【MTGレガシー】予告された《目くらまし》の記録〜《別館の大長》と《金属モックス》型白スタックス検討録〜
1.2023年初めからの白スタックス動向
今年1月、フォロワーのkeiさんが晴れる屋名古屋店のレガシー杯DXで頂点に立ちました。
久々に結果を残した白スタックスであり、マスピ中心にバッキバキに仕上がったフルfoilは芸術と呼ぶより外ないでしょう。
このリストで特筆すべきは、従来の《モックス・ダイアモンド》ではなく、《金属モックス》を採用している点。
私はこの点について、シナジーよりもカードパワーに重きを置いたものと受け取りました。
白スタックスはシナジーベース故に細いと言われてきましたが、《ウルザの物語》や《孤独》、《永久のドラゴン》などのおかげで、純粋なカードパワーに寄せても押し切れるようになったのです。ん?全部モダホラ2出身だって?君のような勘のいいガキは(ry
また、時代背景的には、このリストが生まれた頃は白単イニシアチブストンピィがこの世の春を謳歌していました。
ああした初動押し付け最強デッキが跋扈していたため、非青系デッキは初動を如何に捌くかが最重要課題。
否、《魂の洞窟》や各種ピーピングのせいで、青いデッキでさえもそうでした。
例えば上記リストの場合、ピッチ除去の《孤独》とともに、《別館の大長》がその役割を担っています。
出せるマナを最大限に使って動くストンピィデッキにとって、この〈予告された《目くらまし》〉は想像以上に効果がある。
同じく白いストンピィ系デッキを駆る者であればこそ、この痛みは手に取るようにわかります。
さらに副次的に、《別館の大長》は青いデッキへの牽制にもなります。
先手初動の《虚空の杯》や《三なる宝球》がカウンターされなければ、どんなに気持ちよくMTGができるだろうか。(反語詠嘆
その後、私が腰を重くしている間に《白羽山の冒険者》は退場し、《表現の反復》を失ったURデルバーも弱体化した——
——はずだったのですが、デルバーは手を変え生き残り、イニシアチブも色を変えて環境に居残り…
さらには《偉大なる統一者、アトラクサ》系デッキの隆盛に、辛酸を舐め続けてきた青白コントロールの復権……
対照的に、下がり続ける(私の)白スタックスの勝率………
ようやく、言い訳も食わず嫌いもやめて、私も一歩踏み出そうと決意しました。
何と言ったって結果を出したデッキリストは偉いのです。
2.《金属モックス》型と《モックス・ダイアモンド》型の差別化
《別館の大長》を使う、ということは、すなわち《金属モックス》型になることを意味する。
先入観だと言われるかもしれないし、実際に《モックス・ダイアモンド》と共存させてみたのは数日間しかなかった。
が、少なくとも私は、場に出ることも消費することもできない《別館の大長》が手札でモジモジしている姿は想像したくなかった。
このあたりは、結局乗り手がそれを許容できるかどうかだと思う。
そして、私はそれを我慢できない。
では、普段あまり使っていないため、改めて《金属モックス》を使うメリットを挙げてみたい。
・初手のキープ基準の緩和
・最悪ソルランド1枚(土地1枚)からスタート可能
・デッキ内の土地の減量
・《世界のるつぼ》を取らない構築が可能
・白のダブルシンボルの安定供給
・刻印しなくても、最低限アーティファクトカウントや《煙突》のススとして活用可能
反対に、《金属モックス》のデメリットはというと、
・刻印したカード(失ったアドバンテージ)は回収不可
・刻印したくないカードを刻印せざるを得ない場面あり
・《世界のるつぼ》を取らないため、《煙突》の維持(特にススを2個以上にした時)が難しくなる
・《世界のるつぼ》を取らないため、《不毛の大地》によるハメのイージーウィンがなくなる。
といったところ。(滲み出るエアプ感
後半は《世界のるつぼ》にかこつけて無理やり挙げた感もある。
これらをまとめてみると、
《金属モックス》型は、安定した初手から、爆発力のあるスタートに期待できる。
また、土地が少ないということは無駄牌も減るため、マナスクリュー以外では手数も途切れにくい。
《永久のドラゴン》や《孤独》のガン積みにより生物での攻防にも強く、つまり、戦術的な柔軟性よりも、より直線的に攻めるストンピィタイプ。
《モックス・ダイアモンド》型は、初手の要求値がややシビアで、キープ基準と初動の判断が重要。(特に《世界のるつぼ》の使い方が肝要。)
また、土地が多いため無駄引きも多いが、強い土地は結果的に使い回せる可能性もある。
《世界のるつぼ》を積むため全体的にスロットもシビアで、《永久のドラゴン》や《孤独》を強いからと言ってガン積みできず、爆発力や巻き返す力は低めだが粘り強いコントロールタイプ。
こんなように差別化できる。
何を今更って感じではあるけれど。
こうして言語化して冷静に眺めると、今回俎上に載せた《別館の大長》が実に微妙なカードだとわかってきた。
まず、《別館の大長》は初手に依存するため、ただでなくとも初手がシビアな《モックス・ダイアモンド》型での採用は自殺行為だ。
また、上述のとおり、後々引いてしまった際の処理手段にも乏しい。
シナジー形勢も全くないのである。
では、《金属モックス》型ならどうか。
keiさんが結果を出されたように、確かに《金属モックス》や《孤独》の〈エサ〉にしやすい点は評価できる。
しかし、それでも後半の無駄牌になる可能性は高く、あくまで〈処理〉できるという話だ。
これはマイナスにはなりにくいということであっても、プラスになるという意味ではない。
ただ、イニシアチブストンピィ全盛期の超高速先行ゲー環境では、そこまでしてでも相手を減速させることに、確かに価値があったのだ。
しかし、今のメタでは、《金属モックス》型の売りである安定感やストンピィ的な押し付けと逆を向いており、チグハグ感が拭えない。
3.《別館の大長》の志向性
《別館の大長》は、リアニメイトのような究極の押し付けデッキでこそ最大の力が発揮される。
リスクを負ってでも、先手1ターン目のスペルさえ通せば勝てるからだ。
(加えて、ディスカード要員にもなり、強くはないが釣ることもできる。)
それと同じ理論で、刺さらない可能性がある《虚空の杯》でスタートするデッキより、《スレイベンの守護者、サリア》や《精鋭呪文縛り》で確実に相手を減速させつつ走り抜けるデッキの方が合っている。
これらをふんだんに採用し、最終的に《虚空の杯》不要論にまで先鋭化していった、在りし日の白単イニシアチブで使われていたのも納得であった。
一方、元来〈守り〉のデッキである白スタックスに於いてはそうはいかない。
たとえ《虚空の杯》や《三なる宝球》を通せたとしても、それだけで相手が死ぬわけではない。
白スタックスがやらなければいけないことは、もう少し長いゲームプランで、2〜4ターン目の脅威を通すことだ。
ストンピィ的に押し切るにしろ、コントロール的に立ち回るにしろ。
そのためには、1ターン目の脅威には喜んで《Force of Will》を当ててもらうぐらいの度量が必要なのだ。
4.2023年5月現在の白スタックス最前線
年明けから踠き苦しみ、冷静ではなかった私は、残念ながら実戦を通してこれを学ぶこととなった。
時に、右手の力で勝利を手繰り寄せた日もあったが、魔法が解けた日には上のような有様であった。
そして結局、私は自分が信ずる《モックス・ダイアモンド》型へと戻っていった。
《金属モックス》型試行に際してMOのチケットも数多失われていったが、その試行回数と経験は血肉となり、また《両替機》の再発見はデッキの中に確かに息づいている。
と、ここまで私の戯言のような〈記録〉を綴ったわけだが、keiさんの方はというと——
イニシアチブ全盛の時代が終わり、非青系デッキでも少しばかり初動に余裕が出てきた現在、予告された《目くらまし》は、《金属モックス》型からもきちんと消えていた。
流石の乗り手の風読みであった。
(了)
〔付記〕
本稿では、意図的に、《大いなる創造者、カーン》には一貫して触れなかった。
それは、生物によるストンピィでも、置物による締め上げでもない全く新しい——それも恐ろしく強固な——軸をデッキに齎すカードであり、語るべき余白をほとんど持たないカードだからである。