女子サッカーのこと、 WEリーグのこと、髙田春奈 WEリーグチェアに聞く
公益財団法人愛知県サッカー協会(AIFA)は、2024(令和6)年4月6日(土)に髙田春奈 WEリーグチェアを講師に迎え、女子サッカー界が目指す姿を共有し、女子サッカーの価値向上やファン拡大に向けての取り組みについて、講演会を開催しました。
開催にあたり
女子チーム関係者を中心に、学生・指導者・審判員など年齢・性別、様々な方にお越しいただきました。
進行はAIFA女子委員長の井上が行い、開会にあたり、会長の岩間から挨拶をしました。
会長の岩間の挨拶にありましたが、コロナ禍において協会登録者数が減少している中で、女子の登録者数は微増ではありますが増えています。
愛知県で育った女子サッカー選手が日本の女子サッカーを担う、更に成長していくため、髙田春奈 WEリーグチェアからこれからの女子サッカー・WEリーグについて話を伺いました。
サッカーを通じて一人ひとりが輝く社会の実現・発展に向けて
始めに(自己紹介)
講演をするにあたり、まずは髙田春奈 WEリーグチェア(以下「髙田チェア」)から自己紹介がありました。
髙田チェアは大学卒業後、いくつかの企業で働かれ、2018(平成30)年にJリーグのⅤ・ファーレン長崎の上席執行役員(2020(令和2)年に社長※56クラブ(当時)唯一の女性社長)に就任し、Jリーグ理事(社会連携)を経て、2022(令和4)年にWEリーグチェアに就任しています。
女子サッカーそのものの成長の可能性を感じ、女子サッカーがもっと注目されることで、素敵な女性が活躍社会のモデルとなり、良い社会づくりに貢献できるのではないかと思い、決断したとのことです。
1.世界と日本の女子サッカー情勢
初めに、世界の女子サッカーの情勢についての話をされました。
アメリカでは過去のプロリーグの失敗はあったものの、ハリウッド俳優や他競技のトップアスリートからの投資などもあり、今ではリーグ平均で1万人近い入場者数、チームによっては2万人近い入場者数です。また、小さな頃から男女平等であることが根付いており、女子サッカーのレジェンドであるラピノー選手は男子選手と同じ賃金の支払いを求め裁判を起こし、代表チームの男女の賃金同一化に至っています。
スペインでは、ラ・リーガのトップチームが女子チームも作り、女子サッカーを盛り上げていて、2022(令和4)年3月の女子のチャンピオンズリーグで初のクラシコでは9万人以上の入場者数です。
その他にも、南アフリカではプロ化を目指したリーグが立ち上がり、ワールドカップでは出場枠が増えたこともあり初出場国が台頭するなど、世界的に盛り上がりを見せています。
ジェンダー平等への取り組みを背景に、国や企業・個人が女子サッカーを支援し、アメリカの女子サッカーリーグNWSLは4年間で約360億円のメディア契約を結ぶなど、女子サッカーは世界規模で転換期を迎えています。
次に日本の情勢についてです。
日本は、3世代(フル代表、U-20、U-17)の女子ワールドカップカップを制覇した初の国であり、前回のワールドカップでは宮澤ひなた選手がゴールデンブーツ賞を獲得し、日本はフェアプレイ賞を受賞し、優勝したスペインにグループリーグで勝利しています。
国内を見ると2021(令和3)年にはWEリーグが発足するなど、日本の女子サッカーのポテンシャルは非常に高いです。
ただ経済的な側面で見ると、選手の平均年俸は世界と比べて低いことはないですが、アメリカやスペインといったトップとは差があり、(先ほどのアメリカのメディア契約などからも、)今後、差は広がると考えられます。
日本はジェンダーギャップで146か国中の125位で、先進国の中でも最低レベルですが、世界から学び、取り入れることで日本の女子サッカーはまだまだ成長し、さらに発展する可能性を、この時点での髙田チェアの話から感じました。
WEリーグには、4つの設立意義があります。
1.日本の女性活躍社会を牽引する。
2.日本に「女性プロスポーツ」を根付かせる。
3.日本の女子サッカーの発展に貢献する。
4.なでしこジャパンを再び世界一にする。
女子サッカーの技術面だけでなく、日本の社会や文化に女子サッカーを浸透、発展させ、女性の地位の向上につなげる、そのような意義を感じ取れます。
2.WEリーグについて
WEリーグの理念は、「女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する。」です。
理念を実現するためのVISIONがあり、サッカー事業では「世界一の女子サッカーを。」を掲げ、社会事業では「世界一アクティブな女性コミュニティへ。」を掲げ、そこから「世界一のリーグの価値を。」を生み出すことです。
皆様、WEリーグは何クラブで構成されているかご存じでしょうか?
WEリーグは11クラブでスタートし、2023-24シーズンは12クラブです。WEリーグはプロのリーグで、アマチュアなどで構成される、なでしこリーグ(1部・2部)などもあります。愛知県内ですと、なでしこ1部リーグに朝日インテック・ラブリッジ名古屋があり、講演会当日は試合があり、髙田チェアも見に行かれたそうです。
Jリーグは昇格/降格がありますが、現在、なでしこリーグ1部からの昇格のみで、リーグ・クラブの経営安定後に昇格/降格の導入を検討するとのことです。
女子サッカーの国内3大大会は、WEリーグ、WEリーグカップ、皇后杯とありますが、昨年はそれぞれ異なるWEリーグのクラブが優勝し、白熱しています。
日本代表というと「海外組」をイメージする方も多いかと思いますが、前回のワールドカップでは23名中14名、15ゴールのうち11ゴールはWEリーグの選手です。パリオリンピックもWEリーグの選手に注目してください。
髙田チェアは、なでしこリーグについても話をされています。
なでしこリーグの目指す姿、存在意義を「サッカーと幸せになる。」と言葉にしています。なでしこリーグの大半はアマチュアで、地元企業で働きながらサッカーをする選手、午前中に練習して、午後から仕事をしにいくといった選手もいます。
働き方について地元企業の理解も必要で、こうしたことからも、選手自身も、クラブとしても、より地元との深い関係性を築きやすく、地域での女子サッカーの「する」「観る」の受け皿として、まさに地域密着を体現する存在となっています。
WEリーグ、なでしこリーグ、理念・VISIONを持って行動しているのがよく分かりました。
3.WEリーグと女性活躍
WEリーグの選手、クラブ、そしてサポートするパートナー企業を始めとする様々な人が輪となり、リーグの理念を実現するため、「WE ACTION」があります。
各クラブが行動を起こす日として、「WE ACTION DAY」があります。ホームタウンを中心に展開しますが、当日は大宮アルディージャVENTUSの「VENTUS ACTION WEEK」について話されました。
埼玉県男女共同参画推進センター協力のもと、ジェンダーに関する研修を受講し、講義の中で選手が身近に感じた「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」をテーマ設定し、地元中学校でワークショップを開催しました。
選手と生徒がグループに分かれ、アンコンシャス・バイアスについて、「男子なのに背が低い」、「女子なのによく食べる」という自身の体験談や考えを共有し、話し合った内容をホームゲーム内で発表するなど、多くの方に見ていただく機会を設けました。
こうしたアンコンシャス・バイアスが、髙田チェアが選手と話をしていると、「グラウンドは男子が優先されていた。」、「女子は力がないから」といった指導を受けて、日常として自信を削がれるようなことが起きていたとのことです。大宮のような取り組みが広がることで、女子サッカーに限らず、スポーツ、社会で女性が活躍できる場が増えるのではないかと思います。
リーグ理念の実現に向けて、クラブ・選手やリーグパートナー、メディアと連携したACTIONを実施するための会議、「WE ACTION MEETING」を実施しています。今年1月23日に開催した内容は、各クラブの理念推進担当者とパートナー企業等から30名が参加し、「女子アスリートが安心・安全に競技ができる環境を整える」をテーマにディスカッションをしています。
こうした取り組みを推進するためにも、内閣府(男女共同参画)やJICAなど官公庁や各団体と連携しながら取り組んでいます。
WEリーグは参入基準に女性登用を義務付けた、日本で初めてのスポーツ組織です。役職員の50%以上、クラブの意思決定に関わる者のうち少なくとも1人、コーチングスタッフの中に1名以上の指導者、これらを女性とすることとしています。
2021(令和3)年から2022(令和4)年の比較では、女性の職員が多く登用はされたものの、女性取締役がいるグラブが減少したり、カテゴリー別では女性コーチがいないクラブもありましたが、基準を設けたことで増減の「見える化」し、今後の取り組みが明確化しているかと思います。
また参入基準の一つとして、託児施設を義務付けています。観戦をする際に、お子さまを預けるのは後ろめたいことではない、そういった考えがWEリーグを通して広まっていくと良いなと思いました。
4.パートナーシップ・マーケティング
リーグの理念を実現するため、様々な企業・団体などのパートナーと取り組んでいます。
旭化成の企業としてのミッションである「男女の家事への共同参画」について、岩清水選手を起用して、理念共感CMを制作しています。
他にも、若い世代に人気のあるX-girlが、WEリーグのクラブユニフォームを制作し、一人ひとりが自分の個性を愛し、自分らしい選択を誇ることを応援する思いを込めています。
また、渋谷区に2023(令和5)年6月にWEリーグは拠点を移していますが、これは渋谷区が多様性ある社会の実現に向けた取り組みが先進的であり、世代や国を超えた様々な人が集う文化の街であるからとのことです。
この他にもファン拡大の取り組みとして、マスコット「ウィーナ」や公式アプリ、渋谷区に情報発信拠点である「Home of .WE」を誕生させています。
最後に、これまでの枠にとらわれずに、日本の女子サッカーの歴史と可能性を信じて、様々なことにチャレンジしますと、力強い言葉で講演を終えました。
質疑応答
講演終了後、お一人の方からご質問がありました。
「Jリーグが女子クラブを持つ方が良いのか、女子クラブ単独の方が良いのか、WEリーグとしてはどういった方向性か?」というような質問でした。
髙田チェアからは、「WEリーグとして、どちらかが良いというものではなく、それぞれ良い面があると思います。Jリーグのクラブはノウハウがあり盛り上げ方を知っていますが、女子だけのチーム、例えばちふれASエルフェン埼玉だとJリーグのファンとは違った空気感があります。」とそれぞれの良さについて語られ、最後に「少しでも多くの企業などが、『WEリーグに参加したい』、そう思われるリーグにしたい。」と締め括りました。
最後に
AIFAは、「愛知県のサッカー界をまとめ、代表する団体として、サッカーの普及と発展に努め、豊かなスポーツ文化をつくり、県民の心身の健全な発達に貢献する」を理念として、「サッカーの普及に努め、スポーツを身近にすることで、人々が幸せになる環境を作り上げる」をビジョンの1つとして掲げています。
AIFAも、女子サッカーの価値向上に努め、発展に貢献していきます。