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日本経済を分析するためのノート(9)

さて以上見てきたことに踏まえて日本経済の特質と構造について考えてみましょう。

日本の名目GDPは現在世界第4位です。しかし一人当たりではOECD加盟38か国中、2000年の2位から2022年には21位に落ち、G7の中ではイタリアにぬかれて最下位に転落しました。アメリカの半分以下の値です。
平均賃金は2021年のOECD調査では加盟国中25位。こちらもG7では最下位でお隣の韓国よりも下。値は平均の78%程度です。

厚生労働省政策統括官付参事官付 雇用・賃金福祉統計室
「毎月勤労統計調査 令和4年分結果速報の解説」よりhttps://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r04/22cp/dl/sankou22cp.pdf

経済成長率は1995~2020年の25年間平均で、
日本0.6%、アメリカ2.2%、イギリス1.6%、フランス1.2%、ドイツ1.1%
となっています(出所:厚生労働省)。
2013年のアベノミクス以降をみても下のグラフの通りです。

「社会実情データ図録」https://honkawa2.sakura.ne.jp/4400.htmlより

なぜこのように停滞しているのでしょうか。それは以下のような構造のためです。
①2010年頃まではなお国際競争力を有していた日本の電機産業が、韓国・中国などにキャッチアップされるとともに、半導体やスマートフォンなどの電子機器製造で遅れて、部品生産へと転じざるを得なかった。
さらに日本の諸企業は安い賃金を求めてその生産拠点をアジア諸国へと移していった。
この結果、日本経済の成長を牽引してきた輸出が伸びず、貿易収支は赤字基調へと転落した。
②労働者の賃金は労働の規制緩和によって、非正規雇用が拡大しそれに伴い賃金水準が低く抑えられつづけてきた。
③その一方で、企業の蓄えた利潤は投資に回されるものは少なく、現預金として手元に置かれつづけた。
そのため投資需要は伸びず、生産の効率化も進まなかった。
国内企業には1970年代や1980年代につくられたプラントを補修したり改善したりしているものもあり、そうした旧来の設備にコンピュータを組み込んで使用した。
④将来への不安から家計の貯蓄は黒字(2013、2014年度のみマイナス)、企業も黒字で、資金需要は伸びず、銀行の預貸率は低下したままであった。もともと日本の金融は間接金融中心のシステムであり、金融自由化の中で銀行は投資銀行的業務を拡大しはしていたが、アメリカのような投機的なことは避けた。そしてむしろ海外での業務展開に積極的に乗り出した。
こうして消費も投資も伸びず内需は停滞しつづけた。
⑤この金融機関に滞留した資金を、政府が国債を発行してそれを銀行が購入し政府が支出することによってかろうじて景気の大きな落ち込みが回避されてきた。この結果、政府の債務残高が大きく膨らむことになった。
⑥産業構造はサービス産業中心のものにいっそう進んでいった。
⑦安倍政府のもとで「金融の量的緩和」によってマネタリーベースを増やしたが、投資には回らず、日銀による国債の大量の買い付けも銀行の日銀当座預金勘定が増大するに終わってしまった。
一方、この政策によって進んだ円安で多少の輸出の増加はみられたが、海外生産比率が高まっており、効果は限定的なものに終わった。
⑧ちなみにこんにちの物価上昇は、農産物の値上がりと円安のために輸入品の価格が上昇しているためであり、所得の海外への漏出であり、日銀が目指していたものとはまったく異なる。

つづく

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