ラグビーW杯 9/29. 第2試合 オーストラリア vs ウェールズ レビュー
土曜日の日本×アイルランドの大一番のレビューに好評をいただけて嬉しい。
文章や情報には色々なスタイルがあり、たくさんの人に注目を浴びるスタイルはきっと色々存在している。
しかし、モチベーションを持たせるためには、単に注目を浴びるだけでなく自分自身で「それならする価値がある」と感じるスタイルを取るのが大事だと思う。
僕が届けたいと思うものは「世界や人々の振る舞いの美しさや面白さ」「可能性」「希望」だ。
そこにあるのに気づかれていないそれらにスポットを当て、その価値をみんなに届けて、みんなが「顔が下に向いた時でも『今日は上げてもいいかな』と思えるエネルギー」を感じることができるのなら、ちょっとぐらい手間をかけてもいい。
だから、その自分のスタイルで一時期SNS上でトップにまでなったことはとても嬉しかった。
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一夜明けた29日・日曜にはウェールズ×オーストラリアの優勝候補対決が行われた。
僕は当初の予定では、これをリアルタイム観戦できない可能性が高かった。
しかし、所用を済ませて偶然通りかかった場所でパブリックビューイングがあり、開始10分ほど経った後ではあるが、実際の応援を周囲に感じながらこの1戦を観る偶然に恵まれた。
そこで、オンデマンドで試合を最初からもう一度見直して、その試合自体の詳細と、日曜日に感じた観客の盛り上がりを合成するという、基本価値は変わらないものの、少しアレンジを加えた違う切り口のレビューを届けようと思う。
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さて、開幕戦で個々の強さとインスピレーションを誇るフィジーを組織力で圧倒したオーストラリア・ワラビーズと、前半圧倒しながら後半ジョージアに手痛い反撃を受け不安を残したウェールズ・レッドドラゴンズ。
プールDは予測不能なフィジーが2敗した今、実力と安定感からこの2チームに敵はなく、この1戦を制したチームがノックアウトラウンドへの進出に大きく前進する。
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オーストラリアは先週からゲームをコントロールをするSHとSOを変え、日本の神戸製鋼でもプレーする大ベテラン、アダム・アシュリー・クーパーをウィングに据える。
ウェールズは控え1名を除いて先週とおなじメンバーのままだ。
僕の印象ではオーストラリアは縦横無尽に走り回る機動力と組織力、ウェールズはフィジカルを活かした鉄壁のディフェンスとキック、一撃必殺のセットプレーが武器だ。
そして、両チームとも勝負所や試合運びなどのラグビーIQは高い。
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先週勝ち試合で顔色を失ったウォーレン・ガットランドHCと、普段は知的なビジネスマンの顔も持つのに、代表試合だとなぜかキレまくる場面ばかりカメラに抜かれるマイケル・チェイカHCの表情が映された。
オーストラリアは数年間苦しんだ不調から開幕直前に急速に完成度を上げてきた印象があるが、その復調は本物だろうか、また、ウェールズは不安を払拭できるだろうか。
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前半、キックオフからの争奪戦でボール獲得したウェールズは、開始1分でダン・ビガーがいきなりのドロップゴールを放つ。
立会いの張り手を繰り出すような飛び道具が決まって0-3。
奇襲で3点を奪われたオーストラリアはモールからウェールズが蹴ったキックをとって切り返し、スタイル通りの展開ラグビーで攻め立てるが、インターセプトからカウンターを食い、なんとかこれを凌いで、10分にマイボールクスラムを得て落ち着いた。
しかしこのスクラムでは組み負けて反則を与えてしまい、ウェールズが必殺のセットプレーの機会を得る。
開幕10分間で展開が目まぐるしい。
12分、ウェールズはこの攻防から、キックパスを見事とおしてトライを獲得、コンバージョンも決まって0-10。
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僕もこの直後辺りでパブリックビューイングへ到着。
会場は母国を応援するために駆けつけたであろうオーストラリア・ウェールズ双方のサポーターと、日本のラグビーファンでごったがえしていた。
僕が落ち着いた位置の後ろにいる長身の青年の一団は、赤い装いを見る限りウェールズサポーターだ。
先ほどのトライでどのような歓声を上げたのだろうか。
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16分、再びウェールズが中盤の攻防からドロップゴール、これは外れたが、この直前のオーストラリアのディフェンスのプレーでやや遅れ気味の危険なタックルがあったということで、ペナルティが与えられた。
スタジアムにウェールズサポーターのブーイングが響き緊迫感が漂う。
ここまで、攻める時間帯の少ないオーストラリア。
タックル数とタックル成功数はオーストラリアが圧倒しているが、それは「守勢に回っている」ということだ。
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20分、ウェールズの反則からのセットプレーでようやく攻めるオーストラリア、ボールをつなぎまくる連続攻撃から、お返しとばかりのキックパスが飛び出し、35歳の大ベテラン、アダム・アシュリー・クーパーが飛び込んでトライ!
ここでコンバージョンを狙うオーストラリアSOバーナード・フォーリーだが、パブリックビューイング会場ではこのコンバージョンキックにウェールズサポーターが容赦ないブーイングを浴びせる、行儀悪いなこいつら。
これが届いたわけではなかろうがキックは外れスコアは5-10。
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その後も攻めるオーストラリアだが、偶発的な反則でボールをウェールズに渡すと、僕の周りのウェールズサポーターから歓声、その後裁定が覆りオーストラリアボールのスクラムになると三度のブーイング。
ウェールズサポーターは実に感情に正直だ。
攻守が入れ替わるめまぐるしい攻防に、パブリックビューイングでも歓声が止まる暇がない。
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28分と31分には反則を得たオーストラリアとウェールズがともにペナルティゴールを決めて8-13。
30分を過ぎ徐々にリズムをつかみ、攻撃する時間が増えてきたオーストラリアだが、細かいエラーで前進できない。
反則やエラーで攻撃が止まるたびにシューンとなってしまうオーストラリアサポーターに対して、これに容赦ない歓声を浴びせるウェールズサポーターは全く可愛げというものがない。
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35分、再びオーストラリアの突進中にやや危険な押しのけ(ハンドオフ)があったのではないかということでペナルティ。
両陣営サポーターから響くブーイングに退場者こそ出ていないものの、不穏な空気の試合になってきた。
ウェールズがペナルティゴールを決め8-16。
その直後、キックオフからの攻防でオーストラリアのパス回しのタイミングを読んだウェールズがボールをインターセプトしトライ、コンバージョンも決まって8-23。
このスコアで前半を終了した。
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流れを引き寄せかけたオーストラリアの一瞬の隙をついて突き放したウェールズ。
後半はどちらが試合をコントロールするだろうか。
ハーフタイム、パブリックビューイング会場では両軍のサポーターが席を立ち、ビールを買う列に並んだ。
モニタを前に、試合を盛り上げるため元日本代表・畠山健介とお笑い芸人が壇上に上がる。
僕もそばにいた一人で来ていると思しき人にプレーの解説などをしていたが、壇上の様子を見ていたおそらくはオーストラリアのサポーターに「あいつらは誰だ?エンターテイナーか?」と話しかけられる一幕もあった。
質問には笑顔で適当に答えた。
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後半、オーストラリアのキックオフ。
本来はボールを持って走り回りたいオーストラリアはここまで長時間ボールを持てていない。
自分たちのスタイルを立て直したいところ。
攻めるオーストラリアだが、この攻めが反則で止まってしまう。
ここからの反撃で、ウェールズはまたドロップゴールを出し、飛び道具でスコアを8-26とした。
観戦に来ていた元日本代表HCにして現イングランドHCエディー・ジョーンズがカメラで抜かれると、なぜかスタジアムで上がるブーイング、それはなんでだよ、今日ちょっとブーイング多いな、おい。
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45分、リスタートからやっと「らしい」連続攻撃で攻めるオーストラリアがこれを取り切ってトライ。
コンバージョンも決まって15-26。
追い上げムードになってきたオーストラリアだが、この「11点差」というのは微妙な点差だ。
もしこれが10点差なら、相手がペナルティをしてキックを獲得すれば7点差、ワントライで追いつける。
しかし、この点差だと追いつき追い抜くのに2トライ以上が必要だ。
この1点が大きな意味を持ってくるかもしれない。
カメラで抜かれるマイケル・チェイカHCは今日はまだキレてない。
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50分ころ、修正が入ったのか、スタイルを取り戻して調子が出てきたオーストラリアがまたも連続攻撃で攻め立てると、僕が観戦するパブリックビューイング会場ではウェールズサポーターの合唱が響く。
ラグビーの応援で合唱というと、イングランドのスウィング・ロウ・スイート・チャリオットなど、「前進する味方の背中を押し鼓舞するもの」という印象があるが、この合唱はまるでオーストラリアを恫喝して攻勢をかき消さんとするような雰囲気のもので、全くウェールズサポーターは素晴らしくガラが悪い。
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54分、大して大柄でもないマイケル・フーパーがタックルで赤い二人をタッチに押し出してから、再びボールをつなぎ攻めるオーストラリア、敵陣深くに攻め込み、続くラインアウトからゴールライン間際までウェールズを押し込む。
残り2mで耐えるウェールズ。
この攻防で取りきれるかどうかはおそらく大きな意味をもつ。
60分のタイミングで取りきれないチームが試合を逃す場面を何度か見てきたが、やはりオーストラリアは役者が違った、5分以上も続く力押しの攻防を制してトライを獲得、コンバージョンも決まって22-26。
あと4点で点差は振り出しだ。
後半全くボールが持てないウェールズは豊田スタジアムでの悪夢がよぎる。
さらに66分、スクラムで組み勝ったオーストラリアはペナルティーキックを獲得するが、ここで僕はこの判断の評価に迷った。
確かにイージーで決まる位置だ、でも3点しか取れない。
この攻勢なら前進してトライを取りに行った方がいいのではないか?
しかし残り14分はまだ3プレーは応酬できそうだ、逆転まで十分な時間とも言える。
判断できないままキックは決まって25-26、あと1点。
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しかし71分、キックオフからの攻防で、今度はウェールズがペナルティーキックを獲得、外すウェールズではない、25-29、再び4点差、オーストラリアの逆転ラインがペナルティゴールの外に遠ざかる。
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74分、あと6分というところでウェールズがスクラムを獲得。
日本×アイルランドほど決定的な時間帯ではないが、ここで時間を使うたびに、一連のプレーを試みられる時間は減っていく。
スクラムを焦らしまくるウェールズ。
なんとかこれに組み勝ったオーストラリアだが、この時間稼ぎが効いた。
オーストラリア最後の猛攻を守り切ったウェールズが80分、フルタイムを知らせる銅鑼が響いた直後にボールを蹴出してゲームを強制終了。
パブリックビューイングはウェールズサポーターの大歓声があがり、会場はスタジアムの熱気をそそまま持ってきたような雰囲気に包まれた。
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ウェールズは前半圧倒されながら後半追い上げられるという、先週をなぞったような展開だったが、今日の相手は優勝候補だし、勝ちは勝ちだ。
オーストラリアは前半の不出来と後半の攻勢に転じながらも遠い1点に泣くことになった。
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僕としては、偶然得たパブリックビューイングでの観戦で、両国の、いや、どっちかっていうと主に、なんと言うか、いい意味でわかりやすいウェールズサポーターの応援を身近に感じることができて、大変楽しい80分だった。
みんなの近くにもパブリックビューイング会場はあるだろうか、入場無料の会場も多くある。
身近にあって、まだ体験していないその価値を、是非確かめてみてほしい。