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『檻の中の獣』/掌編小説

鋭い爪は、リンゴを両手でつかむためにあった。

鋭い牙はおいしいリンゴを味わうため。

鋭く刺すような体毛は体を温めるため。

雷鳴のような声は嵐を知らせるため。

村人からもらうリンゴを食べて眠っていた。

ある日檻は開いた。

彼は大きな体をブルブルと揺らし、野山をかけめぐった。

彼の通ったあとの大地はえぐられて、草花は二度と生えなかった。

彼は興奮のあまり山に激突し、大きな岩が転がった。

穏やかだった彼の変わりように畏れおののく村人は、祠をつくって奉ることにした。

彼は荒神となった。



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矢入えいど@『ファースト読み物』
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