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人間と知能のアンバンドリング
産業革命以後、生産と消費のアンバンドリングで国際貿易が活性化し、生活水準の向上に貢献しました。生成AI時代は人間と知能のアンバンドリングというお話をします。
アンバンドリング
アンバンドリングとはバンドリング、すなわちパッケージ化することの反対語です。
アンバンドリングとはもともとパッケージになっているものをばらばらにして個別に提供できるようにすることです。
アンバンドリングは新しい競争や最適化を生みます。
Intelが衰え、TSMCやNVIDIAが勃興しているのも、半導体の設計と製造がアンバンドリングした結果です。
歴史をたどれば、そもそも産業革命があれほど世界を変えたのは、蒸気船による輸送コストの低減により世界貿易が盛んになったためです。ここでは、生産と消費のアンバンドリングが起こりました。世界中もっともコスト優位なところで生産して世界中どこへでも運べるようになりました。1850年には世界生産の3%が国際貿易でしたが、今日では30%になっています ([DeLong]) 。これは世界の貧困解消に大きく貢献しました。
ITにおけるアンバンドリング
ITにおける大きなアンバンドリングは次のとおりです:
ハードウェアとソフトウェアの分離
インターネットによるコンテンツと配送手段の分離
生成AIによる人間と知能の分離
コンピュータソフトウェアのハードウェアとの分離は計算機科学の大きな発展に寄与しました。ムーアの法則によってハードウェアがどんどん進化する中、ソフトウェアを書いておけば自動的にハードウェアが進化することによって速度向上の恩恵を受けることができました。
インターネットの登場はコンテンツと配送手段の分離を生みました。Amazonもその恩恵を受けましたし、報道、出版、メディア産業が大きな再編をすることになりました。
生成AIは人間と知能を分離し、どこでも多数の専門家の知能を利用できるようにします。このアンバンドリングは始まったばかりです。コンテンツと配送手段のアンバンドリングはほぼ30年が経過し、コンテンツ産業と広告産業に大きな変化をもたらしました。
人間と知能のアンバンドリング
人間と知能のアンバンドリングは過去のITアンバンドリングより大きな変革を呼ぶ可能性があります。
一方、組織や経営や文化に与える影響は大きく、簡単に起こるとは思えません。
実際、2024年の生成AIの進化は大きかったですが、生成AIの利用率は上がりましたが、生成AIがビジネスに与えるAIインパクト率は大きな影響を与えるものではありませんでした。
このギャップがどうなるかが2025年の最大の焦点だと思います。
最終地点は生成AIが働いて人間が働く以外の仕事をするということになります。しかしそれが100年後なのか5年後なのか、誰もわからないというのが本当のところだと思います。
むすび
12月になって、OpenAIはo1とChatGPT proを発表しました。Google はGinie 2を発表しています。
毎日毎日が驚きの日々であるとともに、今日が今後の未来の中では生成AIの最低の日(明日はもっとよくなる)とも言われています。
アンバンドリングは経済に与える影響がもっとも大きいビジネス手法の一つです。人間と知能のアンバンドリングが生む新しいビジネスチャンスを考えていきたいと思います。
参考文献
[DeLong] J. Bradford DeLong: Slouching toward Utopia https://www.amazon.co.jp/-/en/J-Bradford-DeLong/dp/0465019595 2022年
[itmedia] Google DeepMind、インタラクティブな3D世界を作るAI「Genie 2」発表 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2412/05/news116.html 2024年
[itmedia2] ChatGPTに“月額3万円”の新有料プラン登場 最高性能の「o1 pro mode」などAIモデル&ツール使い放題 https://www.itmedia.co.jp/aiplus/articles/2412/06/news109.html 2024年