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仮想読書会:「世界の本当の仕組み」バーツラフ・シュミル著の(3)素材

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6人のキャラクターとの仮想読書会 ~AIと創る新しい読書体験~
「仮想読書会の進め方」と「このnote」
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【 今回の仮想読書会の範囲 】
「世界の本当の仕組み」バーツラフ・シュミル著
第3章 素材の世界を理解する—現代文明の四本柱

【 読書メモ(引用、問いなど)】
・マイクロチップの基本的な基板である薄いウェハーにスライスしたシリコン(ケイ素)は、電子の時代を代表する素材だが、(中略)99.999999999パーセントという高純度のシリコンの大きな結晶を製造してウェハーにスライスするのは、複雑で多くの段階を必要とする。(中略)必要な一次エネルギーは、ボーキサイトからアルミニウムを製造するときよりも2桁、鉄を溶融して鋼鉄を製造するときよりも3桁多い。(p.129-130)

・重要性に関する主張に基づいて、物質的ニーズの議論の余地のない序列を決めることはできないが、不可欠性と遍在性と需要の規模に鑑みて、擁護可能なランキングなら提案できる。この3条件を組み合わせた尺度を使うと、4つの素材が上位を占める。私が「現代文明の四本柱」と呼ぶもの、すなわち、セメント、鋼鉄、プラスティック、アンモニアだ。(p.130)

・これら4つの物質のうち、私たちにとって非常に重要な素材の最上位を占めるに値するのはアンモニアだ(中略)。前章で説明したように、窒素肥料の主役としてアンモニアを直接使うか、あるいは他の窒素化合物の合成用原料を使うかしなければ、今日の約80億の人口の少なくとも40パーセント、多ければ50パーセントを養うことが不可能になる。(p.133)

・近年、陸上で、そして海洋や沿岸水域や浜辺ではなおさら、プラスティック汚染に対する懸念が高まっている。これについては、環境についての章で立ち戻ることにするが、このようなプラスティックの無責任な投棄も、これほど多様で、真に不可欠なことの多い合成素材の適切な使用に反対する根拠にはならない。さらに、マイクロファイバー(超極細繊維)に関するかぎりでは、じつに多くの人が、海水中のマイクロファイバーは合成繊維の摩耗に由来すると決めてかかっているが、それは間違っている。今やマイクロファイバーは、全世界の繊維生産の3分の2を占めるが、海中のサンプル調査から、海洋に漂う繊維は90パーセント超が天然由来であることがわかっている。(p.147)

・こうしてでき上がるコンクリートは今や、現代文明で最も大量に使われている素材であり、硬く、重く、何十年にも及ぶ過酷な使用に耐えられる。(中略)今日の最高品質のコンクリートは100メガパスカル以上の圧力に耐えられる。これは、オスのアフリカゾウが1枚の硬貨の上に乗っているときの圧力に匹敵する。だが、引っ張りとなると話は別だ。人間の皮膚を引き裂くのに必要な力よりも小さい、わずか2~5メガパスカルの力で引っ張られただけで、コンクリートはちぎれてしまう。鋼鉄による補強が徐々に進歩したおかげで、強い張力にさらされる構造部分での使用が適切になった後でようやくコンクリートの大規模な商業的導入が始まった背景には、そのような理由がある。(p.158-160)

・大規模なコンクリート化が進む現代世界は、1991~2020年に、硬いけれど徐々に崩れていくこの素材を7000億トン近く使った。(中略)60~100年にわたって良好な状態を保つものもある一方、多くがわずか20~30年ではなはだしく劣化する。つまり、私たちは21世紀中に、構造物の建て替えや取り壊しのために解体するか、あるいはそのまま放置するかの選択を迫られ、コンクリートの劣化と打ち直しと撤去の、前例のない規模の責務に直面することになる。中国ではそれがとりわけ深刻な問題を引き起こすことは明らかだ。(p.165)

・「グリーン」な電力生成の象徴として、大型の風力タービンより明白な構造物はないが、それらは鋼鉄とセメントとプラスティックの巨大な蓄積物であり、化石燃料の権化でもある。(中略)すべて合わせると、設備発電容量1メガワット当たり200トン近い。巨大な羽(ブレード)は、エネルギー集約的でリサイクルが難しいプラスティックの樹脂製であり、中型のタービンで約15トンになる。これら巨大な構成要素はみな、設置現場まで特大のトラックで運び、鋼鉄製の大型クレーンで組み立て、タービンのギアボックスは繰り返し油を差さなければならない。化石燃料での発電をなくすのに必要な何百万ものタービンのそれぞれに、これだけの素材が求められることを考えれば、来るべきグリーン経済の脱物質化について言われていることがみな、どれほど誤解を招くものかがわかるだろう。(p.167-168)

・新しい途方もない素材依存の最善の例は、電気自動車かもしれない。約450キログラムの重さがある自動車用の典型的なリチウム電池には、約181キログラムの鋼鉄とアルミニウムとプラスティックに加えて、約11キログラムのリチウム、14キログラム近いコバルト、27キログラムのニッケル、40キログラム以上の銅、50キログラムの黒鉛が使われている。たった1台の自動車のためにこれらの素材を供給するには、約40トンの鉱石を処理しなければならず、多くの元素は鉱石中の含有量が低いことを考えると、約225トンの原料を採掘して処理しなければならない。この場合もまた、総量はその1億倍近くにならざるを得ないだろう。電気自動車が取って代わらなければならない内燃機関搭載の自動車は、毎年世界中でそれだけ生産されているからだ。(中略)将来、電気自動車が円滑に普及するという予想を立てるのは簡単だが、これらの新しい素材の供給を世界的に大規模に生み出すとなると、話はまったく違ってくる。(p.168-169)

<問1>
風力タービンの話や電気自動車の話を通して、やはり、物事は表面的にだけ見ていてはいけないなと感じました。

部分的には良さそうに見えるアイディア、プロジェクト、製品、サービスなどを多角的に検証することが大切だと理解するのに良い例だと思いました。

あなたの日常生活や仕事における、「いろいろな物事が繋がって影響を及ぼし合う世の中に何かを送り出すには、システム思考に基づいて配慮することが求められる」という実例について、教えてください。

<問2>
第2章でも、フードロスといった「廃棄」に関する話が出ていたのを思い出しました。第3章でも、プラスティック汚染やコンクリートの劣化や撤去の話が出てきて、表面上は異なって見えても、同じ「廃棄」に絡んだ問題と捉えることも可能なのではないかと考えました。

そして、「資源採取~原料生産~製品生産~流通・消費~廃棄・リサイクル」などの製品・サービスのライフサイクル全体、または、その特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法、「ライフサイクルアセスメント」(Life Cycle Assessment:LCA)を導入したアプローチや、「廃棄物管理インフラ」などを、どちらの領域でも普及させることが重要ではないかと考えました。

このような捉え方について、みなさんがどう思われるか、具体例を挙げて教えてください。

【今回の成果共有】
実務家:青柳さん

私の部署では最近、グローバルなオフィス改装プロジェクトを進めています。鋼鉄製の従来型デスクをすべて替えようとしたのですが、本書を読んで、新しい家具の製造に必要な素材やエネルギー、廃棄物の処理まで考えると、むしろ既存の物を修理して使い続けるほうが環境負荷が低いかもしれないと気づきました。

フリーランス:黄田さん
それ、興味深いですね。僕の場合、フリーランスのワークスペースを選ぶ時に、新しくてスタイリッシュな空間を好んでいました。でも、コンクリート建造物の寿命の話を知って、古いビルをリノベーションしたコワーキングスペースの価値を見直しています。

起業家:緑川さん
教育ベンチャーを運営していて、最近「持続可能な農業」をテーマにした教材を作っているんです。アンモニアの話は衝撃でした。化学肥料がなければ世界人口の半分が養えないという事実。でも、土壌の劣化も進んでいて、生徒たちと一緒に未来の食料生産について考える良い教材になりそうです。

物理学者:白石さん
私の研究室では年間予算の大部分を実験機器の購入に充てていますが、シリコンウェハーの製造エネルギーの話を読んで、改めて機器の製造過程における環境負荷を考えさせられました。来年度から、機器のライフサイクルコストを予算申請書に記載する項目を追加しようと考えています。

芸術家:赤松さん
実は最近、使用済みの風力発電のブレードをリサイクルして彫刻を作るプロジェクトを始めました。プラスティック製のブレードは処理が難しいという問題がありますが、それを逆手に取ってアート作品として再生することで、社会に問題提起ができればと考えています。

政府官僚:黒木さん
環境省の前の部署では、電気自動車の普及促進策を担当していました。しかし本書を読んで、1台の製造に225トンもの原料採掘が必要という事実に愕然としました。現在は、使用済みバッテリーの回収とリサイクルシステムの構築に関する政策立案に携わっています。

主宰者:7人目
セメント、鋼鉄、プラスティック、アンモニアという、現代文明を支える素材について学べたことに加え、仮想読書会への問いに、「廃棄物」「LCA」という見方を登場させたことから、デジタル教材の使われなくなったコンテンツの保存や廃棄という「デジタルごみ」問題や、数千年単位の時間スケールで考える必要がある「放射性廃棄物」問題が出てきたのが良かったと思います。
また、廃材を使ったアート作品制作、「アップサイクル」という考え方も、単純なリサイクルとはちょっと異なるアプローチとして興味深かったです。

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