【短編小説】友達について真面目に考えてみた 第9話
第9話
いつもより少しだけ早い時間に家を出る。今朝は珍しく、時計が鳴る前に目が覚めた。
知らない家の敷地を通って、朝露に濡れる土手の道を歩き、ブロック塀の隙間からこちらに向かって騒ぐ凶暴な犬に向かって吠え返す。
狭い石段を一つ飛ばしで駆けあがると、登りきったところで、駅から続く幅の広い通学路に合流した。
見慣れた白いマフラーが目に入る。和だ。
こちらに顔を向けたのでとっさに手を振ったが、隣でつられたようにこちらを見たのは佐々木だった。俺の腕が宙で固まる。
「おはよう。いつも遅刻ぎりぎりなのに、今日は早いのね」
白いマフラーとおそろいの白い手袋をはめた和は笑顔でそう言った。
「まあな……二人は待ち合わせ?」
「そこで偶然逢ったのだ」
佐々木はこの冬初めてのコートを着ていた。そういえば今朝は妙に空気が冷たい。昨日までと同じ薄手のジャンパーで来てしまったことを悔いた。
「今日は寒いな」
「そのせいじゃない?」
和の白い手袋が俺の膝を指す。ジーンズが擦り切れていた。どおりで足がスースーするわけだ。
「ずいぶん軽装じゃない。よく寒くないわね」
「そっちこそ、それほど温かい格好には見えないけど」
和は膝丈のニットのスカートの下にタイツを履いている。
「スカートって、見た目ほど寒くないのよ。空気の層ができるし。下手にジーンズの方が冷えるんじゃないかしら」
「ふうん」
俺は冷たくなった両手をポケットに突っ込んだ。手袋も忘れてた。
「それで、どうなんだよ? 友達になったお二人さんは」
佐々木と和の顔を見比べる。佐々木は満面の笑顔を浮かべ、
「うむ、それがな、全く合わないぞ。趣味も価値観も考え方も」
佐々木の言葉に、和が頷く。
「今も、わたしは協調性の大切さについて、佐々木くんは個人行動のメリットについて討論していたところ。ハッキリ言って、まったくかみ合わないわ」
そうは言いつつも、二人はなんだか楽しそうだった。俺はなんだかつまらなくなり、ポケットから両手を出して息を吹きかけた。
「しかし、彼女と話していると目からウロコだ。今まで自分の中になかったものを、次々と発見することができる」
「そうね。確かにわたしも、世の中にこういう人もいるんだなって勉強になったわ」
和がくすくすと笑い出す。佐々木もまた、ずいぶんと穏やかな顔をしていた。
「俺、先にいくわ」
そう言って歩みを速めた。後ろから二人が慌てて声をかける。
「なんでよ。一緒に行けばいいじゃない」
「そうだ。今の議題について、お前の意見も聞きたい」
「悪いけど、こんなペースで歩いてられないよ。便所行きたいんだ」
そう言って、返事も待たずに駆け出した。少し離れてから息を整え、ばれないようにそっと振り向く。しかし二人は楽しそうに談笑しており、こちらを見てもいなかった。
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