【短編小説】友達について真面目に考えてみた 第11話
第11話
冷たく刺すような風が、朝から容赦なく吹きつけてくる。
強い風が枯葉を巻き上げるたび、通学路のあちこちから小さな悲鳴が上がった。俺は襟を立てて首元を防御する。
「よう、今朝はひときわ寒いな」
佐々木が近づいてきて言った。
「なんだそれ。ジジくせぇ」
首元に巻き付いているカーキ色のマフラーを差して言うと、佐々木は意外そうに眼を開き、
「父親のお下がりだが」
「そんなのもらうか、普通」
「別によかろう。マフラーはマフラーだ」
と首をすくめ、俺に目を向けた。
「そういうお前こそ、首元が寒そうだぞ」
俺は耳をふさぐように両手で襟を立てる。母親が買ってきた赤いマフラーが気に入らなくて、わざと置いてきたのだ。
「ところで、昨日はなぜ来なかったのだ。和くんがお前のことも誘ったというから、楽しみにしていたのに」
「お邪魔だろ、俺なんかいたら」
精いっぱいの嫌味のつもりだったが、俺の言葉は佐々木の耳に届かない。
「昨日は面白かった。いや、映画じゃなくてな。映画も確かに面白かったんだが、その後、彼女との討論が面白かった。同じ映画を観たのに、感想が全く違うんだ。着眼点も違う。いや、本当に彼女は面白い」
佐々木はその時のことを思い出しているのか、嬉しそうに頷いた。
「ふうん。そりゃよかったな。やっと真の友達ってやつができたわけだ」
俺は鼻をこすった。くしゃみが出そうだ。
「いや、それが一つ問題があるんだ」
佐々木が言い、ふと難しい顔になる。
「なんだよ」
「和くんとの間にな、ひとつだけ共通点があるのだ」
「共通点?」
「うむ」
佐々木は頷くと、
「その共通点についての話になると、彼女と意見が合ってしまうのだ」
「別にいいだろ、ひとつくらい意見が合ったって」
「しかしなあ……」
佐々木が顎をしごいた。また冷たい風が身体を刺してきて、俺は縮み上がった。
「一体なんなんだよ、その共通点って」
「お前だよ」
佐々木がこちらに顔を向けた。俺は一瞬、言葉を失う。
「お前の話になると、彼女と自分の意見が合ってしまう」
「……やめろよ。俺の話なんかする必要ないだろ……」
「とは言ってもなあ。自然に出てしまうんだ。そもそも、彼女と自分を引き合わせてくれたのはお前だからな」
佐々木が真剣な顔でそう言った。俺はなんだかいらいらしてきて、空に描いたサッカーボールを蹴った。
「それじゃあ、俺とお前は絶交だ」
勢いのままに口にする。
「え? なにを言う」
「仕方ないだろ。このままだとお前と和が真の友達になれないっていうなら、俺を切るしかないだろうが」
「ううむ、そういうことになるのか……」
佐々木が呟く。俺は白けた気持ちになり、本当に何かを蹴りたくなった。
「じゃあそういうことだから、俺とお前はもう絶交だ。会っても話しかけてくれるなよ」
「あっ、ちょっと待て」
佐々木の制止を無視して、俺は学校までの道を走り抜けていった。
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