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シチリア料理店 フィーコディンディア 横井拓広シェフ 「店を続けるために必要な視点」 5月7日

明るく元気いっぱいの横井拓広シェフが率いるシチリア料理店「フィーコディンディア」。新宿から急行で1時間ほどの郊外、神奈川県の本厚木駅の近くに立地する、地元密着の店だ。横井シェフは前向きに、かつシビアに今の困難な状況に立ち向かう。

◆フィーコディンディア(神奈川・本厚木)基本情報
・テーブル31席、カウンター6席
・ランチはパスタランチ、1460円・2920円のコース。ディナーコース3740円〜、アラカルト
・2009年オープン
◆コロナ後の対策[5月7日現在]
・4月5日よりテイクアウトとケータリング(カレー500円〜、ピッツァ800円〜、丼もの750円、パスタ弁当900円など)、コースのケータリング(4000円〜)、コースの出張料理(出張費3000円、コース7000円〜)を開始。内容の詳細はフィーコディンディアの公式フェイスブックページ参照
・席数を絞ってのディナー営業

――東京のベットタウンで、住宅地を控える立地です。テイクアウトの需要は高いと思いますが、反応はいかがでしょうか。

毎日、本当にバタバタしています。普段の営業の倍くらい忙しいですよ! ありがたいことに、お客さまにたくさん来ていただいています。

できることはかたっぱしからやっていて……。スタッフみんなで一生懸命話し合ったり、考えて、行動しながら改善している日々です。とにかく必死です(笑)。

仕込みの量が普段の比ではないのでスタッフに負担をかけてしまっているのですが、徐々によくなってきています。4月初頭にテイクアウトをはじめた頃は保健所に直接ひとつずつ不明点を聞いたり、ウェブでテイクアウトのポイントを調べたり。何をするにも時間をとっていたのですが、その部分はスムーズになりました。

商品ごとの売れ行きのデータもとっていますので、仕込みの数や発注する材料の量、原価の付け方なども適正になってきました。これからはスタッフが疲弊しないようなオペレーション作りに力を入れねば、と思っています。

売上の面は、最初のうちは、やはり通常営業の半分以下といったところ。とにかく手探りでしたから。それが1ヶ月ほどして、損益分岐点が見えきました。

――それはすごいですね! 普段から地域のお客さまをとても大事にしているので、応援してくれる人も多いのでは。

本当に、感謝してもしきれない思いでいっぱいです。

今までも感謝してやってきたつもりですけど……。それとは比べものにならないくらい今、助けていただいているので、何というか、反省してしまうくらい。それで気持ちが落ち込んでいた時期もあったんです(笑)。自分は本当にまだまだだな、と。

皆さんに「頑張ってください」と言っていただいたり、「うちのマンションにポスティングするから、チラシちょうだい」なんて言ってくれる方もいて……。もう、泣いちゃいますよ。本当にありがたいです。

「シチリア料理店」という専門性は、一旦おいておく

――テイクアウトはどのようなスタイルで、どのような商品を販売していますか。

テイクアウトの商品は基本的にお電話で注文をお受けして、11時〜14時、16時〜19時の間にお渡ししつつ、その場でお買い求めになるお客さまにも販売します。

内容は特製のカレー、ピッツァ、ローストビーフ丼などの丼もの、パスタ弁当などがメインです。値段は700〜800円台が中心。そのほか、前菜盛合せ、肉料理や魚料理などのセコンド料理も夜はよく売れます。お酒と一緒に召し上がっていただく需要があるのでしょう。

全体としては、やはりカレーや丼ものなどのご飯ものがよく売れます。そこにニーズがあるのかな、と。

うちはシチリア料理店ですが、その専門性は一旦おいといて。「家で食べるなら何がいいか?」、「日常の中で必要とされているものは何か?」を考えることが大事なのだと実感しています。

――テイクアウトのほかは、どのようなことを?

一定のお値段以上お買い上げという条件つきですが、テイクアウトと同じ商品のケータリングもしています。

そのほか、前菜からパスタ、セコンド、ドルチェまでのコースのケータリングするサービスと、僕がご自宅に伺ってコースを作る出張料理も行なっています。週末を中心にけっこうご注文をいただいており、誕生日などの記念日のご利用も。「レストランに行く代わりに」という需要なのだと思います。

あとは、ディナータイムのみ、お客さまの組数を絞った上でのレストラン営業もしています。もちろん衛生、換気は徹底して、お席の距離も十分にとって、というスタイルです。

――コースのケータリングや、出張料理もなさっているのですね。

そうですね、数字的なことを言うと、これらは売上のアップには欠かせない存在となっています。客単価が高いことと、2名さまからご注文いただいていますので、まとまった売上が得られます。

なおうちは、僕のほか社員が6名(フィーコディンディア5名、すぐ裏の支店「ダーリ」1名)います。それで対応できている、という面もありますね。僕が出張料理でいなくても回りますし、スタッフがケータリングできる。あと意外と日々の注文の電話受付にも時間がとられるのですが、その対応をしながらでも厨房への負担を最小限に抑えられます。

社員が多いと当然固定費もそれだけかかるのですが、だからこそできることを探す。そうやって売上を重ねていくのが重要だと思っています。

資金のこと、未来を見据えること

ーーテイクアウトを1ヶ月強続けて、何か意外な発見などはありましたか。

意外な気づきというか手応えとしては、レストランとしての「伸びしろ」を見つけることができた、ということが大きいです。

テイクアウトは、僕たちが今まで手をつけていなかった試みです。そこに新しい需要を見いだせましたし、地域のお客さまの役に立つ新たな方法を見つけることができました。

テイクアウトは、コロナの影響が落ち着いても長く続けていけるのでは、と考えています。

――先々のことも考えている、と。

ただ、こうして先のことを語ることができるのも、運転資金をしっかりと調達できたからに尽きます。どんな変則的なことが起きでもスタッフと店を守るために早く動く。そこは経営者として絶対に外してはいけない点だと、前々から肝に銘じていました。

うちは、送別会などの3月の繁忙期のキャンセルがドカンドカンと入り、その頃から「これはウィルスなので長期化するな」、「ならばまずは、できるだけたくさんの運転資金を調達せねば」と動きました。それで、日本政策金融公庫に融資を申請し、いち早く資金を得ることができたのです。

融資というと「借金」というイメージがありますが、そうではないと考えています。据置き期間を最大にとり、返済期間をできるだけ長く設定すれば――今はそれができる特例措置が取られているので――レンタル料金を払う、という感覚で返済できます。何よりも今を生き延びることを最優先に考えるのが大切です。

――これから、状況はどのように変わっていくと思いますか。

そうですね、コロナが落ち着いても、元の状況に戻るかといえば、そんなことはないと思うんです。

かといって、ずっとテイクアウトでやっていくのはどの店も難しいと思います。自粛期間が徐々に解除され、終わったら、その時お客さまにどんな時間をご提供できるか。ご提供すべきか。

まずは、お客さまが安心して来られるように「ここは衛生が完璧だ」と感じてもらうこと。そして、席の配置も余裕を持たせること。となると、客単価や料理をどう変えるか……。

正直、何年がかりの問題になるか見えていませんよね。なので、変な言い方かもしれませんが、「コロナに身を委ねる」という考え方をしていかなくはならないのかもしれない。

ただ、動かなければ結果はついてきません。考えつつ動き、改善しながら店を続ける。そして、お客さまのお役に立つ店であり続ける。その覚悟は持っています。

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横井拓広(左端)
1970年生まれ。2度にわたるシチリア修業などで経験を重ねる。2009年「フィーコディンディア」を独立開業。
フィーコディンディア
神奈川県厚木市旭町1-24-16
046-265-0297




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