見出し画像

今日の1枚:『What Remains』アムステルダム・デュドック四重奏団

『What Remains』 
ユーイ・ラウケンス:弦楽四重奏曲第4番《What Remains 残されたもの》
ペロティヌス:地上のすべての国々は
ギヨーム・ド・マショー:《ノートルダム・ミサ曲》よりキリエ
カルロ・ジェズアルド:マドリガル集 第6巻より『ああ、いくらため息をついても無駄なのだ』
スティーヴ・ライヒ:ディファレント・トレインズ
オリヴィエ・メシアン:『美しい水の祭典』より「祈り」
Rubicon Classics, RCD1110
 アムステルダム・デュドック弦楽四重奏団
 録音時期:2022年1月、12月

 オランダの著名な建築家ウィレム・デュドック(1874−1974)にちなんで名付けられたというアムステルダム・デュドック弦楽四重奏団は、これまでにもハイドンからショスタコーヴィチ、ヴァインベルクまでさまざまな作曲家の作品を録音してきましたが、今回の新譜は個性的なコンセプト・アルバムとなっています。20世紀から現代にかけての作曲家の作品をメインに、中世後期やルネサンス期のポリフォニー曲をプログラムに滑り込ませる、というのは、クロノス・カルテットのプログラミングを思わせて興味深いものがあります。
 冒頭に収められたのはオランダのユーイ・ラウケンス(1982年生)がデュドック四重奏団のために書いた弦楽四重奏曲第4番《残されたもの》。「奇妙な振動」と題された第1楽章は速いテンポで、「モテクトゥム(モテットの意)」と名付けられた第2楽章はゆっくりとしたテンポで奏されるのですが、旋律を排してリズムと短い音形の反復を中心に構成された各楽章は、ミニマル・ミュージック風でありながら削ぎ落とされた旋律的な動きや構成などを暗示しつつ推移していく点がユニークです。(オランダでのミニマル・ミュージックの受容というのは、ひとつ面白いテーマといっていいかもしれません。その祖というべきシメオン・テン・ホルト(1923−2012)の4台のピアノのための《カント・オスティナート》(1973−79)の新録音が最近リリースされました。国内仕様盤では私が解説の日本語訳を担当していますので、ご興味のある方はぜひ。)
 ペロティヌスとマショーの作品は、先述の通りクロノス・カルテットが『アーリー・ミュージック』と題したアルバムで採り上げていました。ノン・ヴィブラートの硬く、刺激的な響きが、3度和音を伴わない辛口の和声によく合います。ジェズアルドのマドリガルは、比べるとやや力の抜けた柔らかい質感を打ち出して、前2曲との時代の隔たりを感じさせるのが見事。
 ライヒの《ディファレント・トレインズ》は、クロノス・カルテットの十八番とも言うべきレパートリーですが、最近はさまざまな弦楽四重奏団が採り上げるようになりました。クロノスが聞かせた荒々しく、生々しい響きは強烈な印象を聴く者に与えましたが、それに比べるとインパクトの点では一歩後退したかもしれません。ここでのカルテットの響きはもっと丁寧に磨き上げられていて、発音や響きの重ね合わせ方にはある種の表情が感じられます。また周知の通り、ここでは曲中にテープで挿入されたおびただしい肉声の数々を、弦楽器が音程・イントネーションをそのままになぞっていくのですけれでも、テープの音声を明確に聴かせて弦楽器はやや引っ込み気味というバランスの作り方もクロノスとは違う。これは大きな違いで、これだけで音楽としての組み立てがまるきり変わってしまうのが面白いと思いました。
 最後に収められたのは、若き日のオリヴィエ・メシアンがオンド・マルトノ六重奏のために書いた《美しき水の祭典》から「祈り」——というと珍曲のように聞こえますが、かの有名な《世の終わりのための詩重奏曲》に収められたチェロとピアノのための「イエスの永遠性への讃歌」の原曲です。聴き疲れしかねない刺激的で密度の高い音響の連続を、長大で、静かで、陶酔的な旋律が締めくくるというアイデアが秀抜と言えるでしょう。

(本文1386字)


Dudok Quartet Amsterdam

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?