となりがるーむめいと・13
「あははっ!あの時は慌てて僕ら、壷の大量回収に行かされましたから。
ま、会長にそんなこと言えるのは若くらいですね。
お陰様であそこ、図書室になりましたし、会長のお孫さんの夏輝様もめでたく室長ということで……。ハッハッハ!」
「あ、アイツあそこの室長になったんだ、
直系の孫なのにあれじゃどこに据えるか人事頭抱えてたからな、
よかったじゃん……て、脱線させるな、笑い事じゃねえよ、あれ経験したら、誰だって壺と所有者に腹立つぜ。
それと、一つ気になってたんだけど、カゲヤマがあそこを掃除させられてたのも、やっぱり、さっき聞いた例のイジメの一環か?、
全然管轄外の仕事だろ?」
厳しい表情で黒澤を言及する矢島の瞳は強い光を放ち、既に彼女を守る体勢を作り出しているようだ。
黒澤は神妙な面持ちで、
「……残念ながらその確率が高いです。
彼女も追い込まれていたようで、カゲヤマ君にも可哀想なことをしました。
管理が徹底しておらず申し訳ございません、早急に原因を確認し、今回一連の究明に努めます。」
そんな黒澤を気遣うように、矢島は穏やかに、
「ま、黒澤はほとんど会長付きだから、実質は蔵元課長の管理問題だろ。
オレも給湯室で秘書課の連中の井戸端話をちょっと耳にしたから、
コイツのこと、大丈夫なのか気になって仕方なかったんだ。
だから今日は偶然こんな風になって、オレにとってはラッキーだったんだけど。
最近ちょっとした行き違いがあって避けられてたから。
お陰で誤解も解けたし、安心したよ。」
そういうと、安堵の表情を浮かべ、眠ってる彼女の髪の毛を優しく指先で撫でた。
黒澤と矢島の付き合いはかなり長いが、幼い頃から余計な感情というものを出来るだけ排してきた矢島があんな風に誰かを愛おしむ姿を、初めてみた。
何だろう……強い衝撃の奥に、何か正体がよくわからない感情が沸き起こってくる感覚に飲み込まれながら、黒澤は大きく戸惑いつつも、話を続けた。
「いずれにしても、しばらくカゲヤマ君とは共同生活なさるんですね」
「ああ。さっきも彼女と話したけど、例え犯人が今はいなくても、また戻って来るかもしれないし、いろんなことがはっきりしないウチはカゲヤマをあの部屋に帰せない。」
「そうですね、ごもっともです。
もしよろしければ、彼女にセキュリティーのしっかりした他の場所も用意出来ますが……。」
恐る恐る切り出した黒澤に対し、きっぱりと矢島は、
「いや、ひとりは可哀想だし、何かあったらいけないから、オレが面倒みる。」
黒澤は軽くめまいを感じた。
……何故か軽い苛立ちすら感じて来たし、いや、もどかしさか?、黒澤は徐々に深みにはまっていく自分を戒めつつも、意固地になりつつある自分の言動にも気付いていた。
「わかりました、若、恐れ入りますがその共同生活、明日から私も参加致します。」
「……は?、何が分かったの?」
「あ、いや、お二人がどうのこうのではなく、まあ、どうみても修学旅行の延長上にしか見えませんが、一応カゲヤマ君も嫁入り前のお嬢さん……」
「黒澤、言い回しが年寄りだし、なんか支離滅裂!」
「あ、いや、ルームシェアのつもりでも、世間的には同棲に見えてしまう可能性があります。」
「大丈夫だよ、……大体秘書課って、なに考えてるんだ?、報告通りなら他にもデータ流出・不法侵入の可能性もあるなんて、人いびってるヒマなんかないぞ。」
「若、今話すり替えようとしたでしょ、そうはいきませんよ!
ですので、今後、カゲヤマ君は若の為に守るためにも僕の手元に置きます、直属として。」
「は?、え、だって室長、フツー直接指導には関与しないし、海外多いじゃん。」
「その際は彼女も一緒に連れて行くつもりです。」
強気に出た黒澤に、流石の矢島も呆気にとられた。
二人の口論もお構いなく、疲れ切ったカゲヤマは、いつの間にか矢島のシャツの裾を握りしめて、深く深く眠り続けていた。