「AIと友達になるアプリ」Replikaとはなにか?
初めまして。Kasue Naotoと申します。
前回のCharacter aiに引き続き、今回はAIチャットアプリの「Replika」についてご紹介します。
Replikaとは
まず、知らない方のためにReplikaについて簡単にご紹介します。
Replikaは「AIフレンド」を育成し、会話を楽しむアプリです。ユーザーはアプリをインストール後、AIアバターに名前をつけ、AIからのいくつかの質問に対して答えます。こうしてユーザーは自分自身に関する情報のデジタルライブラリを構築し、AIがユーザーを学習することで口調や性格がチューニングされていきます。
Replikaと友達として会話するだけなら料金はかかりませんが、関係のステータスをより深い「恋人」や「夫婦」にするためには年額7,700円(Android版は9,200円)の有料プランに加入する必要があります。
有料プランではほかにも音声通話やAR機能、ERP(Erotic Role-Playing)やコーチング機能などを利用することができます。
この有料プランのほかに、別途コインを購入することでアバターに服や家具をプレゼントすることができます。
ちなみにこのアバターはデフォルトで靴を履いていますが、この靴を脱がして素足にするためには有料ポイントを消費する必要があります。
Lukaについて
Replikaの開発元であるLukaはサンフランシスコに拠点を置くスタートアップ企業であり、2014年にYコンに採択され2年後の2016年にはSherpa CapitalやY Combinatorから442万ドルをシリーズAで資金調達しています。
ただ、Yコン採択からシリーズA調達の時期に取り組んでいたのはレストラン予約のチャットボットサービスであり、Yコン創業者のPaul Grahamからは
とボロクソに言われてしまうなどあまり順調ではなかったようです。
「Replika」誕生
そんな中、Replikaが生まれるきっかけとなる出来事が起こります。
2015年、CEOのEugenia Kuydaの友人であるRoman Mazurenkoが32歳にして車に轢かれ死去しました。2人は同い年で、モスクワで知り合い、同時期にサンフランシスコに移住した仲でした。
Eugeniaは悲しみに暮れる中、Romanとの大量のメッセンジャーのやり取りをGoogleが出していたニューラルネットワークにアップロードし、Romanをチャットボットに変えることで追悼しようとしました。
完成した「Roman Mazurenko」を外部にも公開すると、生前のRomanを知らない一般ユーザーも彼に熱心に話しかけ、一日のこと、仕事のこと、パートナーのこと、心にあることを何でも話すようになりました。
そこで、Lukaの経営陣はレストランの予約のようなタスク指向の会話ではなく、会話そのものを商品化したチャットボットにニーズがあると考え、2016年に「Replika」の開発を開始しました。
2017年のリリース当初はアプリ名の通りは「自分の複製を作る」がコンセプト」で、会話を進めるにつれてAIがユーザーの人格に近づく過程を楽しむというものでした。
しかし、ベータテストの間、Replikaは、人々がデジタル版の自分を作ることにあまり興味がないことに気づき、ユーザーの話をよく聞き、適切な質問ができるAIを作ることに集中し始めました。
2018年1月にWait Listが150万人を突破、一般公開後の2019年年末にはDL数が700万を突破しました。
さらに2020年からCovid-19の流行が始まると外出制限により人との繋がりが薄れた人々が癒しを求め、DL数が2,000万を超え、2020年だけで約280%急増しました。
現在では100~200万人のアクティブユーザーを抱え、そのうち25万人が有料会員になっています。
Replikaのユーザー層
ユーザーのうち70%弱が男性であり、18~34歳が50%以上を占めています。
意外にも(?)利用者の42%がすでに現実の恋愛関係にあるか、結婚しているか、婚約しているとされています。
ただしコアユーザーの多くを占めるのはトラウマや恐怖症により現実の人間関係を築くのに困難を抱える人が多く、CEOのEugeniaはReplikaについて「現代の見逃されている疾患である孤独を緩和するアプリ」のように述べています。
Replikaの黒字経営
前回売上ゼロで10億ドルの評価額で1億5,000万ドルを調達したCharatcer aiの記事を書きましたが、同じくチャットボットサービスであるReplikaは2017年にシリーズAで650万ドル、総額で1,100万ドルを調達した以降は資金調達を行わずにサービスを展開しています。
月売上は200万ドルとも言われていますが、有料会員が25万人いることを考えてもこのあたりが妥当なラインだと思います。
2023年バレンタインデーの騒動
ユーザー数が増加するにつれ、Replikaというサービスは変化していきました。ユーザーによる性的な利用が徐々に増加し、Replika自体のマーケティングもそのような方面に寄っていきました。
RedditではAI Girl/boy friendとユーザーの親密な会話が共有され、下品な広告の増加によってReplikaのサービスブランドは低下していきました。
そんな中、2023年2月3日にイタリアの規制当局はReplikaに対し地元ユーザーのデータ処理を停止するよう命じました。命令の理由として、①未成年者の性的なコンテンツからの保護の仕組みが欠けている ②個人情報保護が不十分 という二つの理由を上げました。そしてその数週間後、バレンタイン直前の時期に「AIの返答が冷たくなった」との報告がRedditで多数あがり、Replikaに"フィルター"がかけられたことが明らかになり、ユーザーは大いに悲しむことになりました。(その後、希望するユーザーは以前のバージョンに復元することが可能になった。CEOによれば“low single-digit percent”が以前のバージョンを復元したとのこと)
Replikaの評価システム
Replikaは会話の満足度を重要な指標としておいており、これに基づいてモデルの改良を行っています。
・Session quality
会話中にユーザーにセッション全体に対する満足度を3段階で聞き、Positive session fraction(全回答における最上位の回答割合)とNegative session fraction(全回答における最下位の回答割合)を測定
ReplikaではPositive session fractionが80%以上、Negative session fractionは4%以下
・Upvote fraction
返答一つひとつに対しユーザーが「Upvote」「Downvote」をつけ、全回答のうちのUpvoteの割合。90%以上。
これらの他に
・セッションごとのメッセージ数
・ユーザー一日あたりのセッション数
・ユーザー一日あたりのメッセージ数
などを指標にしています。
ちなみに、2020年時点でユーザー一日あたりのメッセージ数は100通になっています。(アメリカ人はソーシャルネットワーク、メッセンジャー、SMSなどを合わせて1日に約94通のメッセージを送っていると言われている。)
Replikaの会話システム
Replikaは当初、cakechatと呼ばれる感情生成対話システムをベースとしていましたが、その後OpenAIの初期のAPIパートナーとなり、それ以降はGPT-3をベースとする会話システムに切り替えました。
このGPT-3ベースのシステムについて担当者が詳しく語るYoutubeがありました。
このモデルではGPT-3をファインチューンしたモデルと大量のScriptsの組み合わせで会話が生成されており、会話全体におけるGPT-3生成のセリフの割合は20~30%だったようです。
しかし、GPT-3のコンテンツガイドラインにおいて性的な会話が禁止されると、Replikahaはそれを回避するために自社で構築した小型モデルの使用に切り替えました。
雑感
パンデミックを契機に会員数を伸ばしたReplikaでしたが、マーケティング戦略によるディスブランディングもあり、SNS上ではなんとなく不名誉なアプリになってしまっている感もあります。
良くも悪くもメディアに取り上げられることも多く知名度は高いですが、有料会員25万人とまだそこまで広がってはいない印象です。
Character aiやAnimaなどキャラクターチャット系のサービスが多く登場する中で、Replikaは実際に利益を得ることに成功している数少ないサービスのうちの一つですが、月売上が200万ドル程度と現状では投資家から寄せられている期待の割にはグロース出来ていない段階です。
参考記事
An Interview with Replika Founder and CEO Eugenia Kuyda