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ラ・ブランシュ 田代和久シェフ「一料理人としての自分に向き合う時間」

4月初旬から臨時休業としたのち、5月8日から営業を再開した「ラ・ブランシュ」。「70歳の自分にとって、1ヶ月の休業は1年くらいの思い(笑)」と田代和久シェフは話す。休みの間は、自分自身をあらためて見つめる時間になったという。

◆ラ・ブランシュ(東京・青山)基本情報
・テーブル 18席
・おまかせコース 通常時 ランチ6000円、7800円、1万円(時間短縮時は7800円、1万円)、ディナー1万円、1万3000円
・1986年オープン
◆コロナ後の対策[5月14日現在]
・4月7日〜5月7日 臨時休業
・5月8日〜 時間短縮にて席数を絞り、ランチ・ディナー営業

――1ヶ月ぶりにお店を開けて、どのような感触でしたか。

やはりドキドキしましたよ、こんなブランクがあったのは34年前に店を開いて以来、いや、料理人の修業をはじめて以来のことだったので。

休み中も、料理は考えていたんです。ただ、店を再開していちばんに出したいと思った料理は、休んでいる間に考えた料理とはまったく違うものでした。

おまかせのコースでやっているのですけれど、結局、素材を手にして、オーブン前に立って、その時感じたことが料理になるんですよね。

何よりもその時に自分が食べたいものを作る。その感覚が一気にグーッと戻ってきました。ちょっとホッとしています。

――お店を閉めている間の1ヶ月は、どのようにして過ごしましたか。

店をひと月閉めるという決断は、やはり断腸の思いというのはありました。しかし休むとなったらのんびりしていました、本を読んだり、考え事をしたり。あと、店を再開した時に足腰が弱っていたら困るので、毎日公園に行って2時間ほどウォーキングしていました。樹が茂っていて山道があるような、大きな公園が近くにあるのです。

自然の中を歩いていると、花が咲いていたり、葉っぱが本当にきれいな緑色に光っているのをたくさん見るわけです。そうすると「自然はすごいな、毎年同じ時期に花が咲いて。動じないな……」と感じ入りますよね、やはり。こちらも気分がほぐれて自然体になります。

とはいえ、人間が生きていくのはやはり大変(笑)。特に僕は今、70歳だから。この先、どれくらい料理ができるかどうか考えると、一日一日の重みを気にしないわけにはいかなかった。

――重みのある1ヶ月。

そうなんです、料理人としての僕に残されているのは、本当に貴重な時間。まさに有効年数(笑)。1ヶ月といっても、僕にとっては1年くらいの思いがありました。

でもそこは、ガマンだと自分に言い聞かせました。

――1ヶ月休んだのち、店を再開すると決めていましたか。

そうですね、状況を見つつとは思っていましたが、じっとひと月休んで、それからは基本的には再開しよう、と。

実際は、緊急事態宣言は延長されましたが……。延長を聞いた時、正直、脱力感がありました。この状態をあと1ヶ月間か……というのは、自分としては難しいな、と。なので要請に応じた時間の範囲内で、お客さまどうしのスペースをあける、換気や衛生面で十分に注意を払いながら再開することにしました。

4月の頭に店を1ヶ月休業すると決めたきっかけは緊急事態宣言の発令でしたが、理由は、スタッフやお客さまが店で感染するかもしれない、それは防がなくてはならない、ということ。ただし、その1週間ほど前からお客さまも店側もどこか気を遣うというか、後ろめたい気持ちになってしまうのが嫌だったのです。

その雰囲気は、もしかしたら今後も続くかもしれません。しかし、こちらでできることはすべてやる。その上で営業するという選択を、僕はしました。

34年間、「ありがとう人生」の気持ち

――長い休みが終わりに近くにつれ、早く厨房に立ちたい、料理をしたいという気持ちは強くなったのではないでしょうか?

 そういう面はありますね。ただ、5月に入ってからの1週間は早かったですね。「あと1週間」と思っていたのが、「え?明日から?」となるまでが本当にすぐ。もとの生活に戻るのがイヤだったのかな(笑)?

たしかに、店を開いてからずっと、朝の9時から夜の11時まで厨房にいる生活をしていたので、これではいけないな……という思いがどこかにあったのかもしれません。一応今は週休2日にしているけれど、やはりまとまって考える時間は少ないですよね。

なので休んでいる間は、一料理人として自分と向き合う時期になりました。フランス料理の料理人というより、もっと根源的なところで。なぜ自分は料理をやっているのだろう? 自分にとって料理とは何だろう? と。

――どのようなことに、思いが行きましたか?

大切なのは、料理に対する情熱を持ち続けること、感動する心を忘れないこと。その上でお客さまに対して「ありがとう」、来てくださって「嬉しい」という気持ちを伝え続けること。

店を開いて34年。料理人としてはお客さまやスタッフに助けられた「ありがとう人生」だということが、あらためてわかりました。たまに「このやろう人生」と思うこともありますが(笑)。

今回のコロナもそうですが、自分ではどうにもならないことに突き当たることは、生きていればどうしてもあります。そんな時は自然体で受け止めるのが大事なのでしょう。そして先々のことがわからないのなら、なおさら、1日ずつを大切に生きる。情熱とガマンは表裏一体。そんな気持ちで今はいます

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田代和久
1950年福島県生まれ。国内とフランスでの修行を経て、1986年に「ラ・ブランシュ」をオープンする。
ラ・ブランシュ
東京都渋谷区渋谷2-3-1 青山ポニーハイム 2F
03-3499-0824

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