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今日の1枚:フランク&ショーソン:交響曲(ジャン=リュック・タンゴー指揮)

セザール・フランク:交響曲ニ短調
エルネスト・ショーソン:交響曲変ロ長調作品20
Naxos, 8574536
ジャン=リュック・タンゴー指揮ベルリン放送交響楽団
録音:2023年11月1-4日

セザール・フランク:交響曲ニ短調
エルネスト・ショーソン:交響曲変ロ長調作品20
Naxos, 8574536
ジャン=リュック・タンゴー指揮ベルリン放送交響楽団
録音:2023年11月1-4日

 セザール・フランクの交響曲ニ短調はかつてフランス系の交響曲の代表として盛んに演奏・録音されましたけれども、今世紀を迎える前後くらいから急速に人気が失われていったように思います。同じフランクでもヴァイオリン・ソナタ・イ長調がヴァイオリンのレパートリーの中で相変わらず高い地位を保っていたり、また長く敬遠されていた弦楽四重奏曲が、人気沸騰とまでは言わないものの時折思い出されたように好録音に恵まれたりするのとは対照的です。
 それと関連するのか不明ですけれども、今世紀になってからの交響曲ニ短調の録音史には、ひとつの明確な傾向があります。それは、かつてのウィルヘルム・フルトヴェングラーや、近いところではカルロ・マリア・ジュリーニあたりに代表された重厚長大な演奏スタイルが敬遠されて、足どり軽いテンポ設計を採用した上で、楽譜から比較的軽量級のサウンドを引き出すことに腐心する演奏が大勢を占めるようになりました。今世紀以降のいくつかの録音(例えばクリスチャン・アルミンク、ミッコ・フランク、マレク・ヤノフスキ、ルイ・ラングレーなどなど)は、みな多かれ少なかれそうした路線の延長にあるように思います。
 当盤で指揮をとるジャン=リュック・タンゴーは1969年生まれ、長くオペラ畑で活躍した人のようですが、近年ナクソスよりプーランクやダンディ、デュカスなどフランス近代音楽の興味深い録音をいくつもリリースして、にわかに注目を浴びるようになりました。セザール・フランクについても既にロイヤル・スコッティッシュ管と交響詩《プシシェ》全曲版などを入れたアルバムをリリースしています。今回の交響曲はベルリン放送交響楽団との共演になります。
 フランクの交響曲でのタンゴーは、いくぶん余裕のあるテンポを採る一方で、アタックを柔らかく押さえて威丈高にあることを嫌い、また渾然一体としたブレンド感を強調するよりも、水彩画調の色彩の中で各楽器の音色を埋没させずに趣味よく分離させていきます。フレーズの端々でテンポを緩めて大きく、あるいは深く歌い上げるために、足どりはかなり重めとはいえ、全体のサウンドがそれを鈍重さから救っている点が興味深いと言えます。前述したような、軽量級の演奏を指向する潮流の中にあって、以前よく見られた遅めのテンポを現代に復活させるとこうなる、という演奏と言えるかもしれません。第2楽章など、テンポをあちこちで動かして旋律を歌い上げるのだけれども、それが表面的な深刻さに結びついたりせず、深々とした息遣いの通う、繊細な光の明滅する音楽となっていて、聴きでがあります。第3楽章も、低声部をよく鳴らすよりも、いくぶん腰高な響きを作って明朗な、かつ一本気に陥らない含蓄のある流れを織り上げて秀逸です。
 ショーソンの交響曲変ロ長調の現在の人気はどんなものなのでしょうか。この曲では日本ではなかなか知られていなかったところを、チェコの指揮者ズデニェク・コシュラーがたびたび日本を訪れた際にあちこちで演奏して、一気に知名度が上がったように記憶しています。フランクの交響曲がサウンド面で一見ワーグナー風でありながら、息の短い動機群を積み上げるという書法ゆえに出来上がった音楽において似ても似つかないものになっているのと違って、息の長い旋律を滔々と歌い上げていくショーソンの交響曲は、よりワーグナーよりと言っていいかもしれません。それでもカラフルな管弦楽書法や嫋やかな抒情性によって、ワーグナーとはまったく異なる個性を確立しているのが嬉しい作品です。近年はフランクとショーソンの交響曲を1枚にまとめるというアルバムがいくつもリリースされています。2曲合わせての長さがCD1枚にちょうどよいというのがいちばんの理由かもしれませんが、ふたりの作風の違いが如実に見てとれる点、ありがたいカプリングです。
 タンゴーの振るショーソンは、メリハリをいくぶん抑制して、息の長い歌に焦点をあてているのがまず目につきます。フランクと同様に低声部を軽めに鳴らしているので、全体としては軽いサウンドを実現しているのですけれども、歌に込められたある種の熱っぽさが、フランクとは明らかに異なった道を開いていくのが面白い。その、熱狂はしないけれども熱い、というあり方は、ショーソンの音楽に実にふさわしいように思います。
 なお、タンゴーはショーソンの交響曲において、フランス国立図書館に所蔵された自筆譜を調べて、現行譜にあるいくつかの疑問点を正した旨、ブックレットに報告しています。そうした訂正がどのくらいの分量になるのかは不明ですが、一例として挙げている第1楽章後半でのテンポ変化の件は、確かに楽譜上辻褄の合わないように見えるもので、こうした点が正されていくのは好ましいことです。(もっとも、その例に限っていえば、あまりに妙なので過去の指揮者もそれぞれに解決案を提示しており、例えばマレク・ヤノフスキの録音は今回のタンゴー盤と同じ解決にたどり着いています。)

(本文2053字)


Franck & Chausson : Tingaud

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