人が感動に触れる瞬間を見るのが好き
7年ちょっと勤めた会社を辞めたので、自分を労ろうと思って一泊の温泉旅行をした。箱根。普段よりちょっと良いホテルへ。
ホテルへ行く前に箱根ガラスの森美術館へ行った。
美術館内では日に何度か、ミュージアムコンサートが行われていた。日替わりなのかたまたまなのか分からないが、私が訪れた日はバイオリニストのコンサートだった。
演奏を待っている人もいれば、演奏が始まってから「なんだなんだ?」と集まってくる人もいる。やがて奏者を中心に半円が描かれていった。
その中に、お父さんに肩車をされた2歳ぐらいの子供がいた。奏者も気づき、手を振ったりしている。一曲終えて拍手が起こると、子供も真似をして拍手をしていた。その子供の様子を見て観客もにこにこしている。
奏者はイタリア出身で、英語とイタリア語を混ぜて話していた。英語で子供に話しかけ(子供のみならず大人もちょっとキョトンとしていた)相変わらずニコニコしながら子供に目一杯のサービスをしながら演奏している奏者。子供も臆することなく、むしろ自分が構われていることに嬉しそうだった。
15分のコンサートの最後の一曲、奏者は「君のためにこの曲を演奏するよ」と子供を指差し英語で言った。曲はライオンキングだった。きっと、元々予定していた曲ではないのだろう。肩車された子供は、さながら王として祝福された子供の頃のシンバのようで、その子に向けた曲としてはピッタリだった。
まさに奏者と観客が一体となった会場だった。
コンサートとして、こんなに素晴らしい空間になることは大小かかわらず稀だと思う。
演奏が終わった後、その子の親は奏者のCDを買っていったようだった。みんなで一緒に写真を撮っていたのが見えた。
あの子は、年齢的にこの日のことをきっと忘れてしまうだろう。けれどこの素晴らしい演奏に立ち会った事実が、もしかしたらあの子の人生に少しだけ良い影響をもたらすかもしれないと思った。
あんなに小さい子が何かを見て楽しそうに手を叩いてる姿を見て、私は何かを見て感動したり心を動かされている人を見るのが好きなのかもしれないと思った。