【小説】コトノハのこと 第8話
第8話
次の日は普段通りにダイニングに向かった。毎日仮病を使うわけにもいかない。
「おはよう。今日はどうですか」
声をかけられ、私は黙ったまま頷いて見せた。無駄な会話を省く作戦のつもりだったが、妻はむっとしたように口を曲げる。
「ごはんは食べられるの」
妻の声が尖った。無言のままもう一度頷くと、今度は両目がつり上げられた。
ご飯を盛った茶碗が私の目の前に置かれる。ゴトンと乱暴な音で、妻の機嫌が悪いことがわかる。
黙ったまま座っていると、妻はますます乱暴に箸やおかずの皿などを並べていった。どうやら、あまりいい作戦ではなかったようだ。
食事の間、妻はひと言も口を利かなかった。食べ終えてからも、妻は唇を引き結んだまま洗い物をしている。まるで妻までもが、声を出せない奇病にかかっているかのようだった。
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