みみずと魚と兎、から作られるピザ屋の話。
ベトナムはホーチミンを訪れている。旅の前には決まってその場所のおすすめを友人たちに聞きまわるのだが、今回はここ「Pizza 4P's」の名前をよく耳にした。
ベトナムなのに、ピザ屋ときたか。
Pizza 4P'sは「Make the World Smile "For Peace."」をビジョンに掲げ、ベトナムで展開しているピザ屋さん。2008年に自宅の庭でピザを作り始めたオーナーの益子さんは、2011年、ベトナムにて1店舗目をオープン。「モ ノクル」が選ぶ世界のベストレストラン 50への選出を筆頭に、ものすごい勢いで成長している。現在は従業員数約1500名、13店舗。
今回はご縁があってオーナー夫妻をご紹介して頂いて、お話を聞いた。
まず入って紹介されたのは「ミミズ」。ほらほらと、誇らしげに段々に積まれた箱を開けて見せてくれる。カビが生えた土を素手でむんずと掴み上げると、そこにはたくさんの元気の良いイトミミズたちが。
この健康的でプリプリと肥えたミミズを乾燥させてピザにふりかけて食べると、それはもう美味いのなんの。
という訳ではなくーーー彼らの役割は別なところにあった。
お客さんたちの食べ残しをこのミミズ達に与え、土壌を肥やすのだ。そしてその土壌を使って、レストランの2階にある畑で野菜を育てる。
入り口には小さな池があって、やはり食べ残しを魚たちにあげる。魚たちのふんがホースを伝って畑に運ばれ、肥やしになる。
アクアポニックス、広義ではサーキュラーエコノミーと言われるこのような取り組みは特にヨーロッパで盛んになってきており、2030年までに下記の目標をEU全体で共有しいているようだ。
・2030年までに、加盟国各自治体の廃棄物の65%をリサイクルする
・2030年までに、包装廃棄物の75%をリサイクルする
・2030年までに、すべての種類の埋め立て廃棄量を最大10%削減する
また、コンサルティングのアクセンチュアが公表した調査によれば、サーキュラー・エコノミーに移行することによる経済効果は2030年までに4.5兆ドルに上ると報告されており、これまでのビジネスモデルの変換が期待されている。
要は、「無駄から富を生み出そう」という取り組み。環境にもよくて、経済的にもお得で、プロモーションの効果もあるよ、と。消費が循環していくようにシステムと環境をデザインする。
「ミミズと魚だけでは足りないので、これから兎を飼うんです。」
と嬉しそうにスタッフの方が説明してくれた。
とはいえ、食べ残しやフンを土に捨てるだけでは適正な循環は生まれない。Pizza 4P'sでは自社でチーズの生産も行なっているが、その製造過程で出るホエイという副産物を土に添加することで、腐食時に出る匂いとハエの発生を防いでいるという。無駄と無駄を合わせて土に加えることで、養分たっぷりな土壌を、クリーンに作り出す。
広い視野と科学の融合が、アクアポニックスを成り立たせている。
そうやって作られた土壌に苗を植えるのは、地元の子供達。
苗を植え、育つ過程を観察し、実際に自分で収穫して食べてみる。ピザに乗せて焼いて、家族と一緒に食事をする。自然との触れ合いを都会のど真ん中で作り出し、次の世代に考え方を繋いでいく。
やっぱり、会社はビジョンだ。なんとなくではなく、強い明確なビジョンが引っ張る世界観と、それを支える知識。この二つが融合し、Pizza 4P'sは成り立っている。
ひとつの飲食店の中で食べ残しを循環させたからといって、世界が変わるわけではない。環境破壊に歯止めをかけられるわけでもない。
しかしこれを長期的に見ればどうだろうか。ベトナムという経済成長が著しい国で、次世代を担う子供たちが食を通して自然に触れる。今までの経済社会では触れられて来なかった循環という考え方を肌で感じる。
そんな「機会」があるのとないのでは、きっとこの国の未来は違うはず。
そうそう、肝心のピザはもちろんうまい。上記のような背景抜きにして、何も知らずに食べたとしてもとっても美味しい。美味しいピザが、どこの国から来たスタッフでも焼けるようにと作業を細分化して分かりやすくしたり、他の飲食店とコラボでイベントをしたり、腕利きのシェフにメニュー開発を依頼したりと、そちらのほうも抜かりない。
1300件も入ってるグーグルレビューはなんと4.7。驚異的。
美味しい「だけ」のレストランは世界中にたっぷりとある。泊まれる「だけ」のホテルだって余るほどたくさん。
その中で我々は何に価値を見出し、そして消費という手段を使って、どのお店を、会社を応援していくのか。
ーーどうせ食べるのであれば、泊まるのであれば、お金を使うのであれば、それが少しでも世界の役に立つ消費のされ方であって欲しい。
こんなふうに思う人の数は、どんどん増えてるのではないかと思う。
「Think global, act local.」とはよく言ったものだけど、日本人が経営するベトナムのピザ屋さんで、初めてこの言葉の実物を見た気がした。
ホテルの未来を考える。toco./Nui./Len/CITANを手がけるBackpackers' Japan代表、本間貴裕のノート。