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今日の1枚:ブルックナー、交響曲第5番(シャニ指揮)

ブルックナー:交響曲第5番変ロ長調 WAB.105(ノーヴァク版)
ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
ラハフ・シャニ(指揮)
Warner Classics, 5419779201
録音時期:2021年8月24-27日


Bruckner 5th symphony - Shani
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 コントラバス奏者から指揮者に転じたラハフ・シャニは、2018−2019年のシーズンにロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任し、一躍脚光を浴びることとなりました。21年からはイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督にも就任し、26年からはミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任することが決まっているというシャニによるブルックナーの録音は、先に交響曲第7番が出ており、これは第2弾となります。
 私は先行した第7番も聴きましたが、そちらは今ひとつピンと来ませんでした。とはいっても、間口が広いというか、ブルックナーのスペシャリストでない指揮者も積極的に採り上げるところから分かるように、スタイルや解釈の可能性が大きく開かれている第7番は、ひとりの指揮者の解釈の方向性を聞き知るのに、さほど向いている曲ではありません。反対に第5番という曲は、ある意味で「これからブルックナー沼にはまるぞ」と宣言するようなナンバーですから、この人のブルックナー観を知るのには非常に都合がよい。そして当盤は、期待に違わぬ面白い演奏を聴かせてくれました。
 まず耳に飛び込んでくるのは、ロッテルダム・フィルの輝かしい響きです。弦楽器はブルックナーに定評あるいくつかの名門オーケストラのような重厚さには恵まれていないけれども、その代わりに剛柔をよく使い分けて音楽の変化によく対応している。この剛柔の使い分けが非常に興味深くて、ブルックナーらしい厳しいスフォルツァンドもあるのですけれども、アクセントはそれひとつに収斂するのではなくて、聴き手の耳を脅かす強靱なアクセントから、切断的な性格を削ぎ落として柔らかく響きを合わせるいくぶんレガート風のフォルテまで、さまざまなニュアンスを帯びて使い分けられていきます。響きが教条主義的な一面性に陥らずに、多様な変化をみせるのも、ここでのオーケストラを「輝かしい」と感じる理由のひとつかもしれません。
 教条主義的でない、というのは、ここでの演奏のもうひとつの重要な側面にもあてはまります。ブルックナーの演奏スタイルといいますと、あくまでイン・テンポに拘る行き方と、ダイナミクスの変化に合わせてテンポを伸縮させていく行き方と、そのふたつの間でどちらをとるのか、という議論になりがちですが、ここでのシャニは面白い解釈を提示しています。第5番は自然に音楽を進めていこうとすると緩急の伸縮を伴わざるを得ない、と感じさせる箇所が、特に第1,3楽章に多数みられます。そういう意味では、今述べたふたつのスタイルのどちらに汲みするかが見てとりやすい曲なのですが、シャニはテンポ伸縮派の指揮者がテンポを大きく動かす場面、例えば第1楽章の序奏後半、音量が急激に増大してファンファーレを呼び込んでから小休止となる場面では、テンポをあまり追い込まないし、強奏の頂点で間を空けることもしない。どうも、あからさまに音量が増大する場面では、高揚の表現はその音量変化に任せてしまうようです。その一方で、第3楽章のスケルツォ主部では、弱奏の指定でシークエンスが終わるところでははっきりとテンポを落とす場面があるし、また第1楽章とは違って、クレッシェンドに伴ってわずかにテンポを速めていく場面もある。どうやらシャニは、強弱と緩急の変化を固く連動したものとも、また逆に完全に断絶したものとも考えていなくて、そのふたつのパラメーターをときに協同させ、ときに切り離すというように、ダイナミックに連動させていくことに意義を見出しているようです。そのためにここでは、表現の幅が非常に広くとられているように感じます。その一方で、音響を固いブロックであるかのように扱って響きに威圧感を持たせたり、休符の切断的な性格を強調したりといったことは避けている。そのためにここではブルックナーの音楽が非常に流動的なものとなっています。それも、せわしなく軽薄にぐずぐずと動き回るというよりも、自然で安定した流れを保持した中で、表情が刻々と移り変わっていくようなものとなっているのが強い印象を与えるのが面白いところです。
 奇数楽章の話ばかりしましたが、偶数楽章もよい演奏です。といいますか、こちらの方がより強い印象を与えるかもしれない。第2楽章は、強弱を幅広く使ったニュアンス豊かな歌に始まってカラフルな音楽を繰り広げる木管楽器と、粘り過ぎないテヌートを伴って歌い出す第2主題でやはり嫋やかな表情の変化をみせる弦楽器とが中心となって、楽譜から重ね目の美しい色彩を存分に引き出して魅力的ですし、第4楽章はバロック的とでも言えそうな、軽快さと響きの透明度を美点としつつ、軟弱に陥ることのない硬いアクセントを利かせて清潔に音楽を進め、余裕のあるクライマックスへと導いて強い個性を披露します。解釈のユニークさが際立つと同時に、そのアプローチの丁寧さ、自然さで聴き手を魅了する演奏といっていいでしょう。

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