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【短編小説】友達について真面目に考えてみた 第5話

   第5話

 数日後、佐々木は再び学校に現れた。

「よう、元気か?」
 言いながら、俺は頭からつま先まで佐々木の様子を観察した。顔に痣もなければ、足を引きずっているということもない。特に変わった様子はなさそうだ。

「見ればわかるだろう。ちっとも元気なんかじゃない」
 佐々木はぼそりと呟いた。そう言われてみれば、確かにどんよりとした顔をしている。

「どうしたんだよ。金髪の暴走族になにかされたのか?」
「……なにかって、なんだ」
「リンチとか」
 佐々木はさっき俺がしたように、こちらを頭からつま先までじろりと見た。

「彼らは無意味に暴力に訴えたりしない」
「じゃあ、無理なことを言われたのか。万引きしてこいとか、カツアゲしてこいとか」
「そんなことはしない、お前は誤解をしている」

 まるで自分自身が侮辱を受けたかのように、佐々木が血相を変える。

「彼らはただ、バイクに乗るのが好きなだけだ。髪形も服装も、単なるファッションだ。個性だ。そんな彼らを奇異の目で見るのは、自分と違うものを尊重できない、弱い考えの持ち主だからだ」

「……そうか。それは悪かった」
 いつになく佐々木が強い口調で言うので、俺は素直に引き下がった。すぐにむきになるのはいつものことだが、それだけではない。どうやら佐々木は本当に傷ついている様子だった。

「大人たちは彼らをアウトサイダーだと決めつけ、思い込みだけで彼らを判断した。人格を無視され、一方的な価値観を押しつけられる辛さがお前にわかるか。あれこそ暴力ではないのか」

「……ふうん。なんだか、お前みたいだな」
 変人と決めつけられ、大人からも同級生からも嘲笑され、集団で虐げられた。暴走族も佐々木も、形は違えど同じなのかもしれない。

「……そうなんだ」
 佐々木は苦しそうに胸をおさえた。

「だから、辞めてきたんだ」
「え、辞めた?」
「ああ。価値観が合ってしまったんだよ。だから、真の友達になるのを諦めたんだ……」

 そう言った佐々木は、今までで一番淋しそうな顔をしていた。

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