【3限目】 数学 : 青川先生
*ぴちゃんと先生 3限目*
青『フォッフォッフォ。今日から「確率」の授業に入るぞ』
ぴ『じっちゃーん! ぴちゃん、もう数学は限界やで〜!』
ま『コラ、ちゃんと青川(あおかわ)先生って呼ばないと』
青『フォッフォ、いまさらもう慣れたわい。なんとでも呼べ』
ぴ『じっちゃん! 確率ってなんや? またXとかYとか訳分からん記号出てくるんか?』
青『安心せえ、小学生レベルの分数しか出てこん。高校数学の確率になると、ちとややこしくはなるが、中学数学の確率は「お遊び」じゃ。まぁ、わしからしたら数学全般「お遊び」じゃがな』
ぴ『よし、天才のぴちゃんでも解けそうやな! かかってこい!』
青『フォッフォ、毎回最初の威勢だけはいいんじゃがな。では、まえ少年、問題を読みあげてくれんか』
ま『はい。【コインを3枚投げた時、少なくとも1枚が表である確率を求めよ】』
ぴ『おいおい、簡単過ぎんだろ! じっちゃん、この教科書は中学生をバカにし過ぎやで!』
青『ほう、即答出来るのか?』
ぴ『当たり前やん! 答えは「神のみぞ知る!」コインの裏表のどっちが出るかなんて神様しか分からんで!』
青『まえ少年はこの問題の答えはなんだと思う?』
ま『樹形図を用いて考えると、「8分の7」ですね。問題文に「少なくとも」と表記があるので、全てが裏という事象以外は当てはまることになりますね』
ぴ『じっちゃーん! コイツ絶対進研ゼミやってるよー! 「進研ゼミでやったとこだ!」のノリで答えてるよー!』
青『フォッフォ。少なくとも「神のみぞ知る!」が答えにはならんぞ。わしのような仙人の領域にでもなれば話は変わるがな』
ぴ『じっちゃん仙人なのかよ! スゲー!』
青『まえ少年、2問目じゃ』
ま『はい。【サイコロを2個振った時、出る目の和が3の倍数になる確率を求めよ】』
ぴ『なるほど、サイコロを2個振った時の和がアホになる確率か』
ま『お、おう。まぁ、そーゆーこっちゃ。(なんでナベアツ?)』
ぴ『じっちゃん! これはどう解くんや!』
青『このような表を作るんじゃ。それでそこに和を書いていって、3の倍数がこうなるじゃろ。ぴちゃん、6×6は?』
ぴ『36! 楽勝!』
青『36通りの中に3の倍数は12通りあるのぅ』
ぴ『36分の12か!』
ま『約分して』
ぴ『3分の1や!』
青『フォッフォ、正解じゃ』
ぴ『さすが天才ぴちゃん!』
ま『かなり導いてあげてたけどな』
青『最初はそんなもんじゃい。まえ少年、次の問題を』
ま『はい。【4本のうち2本の当たりくじがあります。はじめにA君がくじを引き、結果を見たあとにそのくじを戻さず、続いてBさんがくじを引きます。このとき、どちらか1人だけが当たりを引く確率を求めよ】』
ぴ『えーと、両方当たりと両方ハズレの場合はダメってことか』
青『そうなるのぅ』
ぴ『どちらかがマウントをとれるって状況になる確率を求めるのか』
ま『言い方。別にマウントとる必要ないやろ』
ぴ『とりあえずこれも、1問目にまえくんが解いたみたいに樹形図を作ればいいんやろ』
青『ほぅ、鋭いのぅ』
ぴ『となると、こーなって、これはダメだから。こうや! 12分の8! ドヤ!』
ま『約分して』
ぴ『3分の2!』
青『ファイナルアンサー?』
ぴ『ファイナルアンサー!』
青『ん〜〜〜〜〜〜?』
ぴ『ぴ〜〜〜〜〜〜?』
ま『なにこの間は』
青『ん〜〜正解ッ!』
ぴ『しゃあ! 1000万円獲得! まえくんゴチです!』
ま『ねーから、1000万とか』
ぴ『ところでさぁ、じっちゃん。なんで数学なんて学ぶんだよ。こんなパソコンもスマホも普及して、計算式に数字打ち込めば答えなんてすぐ出るじゃん』
青『フォッフォッフォ。清々しいくらいに青いのぉ、ぴちゃん』
ぴ『え!? ぴちゃん新種の色違いになってる!?』
ま『「若いな」って意味だよ。実際には青くなってないよ』
ぴ『なんだ、びっくりした。じっちゃん、どーゆーこと?』
青『最初に言ったじゃろ。数学なんてもんは「お遊び」じゃって。こんなもん数字と公式を使って、機械的に解いていけば答えは出るわい』
ぴ『確率にも公式があるの?』
青『あるが聞きたいか? pとかCとか出てくるぞ』
ぴ『勘弁してくだせぇ』
青『わしが思う数学の授業で最も大切なのは、とにかく「今の状況で使えるものをとことん使って、自分の頭で必死に考え、ひとつの答えを導き出すこと。という思考を鍛える」じゃ。公式を覚えることでも、テストの点数をとることでもないわい。それこそ、難しい計算なんてスーパーコンピュータにでも任せておけ』
ぴ『「使える物を使って、考えて、答えを導くこと」』
青『という思考を、何度も繰り返すことで鍛えるんじゃな。使えるものを使うっていうのは「公式」もそうじゃが、今まで問題を解いた「経験」なんかもそうじゃ。自分の頭で必死に考えることの大切さは、誰も助けられない状況が生きてれば必ず訪れる。その時に、ちゃんと自分の中で思考の整理をつけることが出来るか、ということじゃ。ひとつの答えを導き出すことの大切さは、自分の考えを持つということじゃ。他人に流されず、自分を信じる強さを鍛えることへとつながる。そして、それら全てを、数学という学問を通して、お主らに伝授しているんじゃ』
ぴ『数学の問題の解き方を教えてくれてるんじゃないの?』
青『フォッフォッフォ、片腹痛いわ。そんなもん中学卒業した高校生にでも教えてもらえ。わしら大人が、わざわざ子供たちの貴重な時間を使ってるんじゃ。このひとつの学問を通じて、何を身につけて社会へと飛び立って欲しいのか、この学園の教師はみんなそこを大切にしてるぞ』
ま『確かに、2限目の赤岩先生も、国語教師なのに「言葉の意味」よりも「言葉というツールの本質」にこだわっていました』
青『そうじゃろ。受験勉強なんてのは、官僚にでもなりたい者だけがしておけ。それ以外の生徒は、それぞれの学問と教師陣を通じて、この世界で自分らしく生きるための思考法について学べば良い。この目の前の課題はどうしたら乗り越えられるか、数学はそれを鍛える訓練に適した学問なんじゃよ』
ぴ『じゃあ、理科や社会は?』
青『それは、緑菜女史や黄陽青年にでも説いてもらいなさい。わしにもそれぞれの教科に対する考え方はあるが、専門ではないからな、じじいの戯言にしかならんわ』
ま『先生は、どうして数学の教師になったんですか?』
青『数学はひとつの答えが出るじゃろ。だが、数学を解くお主らの人生における解は、どれだけ計算をしてもひとつに収束はしない。わしは、問題を解くのが好きじゃったからな。若いときのわしは、解けない問題の答えをひとつでも多く知りたかったんじゃろうな』
ぴ『じっちゃん! ぴちゃんの未来は無限大やで〜! 確率には収まらんで〜!』
ま『俺も、青川先生の思考の外にまでぶち抜いた将来にしますよ!』
青『フォッフォッフォ、頼もしいのぅ! ぜひわしに「神も予想できない世界」を見せてくれるよう、期待しておるぞ』
ぴ『任せろじっちゃん!』
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