【短編小説】捨て猫リカ 第1話
第1話
その女子高生が目に留まったのは、たまたま偶然だった。
駅前のファンシーショップ。クレープ屋の横のらせん階段を登り、赤く塗られた木戸を開けると、小さな店舗の中には可愛い髪飾りやポーチ、ステーショナリーなどが所狭しと陳列されている。
銀行での用事を済ませ、せっかく来たついでにと、この店に立ち寄った。最近おしゃれに目覚めた小学二年生の娘、菜摘のために新しいヘアゴムを買ってやるつもりだった。いくつかを手に取って眺めているうちに、すぐ隣に立っていた女の子の細い腕が視界に飛び込んできたのだ。
ぶかぶかの制服から伸びた手足が驚くほど細い。肘の内側が赤くただれているのかと思ったら、スクールバッグの柄の跡だった。こんなにもか細い腕に重いものを提げれば、ぽきんと折れてしまうのではないか。
靴もぶかぶかで、歩くたびに踵が飛び出している。背後からこっそり見ると、ウェストも細い。自分では中肉中背だと信じているわたしの、太ももと同じくらいしかなさそうだった。
手首は七味唐辛子の小瓶のようだし、指など、中にちゃんと骨が入っているのか疑ってしまう。細いせいで身の丈が長く見えるが、棚の高さと比べるとかなり低いのがわかる。菜摘と同じくらいしかないのではないか。
しかしあまりじろじろと見ては悪いと思い、わたしは棚に向き直ると、いくつか選び出したヘアゴムを並べて考え込んだ。どれもアニマルの飾りがついている。
今、菜摘のクラスの女子の間では、ハリネズミが流行っているらしい。
「なんでハリネズミなの? クマさんやウサギさんじゃなくて」と尋ねると、「ガキっぽいじゃん」と一刀両断された。ガキでしょうよ、という言葉を飲み込む。クマやウサギはダメでハリネズミはOKという感覚もよくわからない。
ひとつを選び、レジで会計を済ませた。レシートを受け取るのを待っている間、肩越しにさっきの女子高生にちらりと目をやった。その瞬間、こちらに背を向けた彼女が手にしていた商品をスッとポケットの中にすべり込ませたのが見えた。
「あっ」
わたしが上げた小さな叫び声が届いたかどうかわからないが、彼女はレジを見向きもせず、す早く店を出て行った。
わたしは後先も考えず店を飛び出し、その子の後を追った。
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