上村裕香『ほくほくおいも党』 雑感その4
◆専従活動家と二世
『ほくほくおいも党』には、活動家二世たちが集うコミュニティーがでてくるのだが、そのメンバーの加入条件がこうなっている。
専従活動家と非専(専従ではない)活動家とで決定的な違いはある。それは、専従活動家の給料の少なさと遅配からくる、その経済的不安定さであろう。子らにとっては専従活動家家庭に共通の体験であるだろう。
ただ、『ほくいも』では、県営住宅に住んでいること以外はとくに貧乏には触れられていない。「なに食べたい?」では、父が専従活動家で幼いころからの貧乏生活ゆえにお金を使うことへの恐怖とその克服がメインテーマだったのだけど。
ほかにも、専従と非専との決定的な違いとして、選挙に立候補した場合、親が共産党であることが天下に知れ渡ることになることだ。子にとっては強烈な体験だろう。
このようにちょっとおどけることもできるけど、それは一面であって、そうでない面もあるわけで。
ただ、共産党であれ自民党であれ無所属であれ、親が選挙に出れば天下周知となることは同じで、共産党の子に特有の現象ではないともいえる。もっとも、共産党は、まだまだ勢力が小さくてそれゆえ肩身のせまさを味わうし、落選し続けていても立候補し続けるところが他党と違う。
なお、専従活動家で選挙にでない人も多く、そういう党員の子は衆目を集めることもない。
◆活動家二世・エントリーメソッド(1)
これが、『ほくほくおいも党』における、千秋の入党シーンだ。その時、千秋は、十八歳になった兄への入党勧誘攻勢を想起する。
小説だから脚色してるだけなのか。だけとほんとにあった話のような気もするーー。
赤旗や共産党の雑誌などで、共産党員の親をもつ子も党員だという話は時おり目にするけれど、そこでは、親がどんな活動をしていたか、それを見て育った自分がどう影響を受けたのか、入党するに際しての葛藤の有無や、そして今現在の自分自身の気持ちや親との向き合い方をどう昇華させたのか、などをテーマにして語られることが中心だった。
そこで、ちょっと視点を変えて、以下、活動家二世の入党エントリー過程に焦点をあててみることにする。
入党(加盟)段階における手法・フローがメインとなる。
また、活動家二世とは、二世本人が真面目に活動していなくても、赤旗を読んでいなくても党費も払っていなくても、入党申込書を書き共産党員になった人(加盟申し込みをして民青同盟員になった人)で、まだ自分には党籍がある(または同盟員であると)と思っている人たちとしておく。
こういうのは、共産党的には実践論抜きの形式論で無意味なものに映るかもだし、文学的には散文的に見えるかもしれないけど気にしない。
前提となることを、さきに書いておく。
まずひとつめ。
親が共産党員でも党員でない人やそういう方面と何のかかわりもない人もおおぜいいるが、そういう人のことについてはちょっとは触れるかもしれないが、範疇外と思ってほしい。
ふたつめ。
誤解のないように言っておくと、共産党員のなかで、親が共産党員だという活動家二世は少数だ。そうでない人のほうが多い(はずだと思う。体感的に。民青の場合はそうでないかもしれない。そもそも共産党もそういう統計をとっていないと思う)。
みっつめ。民青同盟(民青)ついてここで説明しておく。
民青は15歳から30歳までの青年組織で、①青年の民主的要求実現や平和のためにたたかうこと②日本共産党綱領・科学的社会主義(マルクス主義)を学ぶことを目的とし、③日本共産党から指導と援助を受ける団体だ。共産党青年部と言う人がいるけど、民青は共産党とは組織としては別団体で、民青同盟員は共産党員である必要はなく、逆に共産党員でない同盟員のほうが多い。民青の都道府県委員会の役員のなかにも共産党員でない同盟員がいるくらいだ(共産党としては同盟員のなかの党員の比率をもっと上げたいと考えている)。
高校生の同盟員はもっぱら科学的社会主義や日本共産党のことを勉強したり生徒会執行部で活動または平和学習を広げる活動をしたりするだけで、実際に政治活動にまで手を広げるのは卒業してからだ。
18歳になると共産党に入れる年齢になるので、民青に加盟して約1年以上経過してそれなりに活動を続けていたりすると、共産党員から入党の勧誘をうけることになるだろう。
ただ、『ほくいも』主人公・千秋のように、高校在学中に入党を勧められるのは稀有な例である。
つづく
まえがきが長くなってしまった。つづきは、活動家二世のエントリーメソッド各論。<外部注入・地域型>とか<自然成長・放置型>とかその他各種のタイプとか
『ほくほくおいも党』単行本は、オンラインで発売してましたが完売していて再版の予定はないようです。
が、商業誌で連載予定とのこと。未読の方はそれを待ちましょう。