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AI倫理問題の理解に必要な背景知識(3)AI倫理問題を考える前に最低限知っておくべき哲学者たち(中級編)

1.ハンナ・アレント
 アレントは、20世紀のドイツ出身の哲学者であり、政治哲学や権力、暴力についての考察で知られています。彼女の思想は、現代のAI研究において、AI技術が社会や政治に与える影響に関する議論に寄与しています。
 
 アレントは、権力や暴力、権威の関係性を分析し、これらが社会や政治にどのように作用するかを明らかにしました。彼女の考察は、AI技術が権力構造や暴力の形態にどのような影響を与えるかを考察する際に有益です。例えば、AIが政府や企業によって監視システムや自動化された武器として利用されることにより、権力の集中や個人の自由が制限される可能性があります。また、アレントは、人間の行為や責任に関する考察を行っており、AIの普及に伴い、人間の責任や道徳的判断がどのように変化するかという問題についても、彼女の思想が参考になります。
 
2.ジュディス・ジャーヴィス・トムソン
 トムソンはアメリカの哲学者で、特に道徳哲学と倫理学において顕著な業績を持っています。彼女は、イギリスの哲学者フィリッパ・フットが初めて提唱した#トロッコ問題を、AI倫理のコンテキストで応用し、これが現代AI倫理においての重要な議論の一つを形成しました。

 トロッコ問題自体は、自動運転車などが道徳的ジレンマに直面した場合の選択について考察する問題です。具体的には、自動運転車がAとBのどちらを避けるべきかというような事態があります。この問題は、AIがどのような基準で道徳的判断を下すべきかという課題に密接に関連しています。

 トムソンの貢献は、AI倫理においても道徳的な課題を具体的かつ直感的に考察できるフレームワークを提供しています。彼女の思想は、AIが道徳的な判断を行う際の原則や価値観について、基盤となる議論を提供しています。

 これらの哲学者たちの考え方や議論は、現代のAI倫理における多くの問題考察に重要な影響を与えています。AI技術の進展にともない、これらの哲学者の考えが提供する洞察や議論の枠組みが、今後一層重要性を増すであろうことが予想されます。

 トロッコ問題(Trolley problem)は、1967年にイギリス生まれの哲学者フィリッパ・フットが最初に提唱しました。彼女がこの問題を取り上げたのは、『The Problem of Abortion and the Doctrine of the Double Effect』(中絶の問題と二重効果の教義)という論文で、その主旨は『二重効果の教義』に関する倫理的な議論でした。

 その後、この問題はフィリッパ・フットの学生であり、後に自身も哲学者として有名になるジュディス・ジャーヴィス・トムソンによって広められました。トムソンはこの問題に多くのバリエーションを追加し、その解釈と考察を多角的に行いました。

 このトロッコ問題は、倫理学だけでなく心理学、法学、人工知能など多くの分野で研究の対象とされています。それぞれの分野で、この問題は様々な形で応用され、多くの派生形やバリエーションが存在しています。

3. ニック・ボストロム(Nick Bostrom)
 ボストロムは、AI倫理問題や超AI(スーパーインテリジェンス)の将来的な影響について研究し、そのリスクや潜在的な問題を提起している哲学者・研究者です。彼は、AI技術の進化が人類の安全や倫理にどのような影響を及ぼすかについての議論を促進し、研究者や政策立案者に対して深い洞察を提供しています。
 
 ボストロムは、1973年にスウェーデンで生まれました。彼はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で哲学を学び、1997年に修士号を取得。その後、カリフォルニア大学バークレー校でAI研究を行い、1998年に修士号を取得。最終的に2000年にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で博士号を取得しています。
 
 彼はオックスフォード大学の哲学教授であり、未来人類研究所(Future of Humanity Institute)の所長を務めています。この研究所では、人類の未来に関連する大規模な問題やリスクに対処するための研究を行っています。
 
 ボストロムは、2014年に著書『スーパーインテリジェンス』を発表し、大きな注目を集めました。この書籍では、超AIが現れた場合に人類が直面する可能性のあるリスクや倫理的問題を議論し、AI技術の発展に伴う様々なシナリオを提示しています。彼は、スーパーインテリジェンスの出現が人類にとって深刻な脅威になり得ると主張し、そのリスクを最小限に抑えるために、研究者や技術者が倫理や安全性を重視することが重要だと訴えています。
 
 ボストロムは、AI倫理問題やスーパーインテリジェンスのリスクに関する議論をリードする重要な人物です。彼の研究は、AI技術の発展に伴って引き起こされる可能性の高い倫理的、社会的問題への対処法や解決策を模索する上で、重要な参考資料となっています。彼は、AI技術がもたらす利益を享受しつつ、そのリスクを適切に管理するために、多くの研究者や専門家と協力して働いています。
 
 また、ボストロムは、AIの安全性や倫理に関するガイドラインや取り決めを策定し、国際的な協力を促進することで、AI技術の発展をより安全で持続可能な方向に導くことに貢献しています。彼は、AIの倫理問題に対する啓発活動や教育も積極的に推進しており、次世代の研究者や技術者に対しても影響を与えています。
 
 ボストロムの研究は、国際的な政策立案者や企業、一般市民の間で、AIのリスクや倫理的問題に対する認識を高める役割を果たしています。彼の貢献によって、AI技術の発展が人類全体の利益になるような方法で進められることが期待されています。ニック・ボストロムは、AI倫理問題において、我々が直面する未来の課題とその対処法を理解する上で、非常に重要な人物だという説もあります。
 
 然しながら、AI無知倫理学会においては、ボストロムは『無知』の観察対象となっています。

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