『日本共産党の百年』読書ノート その14


(5)第5章部分

過渡的な時期の自衛隊活用

『百年』の「第22回大会」(2000.11)の部分。
『百年』は、自衛隊の段階的解消をめざす道筋として、
 ①安保条約廃棄前の段階(民主連合政府ができる前)
 ②安保条約が廃棄された段階(民主連合政府ができた後)
 ③国民の合意で、自衛隊の段階的解消にとりくむ段階、
という3つの段階をふむことを示した後に、次のように記述する。

自衛隊が一定期間存在する過渡的な時期に、急迫不正の主権侵害…など必要に迫られた場合には、自衛隊を国民の安全のために活用する

『日本共産党の百年』p45s3

上記のとおり、『百年』は、「『自衛隊が一定期間存在する』過渡的な時期」と書いている。民主連合政府ができる前の第①段階と、民主連合政府ができた後の第②段階が、自衛隊が存在する「過渡的な時期」だということである。

念のために、第22回大会決議の本文を以下に引用する。

自衛隊が憲法違反の存在であるという認識には変わりがないが、これが一定の期間存在することはさけられないという立場にたつことである。これは一定の期間、憲法と自衛隊との矛盾がつづくということだが、この矛盾は、われわれに責任があるのではなく、先行する政権から引き継ぐ、さけがたい矛盾である。憲法と自衛隊との矛盾を引き継ぎながら、それを憲法九条の完全実施の方向で解消することをめざすのが、民主連合政府に参加するわが党の立場である。
そうした過渡的な時期に、急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要にせまられた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する。

第22回大会決議
https://www.jcp.or.jp/jcp/22taikai/22th_ketugi_201125.html

ところが、第22回党大会(2000年)当時から、「過渡的な時期」は第②段階(民主連合政府樹立後)だけで第①段階(民主連合政府樹立前)は含めない、と共産党は解していたようである。
すなわち、民主連合政府ができるまでは、急迫不正の主権侵害があっても自衛隊の活用をしない、との見解だったようなのである。(注)

志位和夫『綱領教室第3巻』(2013年6月刊行)を次に引用する。

こうした段階的解消という立場に立ちますと、民主連合政府と自衛隊が共存する時期が不可避的に生まれることになります。その時期にどういう対応をするのか、…
そうした過渡的な時期に、急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要にせまられた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する。」
ここまで答えを出したのです。

志位和夫『綱領教室第3巻』p76

『百年』の記述のように「自衛隊が一定期間存在する過渡的な時期」と書かず、志位委員長は「民主連合政府と自衛隊が共存する時期」と書いている。
この引用文の前には、第①段階における自衛隊活用のことは何も書かれておらず、自衛隊活用は第②段階の時期だけが対象であることが前提の叙述となっている。
すなわち、民主連合政府樹立前の「さしあたって暫定政府」の段階(第①段階)では、
・自衛隊活用しない、
・自衛隊活用するかどうか決めていない、
・自衛隊活用すると決めていたが公表しないことにしていた
のいずれかだったということになる。

その後、2000年の第22回大会から十数年後の2015年10月17日に、志位委員長は、記者会見において、戦争法反対国民連合政権(「さしあたって暫定政権」)における自衛隊政策、安保条約について問われ、次のように回答している。

戦争法を廃止した場合、今回の改悪前の自衛隊法となります。日本に対する急迫・不正の主権侵害など、必要にせまられた場合には、この法律にもとづいて自衛隊を活用することは当然のことです。…
日米安保条約では、第5条で、日本に対する武力攻撃が発生した場合には(日米が)共同対処をするということが述べられています。日本有事のさいには、連合政府としては、この条約にもとづいて対応することになります。

 2015,10,27 志位委員長の外国特派員協会講演 出席者との一問一答
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-10-17/2015101704_01_0.html

そして、同月29日の記者会見で、戦争法反対国民連合政権における自衛隊活用や安保5条による対処は、十数年前の党の決定にもとづくものだと回答した。

ここで強調しておきたいのは、これらの方針は、いま唐突に言い出したことではなく、すでに党の決定として明らかにしているということです。
自衛隊については、急迫・不正の主権侵害など、必要に迫られた場合には、自衛隊を活用するという方針を、2000年の第22回党大会で決定しています。…私たちが「国民連合政府」との関係で明らかにしている方針は、党の綱領・決定ですでに明らかにされていること…
日米安保条約については、その廃棄論者と肯定論者によって構成される暫定政権の場合に、安保条約にかかわる問題を凍結するという方針は、1998年8月の不破委員長(当時)のインタビュー、9月の第21回党大会3中総で私が行った幹部会報告で述べており、党の決定となっています。

2015.10.29 「国民連合政府」について 志位委員長の記者会見
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-10-30/2015103002_01_1.html

第22回大会(2000.11)時点では、第①段階(民主連合政府樹立前)で自衛隊活用すると明言していなかった。
にもかかわらず、あたかも第22回大会当時から第①段階(民主連合政府樹立前=戦争法反対国民連動政府)で自衛隊活用をするとの見解を発表していたかのような回答になっていないだろうか。
『百年』の記述は、当然、2015年10月29日の志位委員長の回答の線にそった内容となっている。

念のために言っておくと、本noteが注目している点は、どの段階で自衛隊活用すべきかという政策の是非ではなく、『百年』という党史において第22回大会当時の党の見解をそのとおりに記述できているかどうか、である。

(注)過渡的な時期における自衛隊活用に係る問題については次を参照した。
松竹伸幸『改憲的護憲論』(2017.12)
同「11年前の懐かしい論文・了」(2016.7.29)
 http://www.kamogawa.co.jp/~hensyutyo_bouken/?p=2451  


つづく

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https://note.com/aikawa313


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