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ノスタルジー・オブ・ウラサワ・スローイングストーンズ


「さっきから何一人でぶつぶつ言ってるの?」

「なんかおかしいぞリュウセイ!そんなことじゃベネチアンに負けちゃうぞ」

「……あ、俺急に思い出した!」

「何を?」

「適当に考えておいて!」

「うん!分かった!」



 これは人造昆虫カブトボーグV×V 7話「涙の素パスタ! オーバー・ザ・レインボー」に出てくる会話をそのまま書き出したものだ。

 始めてこの会話を聞いた時、俺の中で何かが崩れ落ちた。

 彼らの会話が何一つ分からない。
 けれど、画面を隔てた向こうではなんの問題もなく物語が進行しているのだ。分からないのはこちら側で見ているこの俺だけ。
 どういうことだ?俺はパラレルワールドにでも来てしまったのか?子供向けホビーアニメを見ている内に?
 俺の今まで使ってきた言語は何だったんだ?そう思うくらいに、その会話のシーンは強烈だった。

 こしぬけの俺は不安に駆られ、エピソードの途中ですぐにそのシーンについてネットで調べた。
 そして、ほっとする。そのシーンは「謎会話」と呼ばれていて、浦沢義雄という脚本家がそれをよく用いるのだという。

 浦沢義雄。

 これが俺と浦沢脚本の出会いだった…。



 しかしその時すでに、俺は「謎会話」だけでなくこの回全体がどこかおかしいことに気づく。

『お腹が鳴る程、お腹がすいていたなんて今時珍しいくらいの貧しさ…』
『…素パスタ…貧しすぎるよ…!』
『「同情なき同情は同情とは言わず、同情する同情を同情と言う」
 「どなたのお言葉ですか?」
 「柳川ドジョウ!」 』

 正直理解に苦しんだ。そういえばタイトルもなんかおかしかった。だが、混乱する俺を置き去りに物語はどんどん進んでいく。そして物語はラストシーンへ。

 貧しいベネチアンに寿司食べ放題チケットを譲るのだろうと生ぬるいことを考えていた俺の目に飛び込んできたのは、主人公の友人がたらふく寿司を食っているという理解し難い光景だった…。

 
 俺は完全に敗北した。

 

 カブトボーグを見終えた俺は浦沢義雄について調べ始めた。すると驚いたことに、俺が子供の頃大好きだった「はれときどきぶた」「たこやきマントマン」「忍たま乱太郎」「ボボボーボ・ボーボボ」、どのアニメの脚本も浦沢義雄が書いていた。
 特にはれときどきぶたなんて懐かしすぎる。俺は原作を何度読んだか分からない。サンタにはれぶたシリーズを頼むくらいには俺は当時矢玉四郎さんのファンだったのだ。アニメも途中までだったがビデオで借りてみていた。話の内容はほとんど忘れてしまったがブタの鼻が光る謎の変身バンク(?)とかなんか訳の分らんブタ踊りの妙にキャッチーな音楽は今でも思い出せる。


 自分の小さいころ好きだったアニメのほとんどが浦沢脚本だった。
 大人になり、ついに俺はそのことを知る。俺はここに、奇妙な運命を感じてしまった。
 まるで、過去が自分に追いついたような。
 そしてこの時、俺は気づいてしまったのだ。

 カブトボーグの浦沢回を見ていた時の俺のあの懐かしさ。
 何が何だか分からないけれど、めちゃくちゃだけど、楽しい。笑える。

 それは俺の心の奥。
 純粋な子供のころから染み付いた気持ち。

 俺は、浦沢脚本が好きだったのだ。

 謎会話も謎セリフも、想像の5億倍意味不明な展開も、投石の理不尽さも、誰もまともな奴がいない所も、狂っている所はそれはそれとしてとりあえず始まる所も、俺はみんな好きだった。


 俺はもうずっと昔から、浦沢のファンだったんだ。





 ありがとう。カブトボーグ。

 今、俺の頭の中にはリュウセイさんの歌う「振り向けばカブトボーグ」が流れている。

 俺のこの気持ちに気づかせてくれたカブトボーグというアニメに、俺は感謝している。

 大切なことはいつだって、カブトボーグが教えてくれる。

 浦沢脚本の魅力に気づかせてくれてありがとう

 カブトボーグ。

 本当にありがとう。





 



 本当はパワパフガールズZの感想、ひいて浦沢脚本の魅力について書きたかったのだが結局カブトボーグの話になってしまった。次回に続く!


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