【11限目】 技術 : 灰木先生
*ぴちゃんと先生 11限目*
ぴ『ハイギ兄ちゃん、チャッス!』
灰『おう! ぴー太郎、チャッス!』
ぴ『今日の技術は何すんの?』
灰『何するも何も、今日が課題提出日だけど、ぴー太郎まだ出てねぇぞ。出来たのか?』
ぴ『ぴ? 課題ってアレやろ? 本棚やろ? 先週の授業で完成してるで』
灰『なんだ、出来てんのか。とりあえず持って来いよ。見てやっから』
ぴ『はーい』
ま『灰木先生、自分も出来ました』
灰『おう、まえっち。どれどれ〜。ふーん。ここのカーブ、もっと紙やすりかけて滑らかに仕上げようや。それと〜、ここ、ここしたからもう1本釘打ち込んで補強しときな。ちょっと、仕切り板のグラつきが気になる』
ま『分かりました。出来たらまた持ってきます』
灰『おう、よろ。ぴー太郎! 早く持ってこーい』
ぴ『はーい。どうよコレ、めちゃくちゃ良い出来やと思わん?』
灰『うーん、そーやなぁ〜。こことここ、左右で高さ合ってなくないか?』
ぴ『そこが、デザインやんか』
灰『いや、今回みんなおんなじもん作っとんねん。単に切り過ぎただけやろ』
ぴ『そんな、前髪みたいに言わんでや』
灰『前髪やとしたら斜めなんよ。コッチ側だけオデコがこんにちわしとるわ』
ぴ『まぁまぁ、もう過ぎたことは気にするなよ』
灰『ぴー太郎お前なぁ。世の中には、守るときは守るもんがあるんよ』
ぴ『家族とか?』
灰『家族は常に守れや。ルールも守れ。法律も条例もとりあえず守っとけ。あとは、約束とか契りとか、そのへんも守っとけ。じゃあ、守るためには、何がいる?』
ぴ『うーん。優しさとか、知識とか、友情とか』
ま『あとは、力とかですか?』
ぴ『おう、まえくん』
灰『まえっちの言う力ってのは、どんな力だ』
ま『実力ですよね。腕っぷしにしても、心意気にしても、その人の実力がないと守る物も守れませんから』
灰『実力ってのは、あるだけじゃあダメだよな。使わねぇと。じゃあ、その実力を使う力のことを何ていうか分かるか?』
ま『うーん、分かりません』
灰『実行力だよ』
ま『あぁ、なるほど』
灰『実力行使力って言った方が、まえっちには分かりやすいか? やるときゃやるってのが大事なんだよ。おい、ぴー太郎』
ぴ『ぴ?』
灰『俺が「家を建ててほしい」とするぞ。それで、ぴー太郎に「家を建ててくれ」と契約した。そこで、ぴー太郎が守るべき大事なことはなんだ?』
ぴ『そりゃ、決められた日までに家を建てることやろ?』
灰『そうだな。ただし、「事細かに決められた事項通りに」だ。柱はここだとか、断熱材はここだとか、ここにドアとかな』
ぴ『それはそうでしょ。勝手に家のデザインとか変えちゃ怒られちゃうよ』
灰『それを守ろうにも、ぴー太郎に「柱を立てる技術」や「ドアを取り付ける技術」があっても、実行力が無きゃ出来ないよなぁ』
ぴ『そうそう』
灰『じゃあ、ぴー太郎。お前、この本棚を見てどう思う?』
ぴ『えっと、ハイギ兄ちゃんの言った通りではないです』
灰『そうだなぁ。今回は、みんな統一した形の本棚を作るんだから、それを作るための実行力を鍛えるための授業だったんだよな』
ぴ『はい』
灰『じゃあ、いくらぴー太郎の本棚の方がデザインが良くても、今回はダメだってことだ。厳しいけどな』
ぴ『うぅ〜、ごめんなさい』
灰『まぁただ、今日が課題提出日で、コレをバラして作り直す時間もない。今回は、これがぴー太郎の提出物として受け取り、コレで評価して行くしかないからな。それでいいな』
ぴ『はい、わかりました』
ま『灰木先生、僕が手伝えば今からならギリギリ間に合うかも知れないので』
灰『ダメだ』
ま『ダメですか』
灰『これは、ぴー太郎の課題だ。ぴー太郎がやった成果として俺は受け取らなきゃなんねぇ。課題という成果に対して、評価という報酬を与える。学校は社会の縮図と言うが、その一つの理由が、成果報酬型の評価方法でもあるからだ。テストがあるのも、宿題があるのも、授業態度が見られるのも、それは全てお前らの成果を俺らが受け取って評価しないといけないからだ。それも、基本は絶対評価だが、同じ点が並んだら、相対評価になる。同じ営業成績を出して、ボーナスが同じ額出ても、仕事に取り組み姿勢で、昇級させるのはどちらかというのが決まる。シビアなんだよ。お前らが思っている以上に社会ってのは。結局、上の人間にどうアピールするかなんだ。成果を出して、姿勢を見せて、意欲を持ってると思われないと、何したって評価がついてこないんだ。だって、評価するのは「そうやって上に上がった人間なんだから」』
ま『確かに、一般的な社会人として勤めることになるなら、組織の中でどうパフォーマンスを出していくのかって重要ですけど』
灰『みんながみんな、個性で食っていけるなら楽しい世の中になるんだけどな。残念ながら現実はそうじゃねぇ。個性も個性で、相対評価されちまうんだ。ボクシングが上手くても、県一位の上には、日本一位がいて、その上には世界一位がいるんだ。だからこそ、個性を磨いて食ってくってのは、茨の道なんだ。嫌かも知れないけど、社会の歯車としての自覚もないといけねぇ』
ぴ『でも、そんなの全然楽しくないよ』
灰『そうだよな。だから、複数のことが出来る実力をつけないといけない。一点突破は諦めろ。得意なことは県一位レベルで十分だ。会社の組織ならトップ10%くらいのレベルで十分だ。その得意な技術を複数身につけろ。そうすりゃ、少なくとも使われるだけの人生ではなくなる。どこかで自分が優位に立てるポジションになるはずだ。そして、その位置についたら死んでもその椅子を離すな。後輩の育成はしなきゃいけないが、それと同時に自分もレベルアップしろ。後輩が上手くなるなら、後輩を見て自分が足りてない所を鍛えろ。死んでもポジションを離すな。そして、そのポジションも複数持て。それを繰り返していけば、いつか会社のトップ10%の人材として、役職の椅子につくはずだ。あとは、そのレベルに到達するまでの実力があるんだから、会社を見ながら後輩を育てろ。そこからは、ただの歯車で終わらない、楽しい仕事になるはずだ』
ま『まさに椅子取りゲームですね』
灰『案外、大人たちって素はバカだけど、社会人としてのスキルは日々鍛えてるんだぜ。そうじゃなきゃ、華麗に生きていけないのも、この世の悪いとこなんだけどな』
ぴ『ハイギ兄ちゃんも、教師として椅子取りゲームをしてるのか?』
灰『してるぜ。俺の世代は、黄陽や黒谷たちがいるし。少し上の世代に、緑菜さん橙山さん白石さんたちがいるからな。下なんて特に、紫園や水原みたいに上に気に入られてる世代がいる。私立学園なんて、実力をつけて成果出さないと、いつクビ切られるか分からねぇからよ』
ぴ『競争社会なんだね』
灰『まぁでも楽しいぜ。普通に公立の教師や社会人するよりも、やりがいってのは出てくるからよ』
ぴ『ハイギ兄ちゃん頑張れな』
灰『いや、ぴー太郎。お前らが頑張ってくれねぇと、俺も夜ぐっすり眠れねぇから頼むぜ』
ぴ『承知した! ところで、この本棚は評価的にはヤバいのか?』
灰『まぁ、間違いなくクラス最下位だな』
ぴ『なんとかして!』
灰『無茶言うな!』
ぴ『しゃーない、まえくんの本棚にぴちゃんの名前をマジックで書いとこ』
ま『被害(予定)者と監督者の前で普通に不正働こうとしてて、この子本当にどうしようもないな』
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