となりがるーむめいと・19

父が好きだった、月……。

黒澤の言葉に誘われるまま、重い足取りで階段を登り、屋上のドアを開け放つと、まばゆい月の光が燦然と辺りを照らし、舞い散る桜の花びらで彩り、迎え入れてくれた。

「……すごいですね…。今夜の月は、格別だ……。」

黒澤の言葉に、矢島はゆっくりと頷いた。

二人は圧倒的な月の輝きに心を奪われ、食い入るように空を見つめた。

「……お父様は、闇夜を照らす、月のような方でした。
寡黙ですが温かく、部下の誰もを愛し、守り抜く……。

私も行き詰まっては、こんな風に屋上に連れ出してもらい、月を眺めながら話を聞いて下さいました。」

そんな風に穏やかに語る黒澤の目には、いつの間にか涙があふれていて、
「坊ちゃん、今夜の月の光、……眩しすぎて目に染みますね。
そうでしょ。
私はあなたのお父様のような方になりたいし、
ご恩返しの為にも御子息のあなた様を、お父様の代わりに
ずっと御守り致しますからね……。」

不意に矢島のこぼれ落ちた涙をみて、そう言って笑ってみせる黒澤の温かさが、矢島の張り詰めていた心を溶かした。

「……そうだね、眩しいね。」

いつの間にか自然と矢島は涙を流しながらも、黒澤に笑いかけてた。

父の姿は無くなっても、魂は、この月の光や、支えてくれる人たちのなかに生き続けてる気がしたのだ。

……という話を矢島、何気なくしたつもりだったが、助手席で、涙で大変なことになっているカゲヤマの姿に驚き、

「わあっ!カゲヤマごめん!」

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