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女の子の自立と外見「宇野亞喜良展」を観て。

刈谷市美術館で開催中の、「宇野亞喜良展」を鑑賞してきました。
1950年代から最新作までを網羅する、過去最大規模の個展とのこと。
高校時代の自画像に始まり、ポスター、企業広告、カレンダー、舞台芸術、絵本、文芸作品の挿絵……と、多岐にわたるその活動の全貌が、一堂に会しています。

掲載される媒体に応じた多彩な表現方法や画風は、これまで私が知っていた活動内容が、そのごく一部に過ぎなかったことを伝えてくれるものでした。
2時間ほどで鑑賞し終えた頃、ちょうど閉館時間となりましたが、見応え十分、大満足です。
その内容についてはさまざまなところで語られている通りで、ご覧になった方も多いと思います。
そこで私は、長年心惹かれてきた「笑わない少女」、中でも彼女たちの服装や髪型を見て感じたことを、記録したいと思います。

読書週間ポスター(1959年)

重めの前髪とロングヘア、小さなお顔に大きな瞳、少し「への字」になった笑わない口元。
1959年、活動のごく初期の頃には、既に私たちの知る「笑わない少女」の表現がなされていたことに驚きます。
タートルネックのセーターの襟元には、凝った編み模様が表現されており、
読書週間は秋であることから、ススキなど秋の植物と鹿が描かれています。
髪型と服装、一緒に描かれたモチーフは、いかにも少女の可憐さと繊細さを感じさせるものです。
しかし、その表情には、可憐で繊細というだけにはとどまらない、確固たる「好きなもの」があり、その世界を内に秘めた強い意志を感じます。

ウェーブのかかった柔らかそうな髪、刺繍の入ったピンク色のビスチェ、背中から垂れる大きなリボン。
美しく広がるワンピースの中に広がる、薔薇や鳩、白鳥、花籠、美しい小さな教会。
現代においては、服装や髪型、メイクに性別の垣根は無くなってきていますが、
伝統的には「女の子らしい」、女性特有のモチーフとされてきた美しいものたちが、女の子たちの憧れそのままに、たっぷりと表現されています。

ごく近年、宇野さんが取り組んでいる俳句を絵画で表現する作品においても変わらず、
ふわふわの髪、伏せた長いまつ毛は、女の子の憧れそのものです。

NHKの「日曜美術館」で、「変容するイラストレーション 宇野亞喜良」が放送されました。
(名古屋では、令和6年5月26日、再放送 同年9月22日)
そこでの宇野さんの発言が、印象に残っています。
「理由もないのに笑うのは好きではない、媚びているようで」
「女性はみんな、何かしら社会に対して不満を持っていると思う」
「それも含めて女性を表現している」
というような内容です。(※筆者の記憶に基づくもので、要約しています)
この言葉を聞く限り、宇野さんが、女性にとって、この社会は生きづらいものだと感じていることが分かります。

私はずっと、宇野さんの描く女性をみて、どうしてそう感じるのかは自分でも説明しきれないけれど、
女性に対するリスペクトともいうべき深い理解、その複雑性や多面性に対する深い洞察のようなものを感じていました。
なんだか、馴染めない。
本当はここに居るはずではなかったし、もっと言いたいことも、やりたいこともある。
私は本当はこれが好き。
誰にも分からないかもしれないし、分かってもらわなくてもいい、でも少し知ってほしい。
……そんな、心の声が聞こえるような、それは自分の心の声でもあるような、そんなことを感じていました。
笑わない少女たちは、まるで自分の分身みたい。
多くの女性にそう感じさせるから、宇野さんの少女たちは、ずっと私たちに寄り添ってきてくれたのかもしれません。

そして、この記事の本題である、少女の服装と髪型についてです。
何かしら社会に不満をもち、言いたいことがあって、どこか「挑んでる」女性でありながら、
どこまでも可憐で美しく繊細な少女たち。
戦う女性のステレオタイプは、男性と同等に戦うために男装や動きやすい服装をしたり、髪型を短く整えたりすることが多いように思います。

でも、宇野さんの少女たちは違う。
好きな髪型をしたままで、好きなお洋服を着て、好きなことを好きなままでいます。
女性であることを肯定し、楽しみ、誇りをもって堂々と生きること。
それと、
どんなものでも自分で選択できることや自分で決められること、自分のままで、たくましく成長していくこと。
その姿を見ていると、それらが当然に両立し、少しも矛盾しない社会、人間関係であってほしい。
自分もそうありたい。
そんなことを願わずにはいられません。
もちろん、これまで男性的だとされてきた服装や髪型、行動をすることも自由です。

かわいいものや美しいものが大好きな私は、
ただただ、そのかわいさと美しさを堪能することだけでも十分に満足できる展示です。
それに加えて、宇野さんの描き出すさまざまな女性、登場人物たちの姿に、大いに力をもらい、勇気づけられる鑑賞体験になりました。

90歳になられた宇野さんですが、できるだけ長くご活躍を拝見したいです。
俳句をモチーフにした作品も素晴らしく、もっとたくさん見てみたいな。

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