をいただくことを説明してみる記事を書いてみようと思い立ちました。
先日社内でひっそり公開したところ、結構多くの方が見てくれたようですので、もしかして困ってる人多いのかなあという気持ちで、noteに書いてみることにしました。
会社の印鑑の選び方、質問をよくいただきます
「会社でつかう、角印と代表印のちがいって一般的にはわかるけど・・どういうときにどちらを使う”べき”か、というのがいまいちわからない。社印むずい。」という質問やコメントを社内よりいただきます。結構頻繁に。
Webにもたくさんの情報はあるので、用語とか基本は理解した、でも自分の手元の書類を見ると、どれなんだろう・と迷う。
質問をいただくときには、基本をふまえつつ、ケースバイケースで書類をみながら答えています。とはいえ、いつもケースバイケースでは良くないなあとおもったので、印鑑の違いや理由を知っている限りでまとめてみます。
そもそもになるので、日頃の業務で急いでるときの参照には向きません。
そういうもんなんだなあというビジネス歴史Tips的なことがわかればよいかなぁと。
知らなくても不自由はないですが、知っておくと少しためになることもある。それが印鑑。
あとは、時代的にも脱ハンコですよね。電子サインのことまで触れてみたいとおもいます。
基礎知識
小学生の自由研究で「はんこ文化」をまとめたものを一昨年見つけたのですが、小学生すごすぎ。数十年生きてきたのに知らないことばかりでした。一読の価値ありです。
そして、印鑑の種類とか用途は、検索すればありとあらゆる情報が出てきますので、読みやすいものを読むといいと思います。
ハンコヤドットコム|印鑑うんちく事典
知っておきたい印章管理の注意点
ビジネスで使う「角印」と「丸印」の違い、説明できますか?
会社で、そもそも印鑑の役割って?
会社の印鑑を押す書類・・を想定して、印鑑の役割を考えてみます。
内容への責任を示す
「その書類の内容に責任をもちます」ということを印鑑という見た目で表す。責任っていろいろありますので深い話ではありますが、書いてある内容に加えて、内容が間違っている場合や誤字脱字がある場合の勘違いがあったとしても、そこに書かれている内容で責任を引き受けることになります。
その書類を外に提示する権限があることを示す
印によって「会社を代表して、書類の内容を外部の人に対して約束する」ことになります。
紛争の証拠書類になる
トラブルを超えて訴訟になったら、証拠書類として印やサインの有無があるかどうかはすごく大事なことなのですが、紛争時のお話は印とはまた別の深い論点になるので、この記事では省きます。ご興味あれば、こちらの記事など参考に。
今回説明するのは代表印と角印
印鑑にはいろいろと種類があるのですが、この中では役割についてよく迷うと思われる、代表印(この絵でいう「会社実印」)と角印で説明します。
ハンコヤドットコムさんのサイトから引用させていただきました。さすが印影もわかりやすいですね!
印鑑を使い分ける意味は?
「誰が」その書類の内容と権限に責任を持つか、ということで決めます。
そもそも「会社」という存在で印を押すってなんなのか
会社の印鑑なので会社が約束してる、となりますが、具体的には「会社の誰か」が責任をもって印を押すことを決めます。印鑑を選ぶ際には、会社自身ではなく、「会社の誰?」を特定することから始まります。
代表印のこと
代表印は「社長が」責任と権限をもつ
会社の代表者=代表取締役社長が責任を持ちます、という書類に対して使います。
先に上げた代表印は、「ハンコヤドットコム株式会社代表取締役印」(たぶん・・)という文字が書いてあります。印鑑おしたところをそうだと思ってじーっと読んでみるとぼんやりわかりますので、ご興味あればぜひ、自社の契約書の印影を見てみてください。
つまり、代表印を使う典型である ”契約書” は「社長」が契約を果たすことを約束している書類であるという意味を持ちます。
そして、代表印が必要な書類かどうかは、下記によってかわります。
■法律で決められている場合は絶対
■その会社ごとの仕事の権限をどう社内規程で決めているか
例えば自社では代表印が必要ない書類でも、相手先の会社の社内規程では違って代表印が必要!といったこともありえますし、その逆もありです。
代表印は社長以外の人の名前でつかえるのか?
印鑑を押す場所の近くに必ずテキストで「代表取締役社長+社長の氏名」と書いてあるのはイメージできるでしょうか。印鑑はそれだけで使わず、記名を組み合わせてつかいます。それを「記名押印」といいます。
(これは調べてわからなかったので私見なのですが、テキストと印を組み合わせる理由は、印鑑だけだと読めないからだと思います。英文契約でサインする時もグニャとしてそれだけでは読めないので、役職と氏名のテキストを併記するのだと思う。特に英語のサインって一切読めないですよね・・)
代表取締役の印鑑と、別の人の名前の組み合わせはありません。
相手とやりとりする担当者のなかで一番えらい人、例えば本部長などの役職者を相手先が丁寧に書類に書いてきてくださることもありますが、代表印の場合は社長名以外との組み合わせはNGです。
ちなみに、代表印は丸いので「丸印」と呼ばれますが、丸印=社長ではなくて、丸印=事業部長 などのケースも会社によってあります。これは、その会社で正式に契約の締結権限を事業部長に設定しているからです。
印鑑は偉さによってお辞儀する?
電子契約が話題になりはじめたころ、印鑑を少し傾けてお辞儀しているようにみせるとか、不思議な機能をつけた話はご存知でしょうか。人の責任を表す印鑑なので、複数人が押す書類の印鑑を傾けようとかそういう発想が登場します。機能とは別に、人とか組織を表すというのをまさに表した例かと・・もちろん礼儀とか雰囲気の問題であって、責任とはまったく関係ありません。
代表印?代表者印?丸印?
呼び方はいろいろあります。どれも正解です。
実印は印鑑登録している場合のみ使い、印鑑登録しなければ認印です。
角印のこと
角印は会社の正式な書類を示すがスタンプにすぎない
角印は、「会社名」が書かれた印鑑です。
そこに、「誰か」の存在がありません。角印を使う場合は、会社として発行している書類に間違いはないということを示しているだけで、誰かが約束をするほどの責任を負う内容には使えません。
角印は会社の名前を書いているだけなので、重みとしてはシャチハタとかスタンプに近い存在です。一応会社として正式な書類ですよ、と示す必要があるが、契約上の義務を重く負うものではない、というケースに使われます。
例えば請求書には角印が使われることが多いですが、法律上、請求書に印を押す必要はありません。
印を押さなくても、請求書は有効で、請求相手には支払い義務が発生します。
角印の役割は、会社として正しく発行している(不正に発行していない)ことを示して、書類の信頼性を向上させることにあります。
誰が押すのが正解?
そもそも、代表印は、社長名が書いてあるので社長自身が持っていて、社長が印を押すのが正しいはずでなんで法務が印鑑を押していいのでしょうか。
それは、会社のルールである「印章管理規程」で決めています。
会社として印鑑をどう作って誰が管理するか、何の目的で使うかが書いてあります。
この印章管理規程によって、法務が社長の代わりに代表印や角印を押してもいいということや、そのための手続きが決められているので、できるわけです。
たとえば、この印章管理規程を知らずに部門で印鑑を作ったり、契約締結のルールを作ってしまうと、規程違反になってしまい、最悪のケースでは懲戒の対象になります。私文書偽造という罪にもなります。法務に頼むのは申し訳ないし、便利だから自分で作って持っておこうとか、社員が手続きを知らずに自分で契約手続きやってしまおうというのはNGというのは、この規程で決められていることが理由です。
電子サインのこと
印鑑の時代は終わり?電子サインって?
電子サインとして、弊社でもクラウドサインを早くから使い始めていますし、2020年のコロナ禍から、在宅勤務が増えて世の中でも脱ハンコが加速しました。
そういえばと思いまして、弊社の契約書への電子サインvs紙捺印を調べてみました。
2021年7月末の今日現在、約7割が電子サインです。印鑑の捺印はだいぶ減ってますね!弊社で利用しているのはクラウドサインですが、一度使うと便利なので、使ったことが無い方は是非チャレンジしてみてください!
電子サインは「誰」が契約者になるのか?
せっかく代表印と角印を使い分けたりしているのに、電子サインではその区別がなくなります。
電子サインの場合も「内容に責任をもつ」「締結に権限がある」のは「誰なのか」がキーになります。
印鑑で行っていた「代表印」の役割は、電子サインでは「メールアドレス」で示します。メールアドレスが権限を持っていることを示すわけです。
電子サインでは、印鑑ではなく、メールアドレスによる認証で本人確認をできるような仕組みになっています。(細かく知りたい場合、こちらがとても詳しく書いてあります。)
そのため、例えば会社として最も重要な書類のひとつである「登記」に使う書類を電子サインで行う場合、代表取締役社長のメールアドレスによって電子サインに同意した証跡書類の役所への提出が求められるケースなどがあります。
ただ、全てのビジネス上の契約書で、「代表取締役社長」が契約にサイン対応するというのは現実的ではないので、証跡が必須でない場合には、代表取締役社長の代わりに捺印対応部門のアドレスを使って会社としての電子サインを行うことがあります。印章管理規程に従って指定された部門が代表印の押印を代理しているのと同じ考え方です。
相手先の会社の電子サインのルールによっては、グループアドレスでは「責任と権限を持った個人かどうか」が判断できないため、グループアドレスが利用できないと言われてしまうケースもあります。
また、実務で電子サインの依頼メールを受け取る担当者とサイン権限者が違う際に転送を許すと本人かどうか確認できなくなってしまうので制限するケースがあったり、そもそもタイムスタンプの認証基盤が弱い事業者も時々見かけます。電子サインのベーシックルールはまだ揺れていて、会社によって様々なので、印鑑の取り交わしのようにまだこの方法で完璧!というルールができていないのが現状だとおもっています。
電子サインに印鑑の種類はあるのか
ありません。例えば弊社で利用しているクラウドサインには印鑑のような赤い丸い枠がありますが、単なる画像です。画像はハンコ文化をなくせなかった名残の”雰囲気”にすぎません。Docusign やAdobe Signでは印鑑だけでなく手書きサインが選べたとおもいます。
ですので、「電子サインで角印を押したいので四角にしてほしい」といったことは意味のない話だったりします。
そして、「 今ある印鑑の画像をスキャンして印影をつくったら便利?」思うこともあるかとおもいますが、印鑑とおなじくNGです。画像に意味もないですし、印章管理規程違反や、私文書偽造の可能性にもなりますので、捺印担当部門に確認しましょう。
まとめ
長文になってしまいましたが、印鑑は難しいですよね。印鑑は文化としての歴史が長いので、そういうものだと思っていただければよいかと!
なにより、印鑑を押すためには紙が必要で、そのために出社したり印刷したり製本したり、印紙税を払ったり、終わったらスキャンして保存場所確保・・があります。
なので、この記事の結論は、印鑑文化は理解しつつ、「電子サイン便利なのでぜひ使ってほしい!」でした!
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