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ラグビーW杯 9/22. 第2試合 アイルランド vs スコットランド レビュー

昨日のオールブラックス×南アフリカの試合レビューも好評で、なによりラグビー観戦が楽しくなったというブコメが嬉しくてたまらない。
僕としては「わかりづらい」と言われたり、「興味ない」と言われたり、そうかと思えばどうも変な話題が注目されたりするラグビーの、その競技自体の楽しみを分かち合いたかった。

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今日22日は、日本と同じプールでやがて相まみえるスコットランド×アイルランドの試合が行われた。
もうすぐ戦う相手がどんなチームかを知れば、単純に「日本頑張れ、すげー、なにやってんだ」以外にもうちょっと違う楽しみ方を提供できるかも知れない。
この対戦のキーワードは「ストラクチャー」と「アンストラクチャー」、そして「雨」だ。

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「ストラクチャー」と「アンストラクチャー」は、敵味方の状況に応じた陣形の状態で、「ストラクチャー」とは攻守双方、準備万端ラインが整っている状態をさす。
対する「アンストラクチャー」は、ライン状態がグチャグチャで、攻めようにも綺麗にできないし、守ろうにも予測不能な状態を指す。

「ストラクチャー」はスクラムやラインアウトから、「アンストラクチャー」はハイパントの落下点の競り合いや、相手の攻めからボールを引っこ抜くなど攻守交代、ターンオーバーから起こりやすい。
「ストラクチャー」は準備がモノを言い「アンストラクチャー」はしばしばアドリブ合戦になってしまう。

両国の関係でいうと、アイルランドは「ストラクチャー」に強く、スコットランドは「アンストラクチャー」に強い。

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ただここに要素を加えるのが雨で、アンストラクチャーからスピーディーなアドリブを仕掛けようと思うと、パスが速かったり複雑になりやすく、雨でボールが滑ると厄介なことになる。
ストラクチャーでも複雑なことはできるが、短いパスや力押しで極限まで単純に、遅く、確実にもできる。

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両国の力関係でいうと、近年はアイルランドが圧倒的に強く、スコットランドといえばUK陣の中では身体が小さく常に相対的弱者、いつでも工夫と諦めない姿勢でサバイブしてきた。
そんな彼らの近年の活路がアンストラクチャーラグビーなのだ。

しかし今日の天候いかんで自分たちの強みを出しづらくなる可能性がある。
さて台風が迫る横浜、雨がいつ降り出すか。

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キックオフ、試合の入りはスコットランドがキックを執拗に蹴って自分たち好みのアンストラクチャーゲームを演出、しかし5分、逆にその混乱から抜け出したアイルランドがパワーでねじ込んでトライを奪った。

アイルランドは世界最強のフィジカル軍団などと言われて、確かにそうなんだが、反応速度も個人のスキルも、戦術眼も高い。
陣形がくずれても一瞬の反応で大男が切り返してくるのだ。

スコットランドはそれでもキックで不確実性からチャンスを探すプランを変えない。
スコットランドの勝機はそれしかない。

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両チームもスプリントが爆発的に早いので何が起きるかわからないスリリングな展開の中、14分、アイルランドがペナルティーを得て必殺のモールを繰り出し、2トライ目。

アイルランドの恐ろしいところは1人でも強いが、固まるともっと強いところ。
南アフリカはフィジカルこそ凄いが、どこかナイスガイみたいな素朴な感じがあるのに対し、アイルランドは暴力的なほど圧倒的なフィジカルで迫る上に、顔がシリアスでなんか怖いのだ。

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12点差を追うスコットランドは17分、自陣でモールをやり返す。

モールで前進できるのはいいとこ7〜8mほどなので、こんなにトライから遠いところからちょっと前進しても一見合理性がなさそうだが、そういうのがしばしば冷静になるきっかけだったりする。
それに、集団での力押しは合戦はラグビーでは自信や意地という面で象徴的な意味を持つ。
膂力で勝てないのが明らかでも、それを簡単に認めてはいけないのだ。

ここで一瞬流れを取り戻しかけた。

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しかし24分、ファンブルからアイルランドが大きく前に蹴り出したキックが、アイルランド陣ゴールポストに当たって、結局不利なリスタートが適応される状況になる。
5mスクラム、それをアイルランドがねじ込んで3トライ目。

スコットランドは攻めは決して悪くないのに、運が悪く、猛スピードで台風のように迫る怪力男だけでなく、運とまで戦わないといけない。

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その後、何度もスリリングな展開があったが、スコットランドは必死の抵抗でギリギリのところで踏みとどまる。
40分のアイルランドのペナルティーゴールも外れ、前半終了。
16点差をつけられたスコットランドは2トライ以上とらないと逆転できない。

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後半、横浜競技場は雨が降りだした。

試合開始から双方蹴りまくるハイパントだが、その目指すものがアイルランドとスコットランドで違う。
アイルランドはハイボ後にタックルを食らって停止しても、ゆっくり前進すればいいし、落球してスクラムで力勝負になっても崩していける。
しかしスコットランドはできれば再獲得して、プレーを切らずに抜け出したい。
こうなるとアイルランドの方が選択肢が多い。

ボールが滑る雨はスコットランドに不利なのだ。

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55分、そんなハイパント合戦からアイルランドが4トライ目。
雨という状況もあるが、キックの精度自体も全体的にアイルランドの方が高く、スコットランドは自分たちにうまくボールが入るキックを蹴れない。
スコットランドは、主にキックを蹴っていたSHレイドローを下げ、キープする戦術に変更した。

しかし、そもそもが展開でアイルランドのディフェンスを突破できないからのキック戦術であり、キープして走ってもやはり突破できない。
スコットランドには手詰まり感が漂う。

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それでも諦めないスコットランドは70分ごろ、FBスチュワート・ホッグがぬけだし、それを止めようとしたアイルランドが悪質な反則でイエローカード。
10分間退出で数的優位を得る。

しかしそこでもアイルランドの集中力がすごく、攻めきれない。
その後点は動かず、27-3でノーサイドとなった。

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パワーで勝り、技術も高く、ストラクチャー状況でも勝てるアイルランドだが、結局ほとんどの得点はスコットランドが仕掛けるアンストラクチャーからの切り返しであげた。

スコットランドとしては自分たちが賭けた不確実性をモノにできなかったのと、雨、そして爆発的なスプリント能力を誇る飛び道具のスチュワート・ホッグが完全に封じられたのが痛かった。

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この試合を通して、両軍が蹴りまくったハイパント、「古典的な戦術だ」という意見があった。
慧眼のファンがいて嬉しい。その通りだと思う。
ただ、あの瞬間に何が起きているのか、みんながもっと楽しむために、増田にさらに解説を付け加させてほしい。

確かにハイパントは昔からあるプレーで、「弱者の戦術」と言われていた。
20年ほど前の大学選手権では明治や早稲田に挑む慶應大学がよく使っていた記憶がある。
それは地上戦で勝てないから一か八かを狙う感じだ。

ただ、近年活用方法が変わってきて、増田の記憶に残っている観測では前回のW杯直後にオールブラックスが採用し出した。
不確実性では同じだが、ハイパンを相手がとって着地した瞬間にタックルを見舞って止める、あわよくば誰かが落下点に走り込み競って直接再獲得、相手がファンブルした場合、プレーが止まればノックオンという反則で自軍スクラムだが、笛を待たずに自分たちで拾って継続すれば、自軍有利なのでプレーは継続される、その瞬間はディフェンスが崩れきっていて最大のチャンス!という確立された戦術に変化した。

これは、選手のアスリート能力の向上と、戦術分析を背景に、地上戦だけのディフェンス突破が難しくなった事に対する対応だった。
今日のスコットランドがしたいことは多分これだった。

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さて、日本はこの両国と戦うことになる。

今日の結果を見れば、アイルランドには隙がなく、スコットランドの方が相対的に与し易くも見える。
しかし、じゃあ、スコットランドをターゲットにして、アイルランドは負けても仕方ないよね、という損得勘定でスコットランドに臨んで勝てるだろうか。

理屈で言えばそうかもしれないが、増田はこの絶望的な状況でも諦めないクソ意地を見せつけたスコットランドに、そんな半端な精神性で挑んで勝てるとは思えない。

そもそもスコットランドは「相対的な弱者」であって、日本にとっては「強者」だ、「弱者の戦術を知り尽くした強者」ほど困った敵もいない。
「アイルランドを抜いて戦う分、スコットランドで必勝」などというヌルい精神状態を利用されない訳がない。
今日わかったのは「アイルランドは引くほど強い」「スコットランドはどんな状況でも諦めない」という事だ。
さて、日本はこの2国にどう挑むだろうか。

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最後に、レフェリングへの絡みについて質問があったので少ない知識でも答えられることを答えたいと思う。

ラグビーにおいて、レフェリーに対して長く会話ができるプレーヤーは双方のキャプテンのみ。
それも、レフェリングに対して「抗議をする」というより、レフェリングへの「解釈を聞く」というもの。

なぜそうなるかというと、そもそもラグビーはレフェリー不在で始まったスポーツであり、「ラガーマンとして恥ずかしくなく振る舞おうぜ」って具合に選手同士の話し合いで反則の適応を決めていたのだが、あまりに速く激しく複雑になりすぎて、「これちょっと選手同士じゃ無理だね、誰かに頼むか」と「判断をお願いする」形でレフェリーが登場した。

自分らの都合で呼んでおいて、抗議とかねぇ・・・変でしょ。

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そして「解釈」なんだが、ラグビーではあまりにもカオスなことが起こりすぎて、反則などについてきっちりしたルールを文字通りに適応すると、しばしば「あれ、反則もらったけど逆に損じゃん」という矛盾した状況が起きてしまう。
前後の文脈で適応の判断をするケースが結構ある。

また、外から見るとわかりづらい状況でレフェリーによって、反則のラインが異なったりする。
典型的なのがスクラムで、あれは「故意に崩すと反則」なのだが、何をもって「故意」とするか、それにどっちが「崩したか」が非常にわかりづらい。
その判断はレフェリーに委ねられ、プレーヤーが「そりゃねーよ」と感じても「抗議」はできない。
せめて「あれアリですか?」「アリ」「どこでアリです?」「さっきのアレ」という感じで「解釈を聞いて活かす」ことしかできない。

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レフェリーはフィールドでは絶対権威なので、じゃあレフェリーは好き勝手に笛を吹いて選手は従うしかないのかとなるが、そこで問題になるのが「解釈の一貫性」で、解釈の線がブレると選手はレフェリーに振り回されることになる。
そうなると、「あのレフェリーって笛に一貫性がないよね」となり、あんまいい評価をされない。

でも、多分、問題は「評価が下がる」ことじゃなくて、「そんな笛を吹いて自分に恥ずかしくないのか」という事だと思う。
他者が律するとこができない権威なら、自分で自分を律するしかないのだ。
選手がレフェリーのせいにしないように振る舞うなら、レフェリーもまた自分の笛に責任を持たないといけない。

ラグビーに関わるなら、選手もレフェリーも、すべての人が「あいつがああいった」とか「自分が偉い偉くない」とかそういうことではなく、それに「ほかの奴はああじゃん」とかそういうことでもなくて、「自分がどうなのか」ということなのだ。

あんなにクソ走るスポーツについていきながら、不可解な状況を判定し、その上一貫性についても責任を持たないといけない、ラグビーのレフェリーというのはスゲーと思う。

ちなみに地上波放送されなかったイタリア×ナミビア戦では、スクラムを真横で見ていた豪出身のレフェリー、ニック・ベリーさんが、持ち出したボールでスクラムの真横を急襲しようとしたイタリアの8番に激突されるという一幕があった。
まあベリーさんは元ラガーマンで、レフェリーに転身してから現在も「その筋肉、いる?」って位にムキムキなので事なきを得たが。

もう一回いうけど、ラグビーのレフェリーというのはスゲーと思う。

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日本からは今回、アシスタントレフェリーとして、久保修平さんが参加している。
中継で名前を見つけたら探してみてほしい。

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あいーんシュタイン
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