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【MTGレガシー】白スタックス・マイスターへの修業時代(デッキ解説)

ふとしたことからある道をお歩きになる、すると、やがてむこうから好機がやってきて、予期しない出来ごとがつぎつぎに起こり、最後には自分でもほとんど気づいていなかったような目標にちゃんと到達していた――そんな経験をなさったことはないでしょうか。

「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」(今村孝訳『ゲーテ全集』第7巻 潮出版)

こんにちは。太正時代から白スタックスを握り続ける者です。(MTG平成定期
誰の何の得になるかもわかりませんが、白スタックスのデッキ解説を書きたいと思い立ち、筆を執っております。

とはいえ、有名プレーヤーでも何でもないので、「こうプレイするべき」とか「こう構築するべき」といったことはほとんど言えません。
むしろ、自分の思考や経験をクリアにするための自慰行為自己省察みたいなものだと思って、あたたかい目で見ていただければ幸甚です。

その結果として、白スタックスをご存知ない方や興味がある方に、少しでも理解を深めていただければ嬉しく思います。

註:クッソ長いんで、デッキの内容だけ知りたい方は「3.解剖学」からお読みください。

1.教養学

1ー1.概論

白スタックスは、MTGレガシー環境に太古から存在する非青のボードコントロールデッキです。古くは太正時代から(MTG平成定期
強力な置物や土地に、白のマスデストラクションを加え、自分の城を築き上げて引きこもる由緒正しき陰キャ。

戦術的にも、基本的にゲームレンジを後ろへ後ろへ引き伸ばし、最終的に守り切る(ハメ切る)ことが目標となる超守備的なデッキです。
野球はノーエラーで両エース完投の1対0(できれば延長14回ぐらいで、サヨナラではなく先攻勝利)が至高と考える、筆者のような人にオススメ。
白スタックスの至高の勝ち方はというと、相手の手札はいっぱいだけど何も唱えられない・相手の場に何もパーマネントが残っていない・そもそも相手のデッキにマナが出る土地が残っていない、等々。

《虚空の杯》や《三なる宝球》を使う関係上、ロックデッキのイメージを持たれることも多いのですが、これはあくまで副次的な側面です。これについては後ほど触れられればと思います。

非青(というか白)なので、当然ドローソースなど皆無。それゆえ、所謂右手系デッキの系譜に数えられることもあります。

1-2.起源論

そもそも「スタックス」とは何ぞや。
スタックスの語源は、

デッキ名の「Stax」とは、もともと「$t4Ks」と書かれていたもの(中略)。これは、「The $4,000 Solution(4000ドルに値する解決策)」の頭文字をもじったものだそうだ。

MTG Wiki「スタックス」のページより

とされています。(《煙突/Smokestack》からではないのです。)
最近トンと見なくなったひどく瀟洒なネーミング。
(青黒コントロールて。そんなん見たらわかるやろ。

以来、「スタックス」とは継続的なリソース要求でお相手を締め上げるデッキを指す名前となっており、代表的な採用カードに《煙突》《The Tabernacle at Pendrell Vale》《不毛の大地》などがあります。

元はヴィンテージが主戦場で、続いてレガシーにも白スタックスとして登場。
また、近時のスタンダードでも《予言された壊滅》を軸にしたエスパースタックスが生まれ、ここで「スタックス」という言葉を知った方も多いかもしれません。

さらに、最近は統率者戦界隈で「スタックス」という言葉が一種の流行語となっています。(悪口の方が多い気がするけど気のせいだよね!)
こちらは元の使われ方とは異なり、相手の行動を縛るカードやそうしたカードを使うデッキ全般を指しているようです。例えば《ドラニスの判事》などがわかりやすく、継続的なリソース要求をしなくともスタックスに分類されています。

ここで、ヴィンテージスタックスの動きをご覧になりたい方は、以下の動画をご覧ください。思わずうっとりすること請け合い。

1-3.比較論

レガシーのスタックスデッキにも、様々なタイプがあります。
爆発的なマナ加速を最大限に活かせる無色系のMUD型Post型ゴロス型
絡め手が多くテクニカルな、赤系のウェルダースタックスやアスモースタックス
カウンターで防御力を上げられる青系の青スタックス。
ランデスに振り切れるのが強みの黒系のPox型。

また、同じくソルランド(《古えの墳墓》《裏切り者の都》)やモックスなどから《虚空の杯》や《三なる宝球》という動きをするデッキたちも多数存在します。
実際、私がレガシーで初めて組んだデッキ、フェアリーストンピィはその走り。

近年だと、赤プリズンエルドラージストンピィがこれにあたりますが、実際の動きは白スタックスとは水と油といえるほど正反対です。
というのも、彼らは基本的に〈攻め〉のデッキであり、《虚空の杯》や《三なる宝球》は〈攻め手を守る〉ために存在しているからです。

上述のように白スタックスは〈受け〉〈守り〉のデッキなので、思想が近いデッキとしては土地単Poxになるのかなと思います。

2.歴史学

2-1.現出

白スタックスの成立については、既にMTG Wikiさんの当該ページが素晴らしくまとめてくださっています。

1点付け加えるとしたら、成立に寄与したのは《幕屋の大魔術師》だけではなく、《トロウケアの敷石》もだと思っています。後で詳しく述べますが、《トロウケアの敷石》は白スタックスの正しく〈要〉に据えられたカードで、替えの利かないカードの筆頭でした。

え?メイガスも替えが利かないって?あるだろクソ高い元ネタが。(なお当時は2枚採用のリスト多数

2-2.隆盛//衰退

メタ上にビートダウンが多く、また当時は青系の重コントロールが少なかったこともあり(《精神を刻む者、ジェイス》も登場前)、アンチビートダウンとして一気に駆け上がり、世界選手権2007で予選4-1を4人輩出。
この大会はカードプールがローウィンまでという絶妙のタイミングで、まだプレインズウォーカーたちもだいぶ大人しめでしたし、コンボも限られていました。

MTG Wikiさんにもありますが、この時のリストも可視化しておきます。

4枚積み中心のリストがあまりにも美しい。

青タッチ型もあります。

7プロパ6ゲドンは流石に笑ってしまいそうになりますが、本当にこういうメタだったんですわ。

《煙突》《からみつく鉄線》特化型も。

こうして時流に乗った白スタックスでしたが、きらめく黄金時代はすぐに終わりを告げます。

2-3.受難//回生

アラーラブロック――パワーインフレの到来です。(ローウィンからちょいちょいヤバさは感じてた。)
《野生のナカティル》《聖遺の騎士》《遍歴の騎士、エルズペス》といった単純なパワーカードはもちろんでしたが、それ以上に苦しむのがデッキや攻めの多様化、メインデッキの対応力の向上でした。

ANTプロバント(《大祖始》)が爆誕。
《三なる宝球》の効果を薄くした《貴族の教主》。
メインから平気で置物に触ってくる《クァーサルの群れ魔導士》…

さらに、同じ世界選手権2007あたりからトップメタになっていたカウンタートップゴイフ(以下、CTG)が洗練され、完成を見ます。

尽きかけた命運。私の手元の白スタックスが完全版となったのもこの頃でしたが、周りにCTG使いが多かったこともあり、完全にオワコン扱い。
そんな暗澹たる空気の中で開催されたレガシー選手権2009、ひとつのリストとの出会いが私の心を決めました。

それは革命。

《聖遺の騎士》を自陣に引き込み、メタを搔い潜ってのトップ4。
サイドは過剰なまでの青対策。単色という色の安定を捨ててまでも。
…これが本当の〈守り〉。(そりゃもう、すぐ《Savannah》買いに走ったよね)

その後、日本レガシー選手権2010でも〈白い悪魔〉を引き連れたエンジェルスタックスがトップ8に進出しましたが、この輝きを最後に、白スタックスは表舞台から静かに退いていきました。
シン・青い悪魔〉とか〈茶色いバター〉とか〈無色のシイタケ〉のせいかな?

で、現在に至るというわけ。(だいぶ端折った

2ー4.不朽

メタの俎上から長らく離れ、白スタックスはもう死んだ。ほとんどの人がそうお思いでしょう。お思いだったでしょう。
レガシー史という名の《ガラスの棺》の中で、ATSIGGy-POPZooらと共に並べられ、埃を被っていると。

Fate will decide whether it's a bed or a tomb.

でも、僕にはこれしかなかった。これ以上の美しさを持つデッキを知らなかったし、今も知らない。だから、この美しいデッキを諦めたくなかった。
ふとしたタイミングでMTGに復帰して以来3年、そんな想いを胸に、このデッキに心血を注いできました。

ここで結果から申し上げると、昨年作成したリストをMagic Online上で回していただき久々のレガシーリーグ5-0の白スタックスが誕生
さらに今年3月には、遂に私自身も初のリーグ5-0を達成することができました。(相変わらず乗り手はヘボヘボですが、それは一旦傍に置かせていただいて

そして8月には紙の大会で結果を残しつつ、先日は全て2-0でのリーグ5-0も達成。
なんとか自慰記事を書くことが許される程度の箔はつけられたかなと思うので、ここからさらに詳しくデッキの解説をしていきます。(前置き長くて申し訳ねえ)

3.解剖学

3ー1.基本構造

まずは、従来の白スタックスのデッキ内の役割分担を見ていきます。
採用カードは、主に以下の4種に分類できます。

①マナ加速
 例:《古えの墳墓》《裏切り者の都》《モックス・ダイアモンド》
②行動制限
 例:《虚空の杯》《三なる宝球》《亡霊の牢獄》《Moat》
③リソース要求
 例:《ハルマゲドン》《The Tabernacle at Pendrell Vale》《幕屋の大魔術師》《不毛の大地》《煙突》
④リソース維持
 例:《世界のるつぼ》《トロウケアの敷石》

これに、必要に応じてわずかなフィニッシャーを入れて完成です。
この①~④が緻密なシナジーを形成します。図式的には以下のような感じで、デッキの核となっているのは④です。

僕らはひとりでは強くなれない。

特に、《トロウケアの敷石》は呪文を唱えずにリソース維持に寄与できるため、このデッキとは切っても切れない縁のカード。

渋い。だがそれがいい…!

この①~④のうち、②の《亡霊の牢獄》《Moat》や③《The Tabernacle at Pendrell Vale》《幕屋の大魔術師》は、横並びのビートダウンを強く意識したカードでした。
しかし、現在のレガシーを少しでもご存知でしたら、この守りが効かない相手がどれだけ増えたか想像に難くないでしょう。

空飛ぶシイタケ自己完結デーモン三玉乗り越えドラゴンタバナクルガン無視女神デッキトップを刻む者触手攻め風来のゾンビヤンデレ自傷魚人砥石の拷問、よくちらつく亡霊…(ry


せめて地上から来い!地上から!

勝ち筋の多様化に伴い、時流にそぐわなくなりつつあるこれらのカード+相方の《ハルマゲドン》の枠を見直し、代わりに盾となるカードを必死に探しました。
また、①~④の構造だけでは限界であることを痛感し、さらなるシナジーの発掘・強化に乗り出すことに。

3ー2.新規軸

ここまで読まれると、さぞ長いことMTGを続けているように見えるかもしれませんが、実際は学業や仕事の関係で数年間MTGから離れていました。
デルバーデッキの誕生や、地獄絵図だったと聞く奇跡ミラー、悪名高きディグ・クルーズなどは体験せず、戻ってきた時は世はまさに奈良公園となっていたのであった。(レンちゃんも生きてたよ!

そんな中、フリプ会など参加させてもらいながら、徐々にすごいカードたちが登場していたことを知っていく。

まず目を付けたのはこの2枚。
ノ《難題の予見者》:目を疑いました。
ノ《大いなる創造者、カーン》:冷静になるために一度寝ました。
すごすぎるぜ平成のMTG!(M平定

さらに発見は続く。
オーコ・レン6時代にといえば《真髄の針》を刺したくなるのが人情。とはいえ、《虚空の杯》の関係で使えない。何かないか。
ノ《魔術遠眼鏡》:あったわ。

噂には聞いてたけどデルバーきっつー。
《神の怒り》も《ハルマゲドン》もカウンターされるしなあ。
ノ《爆発域》:あったわ。
なにこれ天国か。

…まあそれでもうまくいかない。
当然です。ドロソもサーチ手段もないんだから。

3ー3.新要素

そんなわけで、既存の①~④の構造を維持しつつ、新たに以下の3つの要素を加えられないかと模索を開始。

⑤:汎用除去/手札破壊
⑥:フィニッシャー
⑦:サーチ/ドローサポート

《難題の予見者》で味を占めてしまった手札破壊は兎も角として、汎用除去もサーチも確かにかつても採用されてはいました。
しかし、今の採用カードたちの特長は、これら①〜⑦の役割を兼ね備えているカードが多いということです。
時代は令和。マルチ人材以外お断り!

例えば、《大いなる創造者、カーン》は、②アーティファクトを殺したり《罠の橋》で閉じこもったり、③《液鋼の塗膜》でリソース要求、⑥《マイコシンスの格子》とのコンボでフィニッシャー、⑦それらを可能にする柔軟なサーチ、と恐るべき一人四役。
他にも、
《難題の予見者》:⑤(間接的に②③も兼ねる)と⑥。
《魔術遠眼鏡》:②と間接的に⑤。手札確認で守りのプランも立てやすくなる。
《爆発域》:②と⑤、かつ、《世界のるつぼ》とつるんで③。
といった具合。

3ー4.新風

さて、時代が実際に令和になり、白スタックスが待ち望んだエースの登場です。

《エメリアのアルコン》
あまりにも強烈な②を2つも内蔵しつつ、《不毛の大地》とつるんで③、最後は⑥へ。
当初《稲妻》を前にあまりにも弱々しく見えましたが、《戦慄衆の秘儀術師》《アーカムの天測儀》が逝くとともに、現在まで抜群の強さを発揮してくれています。
タッピンのフェッチがあまりにエッチ。(なぜか相手だけ

さらに人材は続きます。
レガシーホライゾンもとい、モダンホライゾン2のお通りだ。

《孤独》
強い⑤、かつ、終盤は⑥。インスタントで動けるようになったことで、さらなる柔軟な守りに寄与。
《永久のドラゴン》
④、⑥、⑦。それらを打ち消されずに行う。縁の下の力持ち。

そして、本丸。
《ウルザの物語》
⑥フィニッシャー生成、⑦サーチ、③《不毛の大地》での1対1交換を強要するという意味でのリソース要求、①《モックス・ダイアモンド》サーチでマナ加速になることも。
強い、強すぎる!太正のカードになんて戻れねえ!

ここまで頭数が揃ったら、あとは潤滑油になる⑦だけが問題でした。
そこで白羽の矢が立ったのが次の3枚のカード。

《セヴィンの再利用》
重ね引きしたくないが壊されると困る②を守るための④、兼間接的に⑦。《孤独》のコストにもなる。動きがとにかく柔らかい。
《精神迷わせの秘本》
これは純粋な⑦。ただ、ライフゲインでゲームレンジを延ばすのにも寄与。他のカードパワーが凄まじいからこそ許された、お茶目な〈エロ本〉

《探検の地図》
これも⑦でありながら、①ソルランド、③《不毛の大地》《The Tabernacle at Pendrell Valeル》、④《トロウケアの敷石》、⑤《Karakas》《爆発域》《皇国の地、永岩城》、⑥《ウルザの物語》に柔軟に繋げられるラストピース。
このカードの発見は、あの世界選手権2009の《聖遺の騎士》型に立ち戻ったことによる産物でした。
ありがとう、僕のヒーロー。

3ー5.演繹法

カードプールの広がりにより、かねてからのカードにも新たな役割が与えられました。
例として、《世界のるつぼ》は従来の④リソース維持や③不毛嵌めだけでなく、⑥無限サーガでのゴリ押しや、⑤無限《爆発域》といった役割まで追加されています。

他のパーツはというと、
①:白スタックスではほぼ変わらず。たまに《厳かなモノリス》や《宝石の洞窟》。
②:基本的に《虚空の杯》と《三なる宝球》が担い続けている。なぜか。こいつらは守れる範囲が異常に広いから。他のカードが軽くて強くなるほど、相対的に強くなる。
③:《煙突》《不毛の大地》は未だ現役バリバリ。
④:《世界のるつぼ》《トロウケアの敷石》は数を減らしつつも、未だ現役。

ちなみに、スタックスに乗っていると、よく《からみつく鉄線》愛好家に声をかけられます。(もちろん私もだいすき!)
「――《からみつく鉄線》は入れないんですか?」

わかります、その気持ち。スタックに乗せる順番で得をするあのエモい動きは、《からみつく鉄線》と《煙突》の特権ですからね。

しかし、《からみつく鉄線》の役割は何か。そう、《からみつく鉄線》は典型的な②の行動制限系のカードで、基本的に単体で③の役割を果たすことはできません。
私はこれは《リシャーダの港》と《不毛の大地》の関係に似ていると捉えています。

4.環境学

4ー1.相対性〈守り〉論

木が火に弱く、火が水に弱いように、なかなか全能の盾というものは難しい。
かつてお得意様だったエルフは《アロサウルス飼い》を得、相性最悪の《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が跋扈。墓地をリソースに使うのも当たり前。
(《亡霊の牢獄》なんか置いてる場合じゃないんだよ本当に。)

ここまで、構成と採用カードの話が続きましたが、白スタックスに跨る上で重要な要素がもう一つあります。
それが、環境理解です。

ウン年ぶりにMTGに復帰した当初は、それはもう負けに次ぐ負けでした。
相手の姿を想像できていなかった。わからん殺しってやつに近いですね。(私が知らないだけで超有名デッキorカード

守りのデッキですから、仮想敵に対するガードは上げておかなければいけません。メタの潮目に目を光らせ、上位デッキのリストは頭に叩き込み続けます。
あるカードが採用されているかどうかだけでは不十分です。採用枚数までわかっているかも重要。

URデルバーのデッキ内に青マナが出る土地は残り何枚?割るべきか?
《セジーリのステップ》の2枚目はある?《輪作》で詰まないか?
針で止めておくべきは確率的にはジェイス?それともテフェリー?
《汚染された三角州》を刺せばイージーウィン?散らされてる?
《エメリアのアルコン》で安泰?《猿人の指導霊》で《騙し討ち》起動は?

当然、当たり運にも左右されますし、地域メタにも泣かされます。
それでも、1%でもいいから可能性を上げていく。
勝ちたいから。このデッキを勝たせたいから。

ですから、奈良時代オーコ時代は《魔術遠眼鏡》がメインに最低2枚は必須でしたし、桃山時代ラガバン時代には《Karakas》は最終的にメインに3枚まで増えていました。
今のURデルバーメタでは、《皇国の地、永岩城》と《爆発域》はまず手放せませんし、一時減らされる傾向にあった《不毛の大地》や《目くらまし》の枚数をめぐる駆け引きも手に汗握るところです。

4ー2.相対論

見事に上位がみんな苦手じゃないか!こんなデッキは紙の束だ!

これは私の独断と偏見です。なんせ自分以外のデータがないからな!
実際の対戦回数にも大きな差がありますし、乗り手の腕も私如きには判断できませんが、私が勝敗に納得したり反省したりする上での指標として作ったものです。

まず白スタックスが苦手なものの特徴です。
・先攻1ターン目の強クロック
 例:《秘密を掘り下げる者》、《ゴブリンの熟練扇動者》
・基本3マナ以上で動くデッキ
 例:赤プリズン、エルドラージストンピィ
・自分より長いゲームレンジ
 例:土地単、バントコントロール
・インスタントタイミングで仕掛けられるコンボ
 例:ダークデプス、Doomsday
・プレインズウォーカー
 例:《時を解す者、テフェリー》、《時を解す者、テフェリー》、《時を解す者、テフェリー》

反対に、与しやすい相手の特徴としては、
・マナ域が(低マナに)固まっている
・チェインコンボ
・特殊地形偏重
・アーティファクト主体
といった感じ。

ここから、後者を取りこぼさないように留意しつつ、前者への対応力が上がるようデッキを調整していきます。
現在であれば、上述のデルバー対策や赤プリズン対策(無理)
このあたりは《大いなる創造者、カーン》のただ1つの弱点である、サイドボードの圧迫との戦いでもあります。

4ー3.絶対性〈守り〉論

一般的に、MTGでは「書き手」(こちらのデッキ)と「読み手」(相手のデッキ)の対話が重要になる。
相手に合わせて構築し、相手に合わせて動く。守るデッキであれば、尚更このような考え方になるでしょう。
上述のメタ読みのように、MTGには和声(ホモフォニー)的な側面があるといえます。

一方、それと同時に、白スタックスには対話に左右されない普遍的な守りの強さがある。
低マナ呪文のシャットアウト、あらゆる呪文のコスト増、呪文連打の制限、土地破壊、パーマネント除去、生贄要求…
これらは、多声(ポリフォニー)的な強さといえて、白スタックスのデッキ構築上の重要なポイントになっています。

これらの要素を全く介さないデッキというのは、今のところMTGには存在しません。たとえベルチャーであれスパイであれ。
あえて言うならドレッジがそれに近いです。流石はドレッジ・ザ・ギャザリング(褒め言葉)

ですから、(流行ることもまずないでしょうが)白スタックスが完全に廃れることはないと今は信じています。
もしそういう日が来たとしたら、全てのマナを手札からの起動型能力で生み出すか、マナを必要とせず、全ての動きが能力のみで完結している、そんなデッキがのさばるMTG2.0の世界でしょう。

でも大丈夫。それでも大丈夫。
僕たちの調整用ストレージには、いつだって《抑制の場》と《謙虚》がいることを忘れなければ。

5.審美学

5ー1.〈矛盾〉

マナ加速する、つまり、相手より早く、相手より高コストの呪文を唱える。これは所謂「ストンピィ」戦術のキモです。
高コストの呪文は当然強力で、それを低コストの呪文(例えば、《稲妻》や《剣を鍬に》)で触られないよう、《虚空の杯》で潰しておく。
また、自分の強みである「盤面」以外で勝負する、スペルコンボなどへの牽制にもなる。
赤プリズンやエルドラージストンピィなどを見るとよくわかる図式です。

しかし、白スタックスはどうか。
序盤の展開《虚空の杯》《三なる宝球》こそ同じですが、これらは〈攻め〉の一手ではありません。最初の一手から〈守り〉の布石を打っていくのです。
相手より高コストを揃えていながら、なぜか〈守り〉のカードを展開していく。まだ相手は低コスト帯にいるというのに。

ストンピィ戦術の中でも異端の、この〈内部矛盾〉

また、守備的なデッキと言いつつ、《古えの墳墓》でどんどん自傷していく。
リソース要求も白らしく平等?(一応疑問符はつけておく。一応な)で、自分の方が苦しむ場面さえある。

苦しみながらゴールへ辿り着く喜び。
盤面を更地にする。ハメ切る。封殺する――。
まだライフが十分にある相手に「投了」を宣言させる、その瞬間のあきらめの表情を見るのが好きなのである。
相手の目の中から、戦いの炎がフッと消える、あの瞬間の凪が。

(その凪のあと、晴れやかな笑顔が来るか、卑屈な笑みが来るか、舌打ちが来るか、沈黙が来るか。こればかりは白スタックスでもコントロールしきれない。)

デッキというのはどれも唯一無二で美しいもの。
ビートダウンの内容美。
コンボデッキの機能美。
コントロールの様式美。
オールインの悲壮美。
部族デッキの自然美。

同じように、白スタックスには〈矛盾美〉があると私は思っています。
言っていて最高に恥ずかしいけれど、私はそこに一番惹かれているのだと、今回の自己省察を通して知った気がします。

5ー2.あとがきに代えて

この記事を書くべきか否か、公開するべきか否か、ずいぶん悩みました。
もしこんな酔狂な記事でも誰かの目に留まることがあれば、私の勝率は間違いなく落ちることでしょう。

白スタックスは対策しやすいデッキだし、こちらとしても当然守り切りにくくなる。メタ外ゆえのわからん殺しも減ってしまう。
だからこそ、私は誰ともデッキやプレイングを共有し合うことなく、世界の片隅で密やかな試行錯誤を繰り返してきました。(友だちがいないだけ?嫌だ!聞きたくない!)

それでも今回このような記事を書いたのは、恐らく誰かにこのデッキを知って、回して、好きになってほしいという思念に耐えられなくなったからでした。

ひとりではなく、誰かとともに歩みたいと。
また、かつて自分がそうであったように、いつか暗い道をひとり往こうとしている者があったなら、その道標になれたらと。

立ちわたる霧のうちに驢馬は道をたずねて
いななきつつさまよいひろきほらの中には
いと年経たる龍の所えがおにすまい
岩より岩をつたいしら波のゆきかえる
かのなつかしき山の道をしるやかなたへ
君と共にゆかまし

『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』より「ミニヨンの歌」其三
(SSS訳『於母影』より引用。なお、引用に際し、旧仮名は新仮名に改めた。)

虎穴に入らずんば虎子を得ず。
竜たちの住まう山道を往かなければ、その先の景色は得られない。

マイナーデッキを回し、守りの奥にナイフを隠して《凄腕の暗殺者》を気取っていた私もまた、十分に、内部に矛盾を抱えた存在だったのです。