となりがるーむめいと・9
彼女は矢島の言葉に甘えて、リビングにゆっくりと戻り、ソファーに崩れるように座り込んだ。
この数日、精神的に限界が来て、この週末は実家に戻らなければ、自分が自分で居られなくなる気がしたのだ。
恐らく忍び込んだ人物にも彼女には心当たりがある。
今日は驚くことばかりだった。
突然の侵入者に、ものすごく不安になったり、逆に疎遠になりそうだった矢島と楽しい時間が過ごせたり、この部屋にあの黒澤室長が現れたりと、目まぐるしい1日だった。
出したはずの辞表も帰ってきたし、今後どうなるんだろう、彼女はカーテン越しに揺らぐ三日月を見つめ、深く溜め息をついた。
確かに辛くて、悲しくて、ここから逃げ出すことばかり考えていたけれど、今日偶然矢島と出会えたお陰で楽しかった大切な思い出を取り戻すことができた。
おでこの傷なんて、辛くない。
確かにみんなが心配するから隠しているけど、矢島を少しでも助けることができた証だから。
あの日、秘書課の先輩からの命令で、ひとりで広い書庫の清掃と整理をさせられてた。
普段使われてない倉庫のようなところなので、中も荒れていて、途方に暮れていたとき、
「カゲヤマ、オマエ、何してんだ?」たまたま資料を探しにきた矢島が声をかけてくれた。
「お掃除……。」
「掃除ってオマエ、大晦日でもないのに、ここやる必要あるのかよ、嫌がらせみたいなことするな、オマエんところの上は?」
実際、嫌がらせだった。