見出し画像

神谷貴行氏裁判と日本共産党専従活動家=労働者論についてのメモ

(1)
党県委勤務員(非役員)だった神谷氏が除籍時に労働者であったかどうかが訴訟の一つの論点ではあるが、"専従一般"が"労働者性"を有するか、が話題になっている。
ただ、非役員の各級機関勤務員、県地区常任委員、県地区委員、中委常幹、大経営党委専従、団地専従、各級議員は、どれも専従だがすべてを一括りにして議論はできない。
非役員勤務員といっても、県委労対オルグ、地区委総務事務員、赤旗出張所員、赤旗記者、中委情シス部員などその態様はさまざま。
具体的な職種・職階を示さずに専従一般の「労働者性」について語っても、多くの人に混同と誤解を招くだけである。
専従活動家の実態は、外部の人間にはよく分からない。
神谷氏が県常任委員だった時、県機関専従者(議員を含む)の人事や給与を決定する権限を有していたのか、県委員や地区専従者に対してどのように指揮命令していたのか、地区委員長は自らの給与額を自ら決定できず県常任が決定していたのか、製鉄所党委員会の専従はかつては県党からの分配金なしでも置けたはずだが彼も「労働者性」があるのか、さしさわりのない範囲でなら神谷氏も党側も説明できるだろう。

(2)
また、現状の共産党組織の運営が非民主的で、勤務員の意見が党運営に反映されないため、実態として指揮命令を受け業務を行っている(「労働者性」を帯びている)が、民主的に運営されれば、指揮命令を受けることなく自主性自主的に勤務することが可能になるので、そういう組織運営となるよう改善すべきだと考えているのか。
このあたりの点についても論じていかないと、神谷氏(または党中央)への賛同は広がらないだろう。
まさか、自民党の党職員のように、議員の秘書仕事や事務処理・会計処理だけを行い、組織運営に関する決定権はなにもなく、自らの意見を上級に反映させる制度的な保障もなく、議員からの指揮命令に基づいて従事する(「労働者性」を帯びている)ような運営に変えたほうがいいとは考えていないであろう。
神谷氏は、自身が「労働者」である証拠として、就業規則や労基法に基づく解雇通知をあげている。裁判所に提出する証拠としてはそれで十分なのかもしれない。また、一部の法律家や労働法研究家にとっても、それで十分なのであろう。
だが、日本共産党としては(復党をめざす神谷氏自身も)、革命運動論や組織運動論から説き起こして専従活動家=労働者論を述べる必要があるだろう。
「50年代の山村工作隊の時代ではない、アップデートしないと若い者はついてこない」という主観的な議論ではなく、レーニン『なにをなすべきか』への批判からはじめて現代大衆的前衛党論を展開しないといけない。日本における協同組合労働者論争も関連しそうだ。
あるべき現代第集的前衛党の組織運営の定立なしに、専従者を労働者として取り扱ったほうが革命運動が進む、とかは簡単には判断できるものではない。

(3)
ただ、話はもっと単純かもしれない。
日本共産党は、かつて、袴田裁判において、専従活動家は党機関との有償委任契約によるものと主張してきた。会社の取締役などと同じで、専従者は労働者ではなく有償委任契約相手だというものである。
しかし、委任契約者として取り扱うと、社会保険には加入できるが、雇用保険や労災保険の対象者とならない。
そこで、便宜上「労働者」として雇用保険等に加入すようにしたのではないか。また、健康面への配慮からも就業規則などの規定を定めていったのであろう。
これら「労働者扱い」は各種制度を利用するため便宜的に行ったものであって、あくまで、共産党としては雇用・被雇用の関係ではなく、有償委任契約関係だと認識しているのだろう。
日本の法制度が共産党のような組織に合わせて設計されているわけではないので、党組織の運用実態が法制度と齟齬をきたしたとき、どのように対処するかは難しいところである。
便宜的労働者扱いを逆手にとって、労働諸法上の労働者としての扱いを全面的に認めよとの意見も、無理があるところである。

(4)
そもそも、この事案の発端は、(a)県総での自らの少数意見の発言内容及び県総決定になお反対であるが決定には従う旨を党機関の承諾なしにブログに公開したことが党規約に反するかどうか(b)自己批判しなければ除名する旨の県党幹部の発言その他ハラスメント行為等を伴ってなされた除籍措置が党規約に照らして適切であったかどうか、であろう。
そこでは労働者であるか否かは本質的な問題ではない。
しかし、法に基づいてしか判断できない裁判所に訴えるにあたっては、県党幹部の行為が党規約に反しているか否かというスキームで訴えるのでなく、勤務員解雇が労働諸法上違法であるというスキームで訴えるほうが効果的である。
そのため、政党内部の組織運営の問題が労働者解雇問題に変異し、かつ論点の中心も別物になって表出しているのである。
これは、神谷氏の争訟における個別問題として論じればよいのであって、いたずらに論点を一般化させなくてもよい。
政党組織運営の問題も労働者解雇の問題も関連はするけれど別々の問題であり混同してはいけない。後者の問題では共産党側に批判的であっても前者の点は問題視しない人がいることやその逆の人もいることを前提に別物として議論しないといけない。

(5)
最後に、上記(a)(b)の問題にからめて民主集中制そのものが適法であるか否かを裁判所に直接判断してもらうため、政党は国家の統治機能のなかの重要な特別の団体であるから裁判所は政党に介入すべきだと主張する人がいる。
この論理は政党法による政党への積極的介入を認める論理に容易につながるもので、大変危険なものであることを指摘しておく。自民党が政党民主化のために政党法導入しますと提案してきたら反対できるのか、党支部総会で支部長選挙が不正なく実施されたか行政職員が監視するような法律を認めるのか、そういう問題である。

いいなと思ったら応援しよう!