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【ショートストーリー】駄菓子屋のおばあちゃんは歳をとらない

 よっちゃんは今日も百円玉を握りしめて「ぴのきお」に向かっていました。
 昭和の風景が色濃く残る、ある地方都市の下町の一角に、小さな駄菓子屋「ぴのきお」はその温かな光を灯してたのです。
 木造の古びた建物は、時間の経過を物語ります。よっちゃんが 店のガラス障子を開くと、くすんだ鈴の音が響きます。
 中には、懐かしさで胸がいっぱいになる程の昔懐かしいお菓子たちが所狭しと並んでいました。
 カラフルなラムネ、形を変えながらも変わらない美味しさの昆虫チョコ、駄菓子屋ならではの甘くてしょっぱい花の形をしたあられ、コーララムネ、笛ラムネ、ビックカツ……。
 それらはまるで、時を超えた宝石のように子供たちの目を輝かせるのです。
「ぴのきお」の店主のおばあちゃんは、いつも温和な笑顔を絶やさずに、店の奥のお座敷で子供たちを出迎えていました。
 季節が変わり風が街を通り過ぎてゆく中でも、おばあちゃんの笑顔はいつも変わらず、それは子供たちにとっての安心の象徴でした。
 よっちゃんは慎重に駄菓子を選びます。何しろ予算は百円。百円と言えば子供にとってみれば大金です。しかし駄菓子を買ってしまうとなぜかあっという間になくなります。
 今日は何を食べる?
 うまい棒、モロッコヨーグルト、ビックリマンチョコ、きなこ棒、チョコバット、シガレットチョコレート……。
 選択肢がありすぎて迷ってしまいます。
 よっちゃんは「都こんぶ」を選択します。意外に渋いチョイスです。
 お店の中では他の子どもたちも生き生きと遊んでいます。当たりくじ付きの飴を買って大騒ぎしてる子や、人工着色料で舌が真っ青になってゾンビごっこをしている子もいました。指に謎の薬品をつけて、指から煙を出すおもちゃも大人気です。
 よっちゃんは外に出てささやかなゲームコーナーの前に来ました。
 10円玉を入れて、それを弾いて上のゴールまで導く簡単なゲームです。しかしよっちゃんは真剣でした。なにしろいつもゴール手前で10円玉を落としてしまうのです。
「あーー!」
 よっちゃんは今日も失敗してしまいました。がっかりです。
 気を取り直して他のゲームをやります。
 インベーダーゲームは近所の大学生のお兄ちゃんが占有していたのであきらめます。
 でも大丈夫。
 よっちゃんには他に好きなゲームがあったのです。
 それは日本物産の『ムーンクレスタ』。
 よっちゃんはこのゲームの独特のグラフィックのセンスと動きが大好きでした。そして1号機と2号機のドッキングシーンには心ときめきました。
 よっちゃんは都こんぶをしゃぶりながら、時を忘れてムンクレに没頭しました。
 いつの間にか夕方です。
 よっちゃんはもう帰らなければなりません。
 名残惜しいですが、お母さんに怒られるのは嫌なのです。
 帰り際、よっちゃんはいつも不思議に思っていました。
「ぴのきおのおばあちゃんは、なんでいつ言っても同じ顔をしてるんだろう?」
 よっちゃんの視線の先にはいつものように穏やかに笑いながら、当たりくじを景品と交換しているおばあちゃんがいます。
 そう。
 駄菓子屋のおばあちゃんは不老不死なのです。

(了)

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