みんなから愛された花
☆ぴちゃんとまえくん193話目☆
ま『昼間は暑かったのに、もうすっかり暗くなっちゃったね』
ぴ『・・・』
ま『それにしても、すごい数の人だったね。入場整列時の階段も、特典開始時のロビーも、たくさんの人で溢れかえっていて』
ぴ『・・・』
ま『これでぽよも、安心して卒業できたやろ』
ぴ『・・・』
ま『ぽよの今日のステージの立ち姿、すごく良かったよな。今ここに立っていることが幸せだって伝わってきて。樋口さんにもちゃんと感謝伝えられとったし、最後おもろかったけど』
ぴ『・・・』
ま『ぽよがいたことで、今までグループとして成立していたことも多いと思うよ。これから、他のメンバーで代替できなくなるのなら、それもまた、ぽよの個性の証明になるしね』
ぴ『・・・』
ま『アイドルとして本当に最後を覚悟していたんだろうな。ラストの「さよなら、ありがとう」って言葉が効くわ』
ぴ『・・・』
ま『ほんと、惜しい人材よなぁ』
ぴ『なんやそれ』
ま『え』
ぴ『まえくんはいつもそうや。「辞めるなんて惜しいよな」「まだ現役でいけるやん」「もっと伸びそうやったのに」そんな御託ばっか並べよる』
ま『そんなこと』
ぴ『まちゃに対してもそう思っとるんやろ。「美人やのに」「実力があるのに」「ちゃんとしとるのに」「面白いのに」辞めるのが惜しいって。どうせ、そう単純にしか思っとらんのやろ』
ま『いや、別にそうとは』
ぴ『まちゃはなぁ、そんな軽い気持ちで呼び止められないくらい、考えて、悩んで、決断して、卒業することを決めたんや。覚悟して、今日のステージを迎えたんや。それを今さら名残惜しんだところでな、何にもならんのや。もっと、まちゃを褒めろ、褒め称えろ、感謝しろ』
ま『うん』
ぴ『まちゃはなぁ、足を痛めても、喉を痛めても、何度休養しても、それでもアイドルでいるためにステージに立ち続けたんや。バチバチに踊れない日も、納得いく歌声じゃない日も、目の前にいる人のために、応援してくれている人のために、ずっとずっと何度も何度も立ち続けたんや。この3年半、同期が辞めても、後輩が辞めても、ずっとグループを守り続けてきたんや。大きくもない事務所で、メンバーも経験が浅い子ばっかり。そんな中、自分がパフォーマンスでも精神的においても、頼れる大黒柱として存在することが、どれだけ大変で、どれだけ消耗して、どれだけ苦しいことか、まえくんには分からないんよ。まちゃはなぁ、まちゃはなぁ、まちゃは、まちゃは』
ま『うん』
ぴ『まちゃは、最強で最高のアイドルなんや』
ま『うん』
ぴ『まちゃはなぁ、まちゃは、アイドルで、まちゃは、うっ、うぅぅ』
最後の恋愛決壊警報。
足元ですすり泣くぴちゃんの隣で、僕も棒立ちしか出来なかった。
ステージでは、新体制となる7人が気持ちのこもった最高のパフォーマンスをしている。
どうして君はここにいないの。
オーバーラップする過去と、何度も浴びた溶けない寂しさ。
またこの感情に支配されるのか。
そんな少しばかりの恐怖と、一握りの希望にすがりながら、時は経つのだろう。
蒸し暑くも静かな夏の夜に、大きく朧な月が僕らを見つめる。
ま『ねぇ、ぴちゃん。俺らはさぁ、俺らにしか出来ないことをぽよにしてあげられたんじゃないかな。他の人らには出来ない使命みたいなんもあって、そこは少しだけれど遂行できたと思うし、役に立ったとは思う。俺らがぽよに直接してあげたことは、多くはないけれど、大きな意味はあったと自負していいんじゃない?』
ぴ『うん』
ま『ぽよが君キュンに2期生として入って来てくれたとき、俺はすげぇ嬉しかったよ。「エース」って印象がバチッときて、この即戦力がこれからメンバーに加わるんかと、めちゃくちゃワクワクしたのを覚えてる』
ぴ『うん』
ま『グループ活動はもちろん、地元の活動やソロ活動も精力的に行なって、アイドルさんたちからも信頼され目標とされていた』
ぴ『うん』
ま『周囲の環境に感謝しつつ、どうしたらもっとみんなのことを満足させられるのか。常に前を向き、常に上を目指し、その凜と澄んだ姿勢と熱くたぎる心は、表現者として完璧そのものだった』
ぴ『うん』
ま『俺は、ぽよに出会えてよかった』
ぴ『ぴちゃんも、まちゃに出会えてよかった』
ま『いっぱい、ありがとうだね』
ぴ『うん。本当に、まちゃありがとう』