【短編小説】友達について真面目に考えてみた 第15話(最終回)
第15話
昼休みのあと、五、六時間目はやたらと長かった。いつもなら腹がいっぱいで眠くなるはずの時間なのに、目が冴えたままだ。
退屈な授業がやっと終わっても、掃除当番が残っている。今日もだらだらしゃべっているやつに腹が立って、苛立ち紛れに細かいところまで黙々と掃除していたら、バケツの水を替えにいっている間に、他のやつらは消えていた。
後片付けをして、教室を後にする。誰もいない玄関に、佐々木がぼんやりと立っていた。
無言でその横を通り過ぎようとする俺を、
「ちょっと待て。話がある」
佐々木がそう言って呼び止める。
「なんだよ」
目をそらし、自分のつま先を眺めた。
スカートから半分はみ出した膝小僧に、治りかけの傷があるのが見えた。開きっぱなしの玄関から冷たい風が舞い込み、肌を刺す。
「お前が食べ物を残すところ、初めて見たぞ」
「話って、そんなことかよ」
まさか食品ロスを叱られるとは。拍子抜けした俺に、
「スカート姿は初めてじゃないからな。中学の時は毎日だっただろう」
佐々木はどこまでも真面目な顔をして言った。
「……制服、大嫌いだった」
「そうか」
そのまま、二人とも黙り込んだ。グラウンドでサッカー部のホイッスルが響いている。
咳払いのあと、佐々木が口を開いた。
「和くんに言われたんだ。自分にとって都合のいい友達を選ぶことが偽善だとしたら、都合のよくない友達を選ぶこともまた、選ぶという意味で同じなのではないかと」
「………」
「相手の趣味や価値観を知る前に、気がついたら自然に友達になっている。それこそが真の友達じゃないかとな。さすがは和くんだ」
「………」
「まあ、つまりそういうことだ」
どういうことだよ、という言葉は、喉に詰まって出てこなかった。
黙り続ける俺に、佐々木は困ったように眉を寄せ、ちらりとこちらを伺う。その様子を見ているうちに、もやもやしていた気持ちが晴れていくのがわかった。
「……腹へった」
俺の呟きに、佐々木がぴくりと動いた。
「そうだな。自分も腹が減った」
「なんか食いにいくか」
と言うと、佐々木は嬉しそうに頷いた。妙に恥ずかしくなって、そっぽを向いたまま下駄箱から靴を取り出す。
「今日はお前のおごりな」
「それはだめだ。金銭の貸し借りがあると、関係が対等でなくなる」
「まだそんなこと言ってんのか。次は俺がおごるから、それでいいんだよ」
「それになんの意味があるのだ」
返事の代わりに、靴を履いている背中に向かって蹴る真似をしてやった。佐々木が慌ててつんのめる。
俺は笑いながら、冷たい風の中を駆け出した。
おわり
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?