「踏み間違いによって、大切な人を亡くす人も不幸になる運転者も生まれない社会を実現する」 エンジニアリングで安心安全な社会を実現する岡山老舗企業50年目の挑戦
株式会社英田エンジニアリングは岡山県美作市に本社を置くエンジニアリング会社です。長物の製品を大量生産する設備「冷間ロール成形機・造管ライン」をはじめ、金型、破砕機用刃物などを手掛けています。駐車場管理システムは全国のコインパーキングで採用されており、知らず知らずのうちに利用されている方も多いはずです。近年では、自動車の盗難防止装置「i/lock(アイシャロック)」やアグリビジネスも試験運用を開始。今年で創業50年を迎える英田エンジニアリングは、ある事故をきっかけに自動車の踏み間違いによる事故なくすため「アイアクセル」の開発に力を入れています。万殿社長に、その想いを伺いました。
アイアクセル開発の経緯
美作市長から車のアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故の対策商品の製品化の依頼を受けたことが開発の発端でした。試作品を見て商品化の可能性を感じ、特許使用許諾を得て製品開発に着手しました。しかし、試作品には耐久性や品質面で課題があり、弊社の技術者が大幅な設計変更を行いました。国土交通省の性能認定取得にも苦労しましたが、無事に認定を取得でき、販売することが出来ました。
そもそも開発のきっかけは、高齢者を中心とした踏み間違い事故を防止したいという思いからでした。また、2019年4月に起こった東池袋自動車暴走死傷事故も大きかったと思います。このような事故がなぜ起こるのかというと、車自体の構造的な問題があるからです。ブレーキとアクセルを踏み間違えると、人間はパニック状態に陥り正常な判断をすることができなくなります。もし、アイアクセルが付いていれば、アクセルキャンセルによって減速するので、あのような大きな事故にはならなかったと思います。
また、英田エンジニアリングの拠点がある岡山県内でも同様の事故が多数起きています。都会に住んでいる人は「免許を返納したらいい」「お年寄りが車を運転するから危ない」という判断になりますが、中山間地域に住まう高齢者の方は、10キロかけて病院へ通院、スーパーへは5キロかけて通う生活をされています。これは自分で車を運転しなければ、到底不可能です。タクシーやデマンドバスもありますが、デマンドバスの場合、乗り場まで何キロも歩かないといけません。たとえお年寄りであったとしても、自分で車を運転して行くしか方法がないんです。そのような実態を踏まえると、机上の理論だけでは解決できる問題ではないと思い至りました。なので、アイアクセルのような製品を開発することが社会貢献になる、商売として捉えるのではなく、困っておられる人の手助けができればと思って事業を行っています。
近所のおじいさんからの相談
数年前の夏のある日、孫のラジオ体操に一緒に行っていたところ、近所のおじいさんが話しかけてきて、アイアクセルをつけようと車を購入した販売店に行ったところ、古いから付けられないと断られたと聞きました。以前から、家族に免許を返納するように言われていたようで解決策を探していたそうですが、息子さんに岡山市内から帰ってきて送迎役をしてもらうわけにもいかない。長距離の運転をするわけではないが、自分の病院や買い物など、週に3日ほど10キロ、20キロはどうしても運転しなくてはいけないとのことでした。車を取り上げられては、病院にも行けなくなる、食べるものにも困る。なので、アイアクセルを付けて、家族に運転してもいいと言ってもらえるようにしたいとのことでした。
実際に車を見せてもらい、社内の技術者に確認したところ、改造すれば付けられるとのことで、取り付けてもらいました。息子さんが帰ってきた時に、実際に車を乗っていただき、これがあれば気をつけて運転してくれればいいと納得してくれたみたいでOKを貰ったとのこと。高齢のため息子さんに免許証を取り上げられそうで困るといった時にアイアクセルを付けられたので、非常に喜んでくださって。本当に助かったというお言葉をいただき、これはやはり意味のある仕事だなと感じました。人の命を預かるので、大変なこともたくさんありましたが、安心安全で地域社会に貢献するというのも英田エンジニアリングの大きな目的の一つなんだと再認識し、だから引き続きやっていこうと社員を説得してここまでやってきました。
BtoBからBtoCへ、英田エンジニアリングの挑戦
元々は冷間ロール成形機をはじめとしたBtoB、企業に対して商品を開発することが中心でしたが、今回のアイアクセルはBtoC、つまり一般のお客様に使っていただくプロダクトということで、越えなければいけないハードルがたくさんありました。不特定多数の方たちに向けて販売するため、契約上の問題やリコールの場合の保険など、BtoBのプロダクトを扱っている時とは全く違う大変さがありました。しかし、一つ一つクリアしていき事業を進めてきました。その根元には、高齢者の方のアクセルとブレーキの踏み間違いによる悲惨な事故を1件でも減らしたい、そういう思いがベースにあります。
より多くの高齢者が働くこれからの社会
少子高齢化社会では、若年層の労働人口現象によって、慢性的な労働力不足が発生します。高齢者の方が活躍する場を広げていかないと社会が回らなくなっていく中で、ちゃんとした準備が必要だと思います。例えば、送迎用の車両を運転している方の多くはリタイア後の高齢者です。介護福祉施設や幼稚園は、少ない職員で業務をこなしており職員は疲弊、さらに時間通りに送り届けないとクレームにつながるという精神的プレッシャーもあり、事故につながるケースが最近多くなっていると感じます。送迎用車両にアイアクセルを装備することで、安心安全に送迎いただくことができますし、雇用主からしても、高齢者ドライバーを採用する際の事故リスクを軽減することができます。高齢者が安心して働くことができる社会を実現すること、それがこれからの日本、特に地方都市や中山間部を支えるためには不可欠だと考えています。
英田エンジニアリングの安心安全な社会づくり
社会の基本は「安心安全」だと思っています。私たちは人間ですから、間違いを起こしたりもすると思うんですね。しかし、間違いを起こしても「危なかったな」で済むような、そういったモノづくりをしていくというのは、英田エンジニアリングの重要な指針だと考えています。弊社の経営理念と創業者精神に「社会貢献」という言葉があります。英田エンジニアリングの技術を使い、事業展開していくことにより社会の安心安全に貢献することが、私達の使命だと考えています。
アイアクセル、今後の展望
つい先日、国連欧州経済委員会(UNECE)は、自動車のアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故の防止に向けた新たな規制の導入を決定しました。年齢と踏み間違いの事故による明らかな相関関係があることが認められたことが大きな理由です。今後、各カーメーカーから発表される新車種は、踏み間違い防止機能を搭載されると思いますが、市場の大半を占める中古車は対象外です。今後、先進国はもちろん発展途上国や新興国においても急速な都市化が進み、少子高齢化社会をいずれは迎えるなかで、中古車への踏み間違い防止装置はさらに重要な役割を担っていくと考えています。
アイアクセルの開発は目下進行中です。例えば、今のアイアクセルはアクセルをキャンセルしてブレーキを緩やかにかけるという仕組みのものですが、これを取り付けることができない車種もあります。取り付けられない車種に関しては、アクセルキャンセルだけをするという製品を現在開発中です。今後は、どんな車にでも取り付けられる、そして、補助金などとの組み合わせで導入価格を下げることで、より多くの方に届く製品にしたいと考えています。踏み間違いによって、大切な人を亡くす人も不幸になる運転者も生まれない社会を実現するために、これからも開発を進めて行きます。
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