上村裕香『ほくほくおいも党』 雑感その3
◆赤旗って、なに
『ほくほくおいも党』は読者にやさしい。「赤旗」とは何であるかを説明してくれるのだ。
「赤旗」が共産党の日刊の機関紙だと小説内で解説する人をこの作者以外に見たことがない(あったらすいません)のでまたまた嬉しくなった。
『パルタイ』(倉橋由美子)なんかパルタイが何であるかは一切書かない。パルタイが何かわからん人は読んでいただかなくて結構という高飛車な小説である。
プロレタリア文学・民主文学に近い作家らの小説も「ハタ」や「赤旗」を説明しないのは、読者が知ってて当然と思っているのだろう。
しかし、『ほくいも』は違う。「分からんかったらググれよ」ではない(ように作者が見せているのかもしれないけど)。
『ほくいも』が一般読者を対象にした小説だからだろ?と思う人がいるかもしれない。
だが、作者の場合、月刊誌『民主文学』に掲載された小説でもそうなのだ。『民主文学』は日本民主主義文学会発行の雑誌で、同会はプロレタリア文学の系譜を引く「人民の立場にたつ民主主義文学」を標榜する文学者の団体だ。掲載作品の作者は共産党員が多い(と思う)し、購読する人も党員の人がほとんどだろう。
わたしはこの部分を読んで、その新感覚に仰天した(『ほくいも』を読む前にこの短編を読んだのだ)。
これぞいま、民主文学どころか、現在の社会運動、さらには日本の共産主義運動に求められているものではないのか?と。労働者階級の歴史的使命を自覚するもっとも先進的で不屈な日本共産党員たちは、おおくのひとに語りかけるとき、ここから出発しないといけないのではないか?と、ひとりで盛り上がっていた。
「なに食べたい?」は、第19回民主文学新人賞受賞作なんだけど、作者がわざとこういう文章を入れたのなら、それは成功していると思う。このレトリックがあることで、この小説の有り様、主人公や作品世界への読者の感じ方が、がらっと変わる。僕もここにいてもいいよね的なやさしい世界が広がるのだ。
ちなみに、「なに食べたい?」は、その冒頭で民青同盟(民青)についても説明してくれている。
『ほくいも』でも民青同盟がひんぱんに登場するのだけど、民青の説明はなされない(訂正。説明はちゃんとされていました)。千秋視点も加味しての民青の説明はこんな感じ。なかなかうまい紹介だ。
つづく
つづきは、活動家二世とか
『ほくほくおいも党』単行本は、オンラインで発売してましたが完売していて再版の予定はないようです。
が、商業誌で連載予定とのこと。未読の方はそれを待ちましょう。