
AI活用は「Howの学習」と「業務の言語化」から始めよ
ここ2年で、ChatGPTの登場を皮切りにAIの話題を聞かない日はなくなりました。毎日のように新しいAIモデルやAIツールが登場してニュースやSNSを賑わせています。
ですが、そんなAIを活用しようと思っても、まず何を学べばいいのか分からない、自分の業務にどう活きるのかイメージが持てない、そんな方も多いのではないでしょうか?
AI活用を始めるにあたって、大事なことは一つに「Howの学習」すなわち様々なAIツールを知り、またその使い方を知ること、そして「日々自分が行なっていることを言語化すること」です。
まず知識としてAIでどんなことができるかを知るのが大事です。なぜならHowを知らないと発想の幅が狭まるからです。例えばですが、「AIで文章から図解が生成できる」と知らなければ、業務で図解を作る機会が繰り返しあっても「じゃあ図解作成をAIで自動化しよう!」とはなりません。
知ってるか知らないか、これだけで大きく差が出ます。
純粋に世界にどんな便利な手法が作られているかの知識を蓄えること、これがまず大事です。
ただ、AI含め技術は手段です。知識をいくら蓄えても「使い所がない」「どう使えばいいのか分からない」という状況は往々にして発生し得るでしょう。
そこで私がお勧めしたいのが日々の仕事で繰り返し行なっていることの自動化・効率化からです。そこがすぐに取り組みやすいし、効果も実感しやすいからです。
そして、そのためにやると良いことが日々の業務の言語化です。自分がどんなことをやっていて、その仕事のゴールは何か、品質を満たすために重要な情報が何かを書き出していきます。
というところで今回伝えたいことの要点は伝え終わったのですが、ここからは具体的に「Howをどう学んでいけばいいのか」と「業務の言語化をどう進めるか」の具体例を解説していこうと思います。
着実に成果を出すAI活用を始めるきっかけになれば幸いです。
この記事と同じ内容をYouTubeでも配信しています、ぜひこちらもご覧ください。
Howをどう学んでいけばいいのか
Howとは手段と使い方
それではまずは「Howの学習」についてなのですが、そもそも"How"とは具体的に何でしょうか?
私はツールとその使い方、もう少し抽象化して呼ぶと手段と使い方にまず分解できると思います。

世の中には様々な課題を解くためのAIツールが溢れています。単独のツールで全てのタスクをカバーすることは難しいため、テキストチャットから検索、スライド作成、議事録要約、画像生成、動画生成など実に様々なものがあります。

この表を見て「え、これ全部勉強しなきゃいけないの…?」と怯まれた方、ご安心ください。
全部を知る必要はなく、自分の仕事に関係しそうなものを2つ3つ選ぶだけで良いと思います。例えばですが、私は仕事では画像や動画はほとんど扱うことがないので、この分野のAIはそんなに勉強していません。
おそらく万人に活きる機会があるであろうテキストチャット、その中でも王者であり続けているChatGPTや無料でたくさん使えるGoogle AI Studio、検索に無料で使えるGensparkなどから始めると良いのではないかと思います。
私なりの「このツールはきっと誰の役にも立つだろう」というツールは下記の動画にまとめてあるので、ご参考にしてください。
具体的に自分の興味が湧くツールが見つけられたら、次にそのツール固有の機能についてもう少し深く学んでみましょう。
ChatGPTを例に取ると
複数のモデルが切り替えられる
モデルによって賢さや得意なことが違う
Web検索を元に回答ができる
ファイル・画像アップロードができる
システムプロンプトを定義できる
画像を生成できる
Deep Researchでめっちゃ詳細なリサーチを頼める
GPTsでカスタムのGPTアプリが作れる
プロジェクトを作って複数のチャットをまとめたり、システムプロンプトを定義したり
など、純粋なテキストチャット以外にも様々な機能が存在します。
これに関しては、まずはAIツールのUIを色々触ってみること。そこまで酷いUIでなければ、それで大方は把握できるはずです。
第二には公式が提供しているドキュメントやヘルプを読むこと。しかし、そういったものがなかったり、英語だけで自動翻訳を駆使しても辛かったりすることもあります。
そんな時に活躍するのもこれまたAIで、ChatGPTの検索で聞いてみてもいいですし、Gensparkなどの検索特化AIサービスも無料で使えるのでぜひ使ってみましょう。

そしてそうやって大まかにどんな手段があるのかを知ったところで、その手段の使い方を学んでいきましょう。
使い方というのは以下の2つに分けられます。
応用例を知る
ツールの力を発揮させる方法を知る
1.応用例を知る
便利なツールを知ったとて、人一人の発想力というのは限られています。ツール自体に慣れ親しんでも、他の人の使い方を見て「あ、そんな使い方もできるんだ!」となることはしばしばあります。
最近「そんな使い方ができるんだ〜」と私が感じた一例として、ChatGPTのo3-miniが出た時に出てきた数々のアニメーション作成です。
o3-miniはプログラミングの能力が非常に高く、解説のためのアニメーション作成にも活躍してくれます。私はo3-miniが出てきた時、「プログラミング能力が高い!」という触れ込みだけを見た際は「アニメーションに応用しよう!」などとは露ほども思わず、このツイートを見かけて「試してみよう!」と行動が変わりました。
OpenAI o3-mini just one shotted this
— AK (@_akhaliq) January 31, 2025
prompt: write a script for 100 bouncing yellow balls within a sphere, make sure to handle collision detection properly. make the sphere slowly rotate. make sure balls stays within the sphere. implement it in p5.js pic.twitter.com/z5NdvkKXKp
こういった内容は、今後私もこのチャンネルで発信していきたいですし、また私自身は基本的にXでよく情報を得ています。Xで色んな人見ていきましょう。
2.ツールの力を発揮させる方法を知る
そして、もう一歩抽象化して「どうすればそのツールの力を最大限引き出せるのか」の普遍的な考え方を学んでいくことが大事です。
まずは単一のツールの力を引き出す方法、AIツールに関して言うと、第一にプロンプトの書き方です。(プロンプトがそんなに重要でないAIツールもありますが)
ChatGPTをはじめとした生成AIツールは基本的にプロンプトと呼ばれる指示文を送る必要があります。これを効果的に書くことによってAIの解答の質はガラッと変わります。
ちなみにプロンプトの基礎については以前の動画で解説しているのでぜひご覧ください。
そして単一のツールの力を引き出す方法を学んだあとは複数のツールの組み合わせでより価値を出す方法を学んでいきます。
例えば、私はちょくちょく図解の作成にv0やNapkin.aiなどのAIツールを活用しているのですが、いきなりそれらのツールに作ってもらうというよりは、まずはChatGPTなどにその図解作成用のプロンプトを作ってもらってから実行しています。

ちなみに"複数のツール"とは"一つのツールを複数回使う"ということもあります。どういうことかと言いますと、生成AIの回答も一発のプロンプトで全部をしてもらうよりも、複数回のステップに分けた方が最終的な精度が上がることが往々にしてあります。
例えばAIに記事を書いてもらうとします。記事を作成する際に一つのプロンプトでいきなり出してもらうよりは、まず箇条書きでどんな内容にするかのアウトラインを書いてもらいます。それに対してフィードバックをしたり、人間が手動で直したりして改善をしていきます。
そしてそれを元に再度プロンプトにして記事を書いてもらうと、自分の意図により近い記事が生成されます。

使っているAIはChatGPTだけですが、作業のプロセスを二つに分解することでクオリティを上げていくことができます。
そして、最後にこれらを統合した自動化です。
DifyといったAIを使ったワークフロー・ちょっとしたアプリ製作ツールを使ったり、もはやAIに閉じていないですがZapierで色々連携させたり、もはやプログラミングをすることも考えられます。
後半になるほど難易度が上がっていきます。まずは単一の改善から始めて、徐々にレベルアップしていけると良いでしょう。

ここまでの話をまとめると次のようにレベルアップしていくといいのではないでしょうか。
AIツールを大まかに色々知る
自分が仕事で使いそうなものを2-3個選んでツールの使い方をUIを色々触って学ぶ
プロンプトの書き方などの基礎を学ぶ
-> ここまでしたら次の章の「業務の言語化」に進む
一つ目のステップの「AIツールを大まかに色々知る」に関して、取り急ぎは鉄板のChatGPTなどからだけ始めていただくのがいい気はしますが、他にも無料で使い始められるツールは色々あります。繰り返し貼ってアレですが、よければこちらの動画から使いたくなるツールを探してみてください。
そして、そこで一旦止めまして、Difyなどを使ったより高度な自動化は、冒頭に2点目で挙げていた「日々自分が行なっていることを言語化する」をした後に学んでいけるといいのかなと思います。
なぜなら、そうして実際に役立つ自動化の対象がないと、手を動かして練習する対象もなく、おそらくDifyなどを学ぶのがそんなに楽しくないからです。ただ、大まかにどんなことができるツールなのかはチュートリアルをやってみたり、入門記事・動画を見てみたりで学ぶくらいはしてみてもいいかもしれません。
学習時の考え方: 「学習に効率を追い求め過ぎるのは非効率」
次に「業務の言語化」を進めていく訳ですが、その前に一息付いて、ちょっと学習していく時の考え方・心構えについても触れていこうと思います。
ノウハウコレクターにならない & 費用対効果も求め過ぎない
こういった「Howをいっぱい知ろう!」という話をした時に気をつけていただきたこととして、ノウハウコレクターに終始しないようにすることです。
正直ノウハウを集めるだけなのはそんなに大変ではないですが、何か進捗を出している気持ちになりやすいです。
中にはそのノウハウを集めまくった結果を世に発信して価値を出す方々もいらっしゃいますが、大抵の場合、集められた知識はちゃんと仕事なり趣味なりの実作業に活かされなければ意味がありません。
かと言ってインプットに過度に費用対効果を求めて、最低限のことしか学ばないと発想の範囲も広がりません。
これに関しては"最適な距離感"という概念を諦める、ことが肝要です。
Howはそれが使われる課題があって初めて活かされます。将来どんな課題が発生するかを予測しきることは不可能なので、従って何を学ぶのが最適なのか?を逆算しきることも不可能と言えます。
もちろん「自分は画像とか動画のAIはほとんど使いそうにないな〜」みたいな大枠のあたりをつけて絞ることはできますが、あまり効率のようなものを追いすぎるのは、かえって実際に行動する時間や気力を奪うことに繋がりかねません。
「学習に効率を追い求め過ぎるのは非効率」と心に刻みつけてください。
頑張らなくていいこと
逆に「ここはそんなに頑張らなくていいよ〜」というところとして、あなたが何を目指すかにもよるのですが、ソフトウェアエンジニアリングの基礎、機械学習の基礎はそこまで優先度は高くありません。
日々の仕事の自動化の大半はDifyやZapierなどのツールを組み合わせることによって解けると思います。おそらくそれ以上の開発が、
業務の言語化をどう進めるか
では次に、実際にAIを業務に役立てていくための1ステップ目「日々の業務の言語化」を具体的にどう行っていくかを考えていきます。
まずはじめに、期待値調整をしておくと結構めんどくさいです。ですが、そこを乗り越えるとうまい自動化が組めてサボれるようになります。サボるためには努力が必要なのです。
している仕事の棚卸し
まずはここ数週間・数ヶ月の自分の仕事を振り返って、どんな仕事があったかを思い出して書き出しましょう。
オススメはFigJamやMiroなどのホワイトボードツールを使って付箋でペタペタ貼っていくことです。
試しに人事の方になりきって仕事の棚卸しをしてみます。

解像度が浅いかもしれないですが、多分大きい仕事は載せられているのではないかと…。こうするとどんな仕事をどれくらいしているかが見えてくると思います。
そして、次は「頻度」と「どれくらい時間かかるか」でざっくり分類します。その中でまずは"高頻度で繰り返しやっていてそんなに時間がかからない"仕事がないかに注目します。

まず繰り返しやっているということは、型があり自動化できる可能性が高いです。まだ既存のAIツールがうまくカバーできていない領域はありますが、テキストベースの仕事であれば何らか効率化ができる可能性が高いでしょう。
そしてそんなに時間がかからない、ということは自動化の難易度が低い可能性、何かしらのAIツールをちょろっと使うだけで解決できて、すぐに効果が実感しやすい確率が高いです。
そこそこ時間がかかる、一連のプロセスを自動化するのは難易度が高くなる可能性が高くなります。先ほど少し触れたDifyやZapierなどを組み合わせて行く必要が出てくるので、次のステップアップとしてこちらを取り組んでいくといいでしょう。
繰り返し頻度が少なく時間が長いものは、自動化にかける工数が見合わない可能性が高いです。一方でWebサイト制作などで「中身をそこまでクオリティこだわらなくていいけど、とりあえず何か作っておきたい」みたいな状況の際はAIが大活躍して、すぐに作れて外注費も浮かせられる、なんてこともあったりはするので検討する余地はあります。
頻度も時間も短いものは改善インパクトも薄くて「お、おう」という感じになると思うので一旦忘れましょう。
という訳で先ほどの人事のタスクを仕分けしてみます。
多分こんな感じなんじゃないかと思います。的外れだったらすみません全ての人事の方。

それでは自動化されて嬉しそうな「スカウト」に焦点を当ててみて、もっと具体化してみます。
タスクの言語化
それでは作業をもっと具体的に言語化していきましょう。
まずお伝えしたい重要な思考のフレームとして、全ての仕事は次のプロセスを踏みます。

情報やモノを得て(インプット)、それを思考や作業を通じて変換し(思考や作業)、別の情報やアクションに変換する(アウトプット)。ということを行っていくのが仕事です。
では今回自動化したい対象のスカウトという仕事をこのフレームに沿って分解してみます。
採用のためのスカウトを打つときには、次のような流れになるでしょう。
※簡便化のために一旦採用媒体内でのスカウトのみを考えています、実際はSNSでのDMとかもあります。
インプット
## 情報
### 自社
- 自社の課題
- 自社が求めている人材像
### 候補者
- 履歴書
- 職務経歴書
### テンプレート
- スカウトテンプレート
- 採用関連の記事・ブログ
## アクション
- 採用媒体で検索する
- レコメンドを見る
思考や作業
- 現在の自社の状況と照らし合わせて、候補者の方に来て欲しいと感じるかを判断
- その候補者にとって何が魅力的かを考える
- スカウト文章を書く
アウトプット
## 情報
- スカウト文
## アクション
- スカウトの送信

ここまで整理すると自動化のプロセスも考えられます。
まずは「現在の自社の状況と照らし合わせて、候補者の方に来て欲しいと感じるかを判断」することの自動化です。
次のようなプロンプトを作ってみます。
※例としてこのようなプロンプトを作ってますが、実際は個人情報のフィルタリングなど十分に気をつけてください。
現在、スカウトを送信する候補者を選定中です。
以下の情報をもとに、この候補者が弊社の採用要件に合致しているか評価してください。
また、「弊社にとって魅力的か」と「候補者も弊社に魅力を感じる可能性があるか」の両面から判断してください。
## 判断基準
1. 候補者が弊社の採用要件を満たしているか
2. 候補者が弊社に興味を持ちそうか
## 入力情報
### 候補者の情報
{職務経歴}
### 弊社の採用要件
{採用要件}
## 出力フォーマット
- **スカウト送信の判断:** 「絶対送るべき」 / 「可能性あり」 / 「お見送り」
- **判断理由:** (具体的な理由を簡潔に記載)
そして、元となる情報をどう取得するかを考えます。
まず簡単に試せるのはコピペです。次にちょっとエンジニアリング要素が増えてくるのですが、APIなどを提供していたらそれを使ったり、ブラウザの自動操作を試してみたりなどしてインプット部分も自動化します。
※ちなみにですが、このプロンプト作成も一発で終わるというよりは、色んな人や求人票の出力を元に地道に改善していく必要があります。
`その候補者にとって何が魅力的かを考える`というステップにも同様にプロンプトを書いて、上記のプロンプトの結果と統合して最終的なスカウト文面を出力します。
そして、人間が見てブラッシュアップをできたらスカウト文作成は完了です。

そして、最後にはアウトプットのアクション、実際の送信を行なって完了です。
以上のような形で考えると、どこをどう自動化すればいいか見えてくるのではないかと思います。
一段階目としては単発のタスク。

二段階目としてはそのタスクを繋いだワークフローの構築。
ここに関してDifyやZapier、GASなどの自動化ツール群が必要になってきます。また自動化対象のサービスがAPIなどを提供していない場合はブラウザの自動化操作なども出番が出てくるかもしれません。

以上、どうやってAIを踏まえた自動化を進めていくかを考えてきました。大切なのは自分の業務を如何に言語化するか、自分自身が行なっていることの棚卸しをしていくと確かな自動化への道が開かれると思います。
また、今回はお手製のAI自動化の仕方を考えてきましたが、今後は結構具体的な業務特化のAIサービスもいろいろ出てくると思います。
例えば、今回題材にしたスカウトのような業務をAIで支援する会社さんも出てきています。
ちなみに下記は上記サービスの開発の流れが書かれた記事なのですが、こちら読むと、いかにシームレスなAIを組み込んだ体験を作るかが大変かが感じられて良いのでオススメです。
自分でAI活用は頑張りつつ、いろんな企業が新たに提供していくサービスたちもウォッチしていきましょうね。
おわりに
最後に余談でAIによってもたらされた、と私が考えている"自動化の民主化"についてちょっと語って本記事を締めようかなと思います。
私がGPT-4を始めとしたAIが登場してきて衝撃的だったのが、プログラミングの知識がなくとも自動化ができてしまう、ワークフローの構築・プログラミングが必要なこともAIの力を借りてできてしまう点です。
これにより私自身も今までせこせこ書いてたコードが要らなくなったり、AIで一瞬で書けるようになって嬉しさと喪失感がないまぜの感情になりました。
また、感動を覚えたのが人事や企画職などプログラミング経験のない方々が自動化をエンジニアの手を借りずに取り入れていたことです。
これが私が「AIの民主化」は「自動化の民主化」であると考えている由縁です。
一方サクッとAIを使ってうまくいくことも多々あるのですが、本質的に業務をアップデートするような自動化をやり切るのは結構な手間がかかります。
それは現代のAIをもってしてもです。
肝となるのは言語化、仕事を終えるには、「そもそも仕事が終わるとはどういう状態なのか」「そのためにはどんな情報が必要なのか」「どんな加工を施していく必要があるのか」をしっかりと考えていくことです。
この記事が皆様の確かなAI活用を始めるきっかけになれば幸いです。
それではまた次回の記事・動画で!!