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上村裕香『ほくほくおいも党』 雑感その1

X(twitter)で流れてきたポストに目を奪われた。
「お父さんは、なんでわたしたちを共産党にいれたの?」

このあまりにも強烈すぎるコピーとかわいい女の子のイラスト。
作者は現役学生のようだ。
なんなんだこれは?

しかも、作者は「民主文学」の新人賞受賞者でもあるらしい。
「民主文学」とは、小林多喜二らプロレタリア文学の正統なる後継団体が発行してる雑誌て、掲載される作品の多くが日本共産党員の手によるものだ。
そういう雑誌で新人賞を取った子が「お父さん、なんでわたしたちを共産党にいれたの?」である。
これはやばい。

紹介文を読むとさらにヤバかった。

極左政党の父をもつ活動家二世である千秋は、父の政治活動が原因で引きこもりになった兄をネット上で追いかけるうち、活動家二世の集まるコミュニティ「ほくほくおいも党」に接触し、政治家の父をもつことの苦しみを直視していく。父の知事選の投票日前日、テロを画策する兄と父、千秋が辿りついた親子の決着とは――。

極左の父がなんで娘を共産党に入れるのか?
もしかして作者は共産党と極左の区別がついてないのか?
テロを画策って、東アジア反日武装戦線なの?
なのにタイトルが「ほくほく…」という、ゆるふわ系。

これは挑発なのか、作者上村裕香は左翼運動をよく分かってないふわふわ女の子なのか、それを演じているだけなのか、いずれにしろ物議を醸すであろうコピーと紹介文。
わたしは即購入を決めた。


◆父と娘という普遍的な問題

煽ってしまったが、この小説の本当のところはなんなのか、京都芸術大学学長賞の講評によれば

…極左政党の父をもつ活動家二世の物語。選挙で負け続ける父と、引きこもりの兄に苦悩する主人公の女子高生は、家族を揺るがすスリリングな出来事を経て、やがて父と娘という普遍的な問題に向かっていく――。
 本作を書くにあたって、著者は…実在するさまざまな活動家二世へのインタビューを重ねた。そうして獲得した素材を、…「フィクション」の企画・構成術で緻密に編集し、その結果、主人公のみならず他の多くの活動家二世の人生が垣間見える、多面的かつ立体的な小説を生み出した。…

読みすすめれば、親と子の関係という普遍的なテーマが。徐々に浮き彫りになっていくのがわかる。その舞台装置が共産党活動家の家庭というわけだ。

思いっきり超単純化すると(怒られそうだが)、親と子の関係を描くのに、庵野秀明はエヴァンゲリオンとという世界に、シンジとその父・碇司令を登場させた。上村裕香は日本共産党X県委員会という世界に、千秋とその父・豊田X県委員会副委員長を置いた、と言えるかな。どちらも、父から十分な説明のないまま半ば強引に、エヴァに載せられ/共産党に入党させられてるし。

なので、共産党に関心も興味もない人でも、講評の先生が言っているとおり、ちゃんと深みがあって、おもしろく読めるものとなっているので安心して読んでほしい。

共産党員の人も、小説のなかでは、共産党のことを「極左」と書いてないし、共産党員や二世たちのこころ模様が本当にうまく描かれているので、ちょっと泣いちゃうかもしれないが安心して読んでほしい。

つづく
つづきは、ビラ配りと子ども、そもそも活動家とは、とかについて。



『ほくほくおいも党』単行本は、オンラインで発売してましたが完売していて再版の予定はないようです。
が、商業誌で連載予定とのこと。未読の方はそれを待ちましょう。

商業出版ではムリだと言われ続けていた本作ですが、奇跡的に小学館「STORY BOX」で4月号(3月10日掲載)から半年ほど連載予定です(わたしが原稿を落とさなければ)。BCCKSでもSTORY BOXでも、ぜひお読みいただければ幸いです!


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