架空商品 取り揃えております (2)
【月雫を呼ぶ声】
満月の夜、月明かりにしばらくかざすと月の雫を一滴だけ受け止められる、砕けた瑠璃色をした点眼容器。雫を眼球に落とし瞼を下ろすと刹那、あなたは月面から地球を眺めている。
【爪巾着】
手指の生爪をすべて剥がして巾着袋の中へ入れ、1万回巾着を揉むと生爪は粉末になる。これを水で喉へ流し込めば紛失したリモコンの場所がわかる。
【万癒一輪(ばんゆいちりん)】
この花器に水を注ぐと現世には存在しない花が一輪生まれる。それはあなたの精神状態に合わせて処方されたものである。
【赤頬餅(あかほほもち)】
見た限りでは丸餅のようだが色艶手ざわり揉み心地は赤ん坊の頬である。ひとたび触れば時間を忘れ瞬く間に一刻が過ぎている。人間国宝室瀬若水(むろせじゃくすい)だけがなせる職人芸だ。
【浄笛(じょうてき)】
この笛で『白河の風』を吹き鳴らすと濁った空は洗われ、澄んだ空気が広がる。夜空に麗しい月星が在り在りと姿を現し踊り出すだろう。
【天槽孔(てんそうこう)】
丸く小さい飾り気のないビニールプールのようなモノ。屋外でここへ水を溜めると水面にくっきりと空を映す。飛び込めばそこは高い高い上空。自由に青い空の中を泳ぐことが可能だ。ただ寝転がり漂いながら景色を眺めるのもまた良し。
【ソキューカメラ】
試しにどこかの建物を撮ってみよう。その場でプリントされる写真の中は時間が過去へ過去へとタイムラプス動画のように遡る。この土地はどう利用されてきたのか、どのような建物があったのか、変遷をその眼で確認可能だ。地球の始まりまで。
【カプセルトイ『彼の夢』】
カプセルに入っている紙には誰かが見た夢の内容とその夢を見た人物の最低限の情報が書かれている。これを就寝前水に溶かして飲むことで同じ内容の夢が見られる。複数枚を溶かして飲むとそれらが混成した夢に立ち入り可能だ。
【鳥門01】
朱色の0と1。0の穴に1を通すと性的絶頂を遥かに超える快感が全身を駆け巡る。使用するたびに世界のどこかで子どもの大切な宝物が粉々になる。
【幻惑の書】
題も著者の名も記されていない。一見すると何の変哲もない日本語であり現代語の文章で執筆された書物であるが理解不能。読んでいると一瞬意味を掴めそうにはなるがたちまち煙になる。誰にも読み解けない。一部の好事家の間では高額で取引される。
【千の海】
各頁が世界の海中へ繋がっている書物。宮古島、エジプトの紅海、パラオ、ガラパゴス諸島等々。頁を覗けば様々な海の生き物が間近で見られる。手を中へ入れると触ることも可能。釣りを楽しむのも良いだろう。
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