見えないけれど

今日はちょっと不思議な日だった。
私は最近喫茶店をやっているのだけど、今日は朝開店してからしばらくして、1人の男性が入ってきた。すぐにトイレの場所を聞かれたのでご案内する。うちの店のトイレは外から周って行くようになっており、カバンを持ってすぐにまた出ていったお客様を、お水を用意して待っていた。
でも、なかなか戻ってこない。
そんな人はあまりいないけど、トイレだけ利用して帰ることも出来る。これはもしや帰ってしまった?と思い始める。
「カバン、置いていってもらえば良かったかな…」と呟いた。
すると、フッ、もしくはウフッと言うような女性の声が聞こえた。
狭い店内には私以外居ない。
隣接する資料館のお客様の声が聞こえた可能性も考えたけど、その場合壁を隔てた聞こえ方であり、フッくらいの声は聞こえないので、今のはこの空間から聞こえたと思い直す。
声は年配の女性のように感じた。
考える間もなく私の頭にはK子さんが浮かんでいる。
昨年亡くなられた、うちの一番の常連さんである。
もしかしてK子さん?と呟いてみる。
でも、何も感じ取ることも出来ず、まさかなと思い
そうこうするうちにさっきトイレに行かれた男性が戻ってくるのが見えた。
あ〜、良かった戻ってきた。と声に出して言ってみた。


それから数時間経ち、店内には何組かのお客様。
そこへ白人男性が1人やってきた。

4人掛けの席に座ったのだけど、最初座りそうだった位置に水を置いたら、座ったのはその隣りだった。
男性は注文を終えたあともテーブルの上にメニューを開き、少しだけ斜めにして、隣りの席に向けた角度にした。まるで隣りに誰か座っているかのように。
その後も、アイスティーをいつの間にか隣の席の前へ置いていたり、ドーナツも、隣りの席の前に何気なく置くのだ。

物静かな男性で、何気なく動いているので、周りのお客様も特に気付いてはいないと思う。
でも私はお客様が呼ぼうとしていないか、お水は足りてるか、何か不都合はないかと気を向けていたので、その挙動に気付いた。
その空いている席をよく見たけど何も見えない。

4人掛けテーブルの空いている席、男性が気を配っている場所、そこが一番座りやすい位置だったけど、男性は他の席により近くなってしまう方の椅子に座った。そして荷物は隣りに置かず、椅子の後ろにかけていた。
直接隣りを見ることはしないけど、微かに微笑んでいるような、不思議な空気の男性だった。

今日一日で二つの出来事が続き、そんなこともあるかもな、と思っている。
白人男性は、誰かと一緒に日本旅行しているのだろうか。
K子さんは、今まで通りいつもの席で2、3時間過ごしているのだろうか。

2024年2月

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