『日本共産党の百年』読書ノート その12


「人間抑圧型の社会」という用語

『百年』。第20回大会(1994.7)での旧ソ連社会論。
第20回党大会にかかる箇所に、「社会主義とは無縁の人間抑圧型の社会に変質した」とある。
『八十年』では社会主義とは無縁な体制」だった箇所を、『百年』では社会主義とは無縁の人間抑圧型の社会」」に改めている。

第20回大会では、党綱領の一部改定をおこない、…
スターリン以後、指導部が誤った道をすすんだ結果、社会主義社会でも、それへの過渡期の社会でもない、社会主義とは無縁の人間抑圧型の社会に変質したという、党の結論的な認識を明らかにしました。

『日本共産党の百年』p43s4

第20回大会で、…党綱領…(の)一部改定をおこないました。
…スターリンらによって、旧ソ連社会は社会主義とは無縁な体制に変質したことをあきらかにしました。

『日本共産党の八十年』p287

問題は「人間抑圧型」という用語である。
第20回大会の議案には、次のとおり、「人民が…抑圧される存在」「自国人民への抑圧」などの表現はあるが、「人間抑圧型」は使われていない。
「社会主義とは無縁な社会」は使われている。

人民が工業でも農業でも経済の管理からしめだされ、抑圧される存在となった社会、それを数百万という規模の囚人労働がささえている社会が、社会主義社会でないことはもちろん、それへの移行の過程にある過渡期の社会などでもありえない…。
…このように、スターリンは、レーニン時代の探究の結論である過渡期の軌道をくつがえし、社会主義とは無縁な社会への転落の道をつきすすんだ…
(綱領一部改定についての報告)

旧ソ連社会が、経済的土台までふくめて、反社会主義的、反人民的な体制――自国人民への抑圧、他民族への侵略と干渉の体制であったこと、だからこそ崩壊したのだという結論を、明確にくだしました。(綱領一部改定案の討論についての結語)

第20回大会・綱領一部改定についての報告 https://www.jcp.or.jp/web_jcp/1994/07/post-48.html
 第20回大会・綱領一部改定の討論についての結語 https://www.jcp.or.jp/web_jcp/1994/07/post-47.html

第20回大会(1994.7)は、「自由と民主主義の宣言」の改定を新中央委員会に委任している(綱領一部改定案の討論についての結語)。
改定後の「宣言」は次のとおり、「人民抑圧的な体制」と書かれている。

スターリン以後のソ連におこった、民族自決権をふくむ自由と民主主義の侵犯は、科学的社会主義の原則をなげすて、レーニン時代にしかれた社会主義への過渡期の路線をくつがえしたものであり、ソ連社会を、社会主義とは無縁な、人民抑圧的な体制に決定的に変質・転落させた。1989年~91年に起こったソ連とそれへの従属下にあった東ヨーロッパ諸国の支配体制の崩壊は、こうした体制的な変質と転落の帰結である。

自由と民主主義の宣言(1996年7月13日一部改定)

「人間抑圧型の社会」は、第23回党大会(2004年)の綱領改定の際にはじめて公式文書の中に書き込まれた用語だ。
「人民抑圧型」にせず「人間抑圧型」としたのはそれなりの理由があると思われるがはっきりしない(その理由が書かれた文書を探したが見つけられなかった)。

これらの国ぐにでは、革命の出発点においては、社会主義をめざすという目標が掲げられたが、指導部が誤った道を進んだ結果、社会の実態としては、社会主義とは無縁な人間抑圧型の社会として、その解体を迎えた。

第23回党大会で改定された日本共産党綱領(2004.1.17改定)

「人間抑圧型の社会」を、単に、一般的に用いられる通俗的な意味で用いると決めた(その是非は別にして)のであれば、『百年』のように書いてもまったく差し支えないだろう。
ただ、「人間抑圧型の社会」をひとつの社会科学用語として取り扱うのであれば、第20回大会時点で「人間抑圧型の社会」という用語があたかも用いられていたかのように書くのはいかがなものかと思う。

なお、『百年』では、第3章の最後(p34s4)にも「人間抑圧型」が第20回大会で用いられたかのような記述がある。

…党は、ソ連などの実態の検討にたって、現存する社会主義はまだ「生成期」であるにすぎないとみていたからでした(第14回大会決定、77年10月)。…
その後、党は、崩壊前のソ連は社会主義への過渡期でさえなく、社会主義とは無縁な人間抑圧型の社会に変質していたという見地に到達してゆきます(第20回大会、1994年)。

『日本共産党の百年』p34s4

「国有化」を「民主的規制」に変更

『百年』。第20回党大会の箇所。
『八十年』にあった、党綱領から「国有化」の条項をなくしたことについての記述が『百年』では見当たらない。

綱領の一部改定は、当面の行動綱領における「国有化」の条項をいっさいなくし、財政経済政策の基本が「独占資本にたいする民主的規制」であることを、文章上も明確にしました。

『日本共産党の八十年』p287

日本の革新・民主の勢力が、民主的規制によって経済管理の国民的な経験を蓄積することをぬきにして、いきなり国有化から経済改革に手をつけようとすれば、たとえそれが一定のかぎられた部門の問題であったにせよ、国民的な理解をえることもできないし、実際の経済的な成功を保障することもできない…
『新・日本経済への提言』は、日本経済の現状の精密な分析から、民主的規制の対象となる独占資本とは、約二百の独占企業であること、民主的規制の政策というのは、…日本経済のなかで絶大な力をもち、特権的な地位をきずいてきた大企業にたいして、その社会的な責任を明確にし、国民生活に損害をおよぼす横暴をおさえることに主眼があることをあきらかにした

第20回大会・綱領一部改定についての報告 https://www.jcp.or.jp/web_jcp/1994/07/post-48.html

中国共産党との関係正常化

『百年』の「中国党との関係正常化」の部分(p43s7-p44s1)。
『八十年』の次の記述が『百年』では削られた。

「今日の中国の指導部…のなかには、32年前の干渉に直接責任をおった人はおらず、日本共産党にたいする干渉の事実すら、よく知られていないという実態がありました。中国側は、…過去の歴史を調べて、関係断絶の一番の要因が、中国側からの日本共産党にたいする干渉にあったことをみとめました。…不破委員長は…こうした中国側の「政治的誠実さと政治的な決断を高く評価する」とのべました。(pp310-311)

99年5月、不破委員長が、台湾問題の平和的な解決にあたって、台湾住民の支持をうる努力を提起し、これに中国側がこたえるなど、…豊かな交流を発展させてゆきました。(p311-312)

『日本共産党の八十年』

一方、『百年』では次の記述が 加えられた。

(胡錦涛政治局常務委員に、不破委員長が、)「将来的には、…言論による体制批判にたいしては、これを禁止することなく、言論で対応するという政治制度への発展を展望することが、重要だと考えます」と提起しました。

『日本共産党の百年』p44s1


つづく

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