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【短編小説】友達について真面目に考えてみた 第3話

   第3話

 佐々木が萌え研と行動を共にし始めたことは、俺とのどか以外の人間にはそれほど奇異に映らなかったはずだ。

 そもそも佐々木は周囲から変わり者だと思われている。なにを始めても、今さら誰も驚かない。

 だから二日後に、佐々木が渡り廊下の真ん中でぽつんと佇んでいる不自然さに気づいたのは俺くらいだろう。

「よお、今日は一人か?」
 佐々木が顔を上げる。どんよりとした目をしていた。

「お前、なんだその顔」
 ただでさえ彫りが深いところに、目の周りのくまがますますひどいことになっていた。

「今日は萌え研と一緒じゃないのか」
「退会になったんだ」
 佐々木がため息と共に呟く。

「えっ、どうして?」
 萌え研は会員数は決して多くないものの、出て行く者はいない。門は常に開かれている。

 そんな萌え研を退会にさせられたやつがこれまでいただろうか。聞いたことがない。

「自分にはアニメに対する愛がないと言われた……」
 佐々木は珍しく落ち込んでいる。

「愛ってなんだよ」
 思わず噴き出す俺に、

「彼らの言う『推し』の意味が自分にはわからない」
 佐々木が眉を寄せた。

「どんなキャラクターにも個性がある。見えている一部だけでなく、すべてを知らなくては、好き嫌いなど判断できない」

 だからこそ自分はしっかりとデータを調べ上げ……と佐々木が続けるのを遮り、俺は言った。

「そういうことじゃないだろ。知ったから好きになるんじゃない。好きだからこそ知りたいと思うんだよ」

 口にしてから、恥ずかしいセリフだったことに気づく。佐々木のペースに巻き込まれたか。

 佐々木は険しい顔で黙り込む。
「難しいな……」
「諦めたか? 真の友達を作る計画は」
「いや」
 と佐々木は首を振り、

「たった一度の失敗で挫折していては、世の中は進歩しない」

 力強く言い放ったが、目の周りのくまが邪魔でいまひとつ決まらない。

 まずは睡眠をとれと声をかけたが、佐々木の耳に届いているかどうかはわからなかった。

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