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2025年のビジネス向け生成AI指針

生成AIの進化は止まらず、同時に実社会実現とのギャップも拡大しています。悩ましい2025年の生成AI戦略を語ります。


基盤モデルは様子見は続く

大規模言語モデルの今年の展開

テスト時計算(Test-time compute)、すなわち回答を出すときに考えるという技術は開発が始まったばかりの黎明期です。最近もGoogle のTitansなどテスト時計算の論文が発表されています ([behrouz])。2025年の大きなトレンドです。
最初の単語から順番に次の単語を生成するというメカニズムは原始的すぎるので、戦略を考えたり、試行錯誤したりするテスト時計算は生成AIの本命だと思います。この勝負が続く限り、決着はつかないと思います。
DeepSeek-v3が出てきているので、米中対決も全然決着つきそうにないです。o1のリリース前には生成AIの開発が壁に当たっているという議論が昨年の夏にありましたが正しくなかったようです。

ベンチマークはあまりあてにならない

AppleのGSM-Symbolic ([[mirzadeh])やStanford大のPutnam-AXIOM ([gulati])など文字を入れ替えたり文章を少しいじっただけで生成AIのベンチマークスコアが悪化するという論文も続いています。単にパターンマッチしているのではなく、深く推論しているかどうかはまだ検証が必要です。
もちろん、訓練データに試験データが混入していないことは大前提です。

驚愕の生成AIのコストパフォーマンスを吟味する

今後もテスト時推論の進化による性能の向上は続くと思います。一方、それは実行時コストが上がり続けるということで企業的な採算点からは採用が難しい状況になると思います ([ai300lab_2])。
リリース毎にAPIのコストが劇的に下がるという過去の傾向はいったんリセットされるかもしれません。
精度とともにコストパフォーマンスの吟味が必要です。

ツールを評価する自分なりの基準を持つ

Perplexity、Feloなど付加価値を提供するツールも増えています ([mikimiki])。ユースケースによるので、自分なりの価値基準をもって採用していくのが重要です。ツールを使いこなすのにもそれなりの慣れは必要なので右往左往していると生産性は上がりません。新しいツールはどんどん出てきます。ベースの言語モデルの進化とともに有用性は拡大します。資料を調べる、結果をマインドマップにする、結果をプレゼン資料にする、結果を他の生成AIの入力にする、など用途に合わせて自分なりの選択の尺度を持つのが重要です。

自社システムは継続性を重視

自社システムはコンテクストサイズの関連で生成AI以外の支援システムに頼らなければならない状況が続く以上、生成AIの性能ではなく支援システム(RAGなど)の性能で精度の上限が決まる状況は続きます。
過去2年の動向を見ていても、最大の課題は自社システムとのすり合わせです。自社がAzureベースならCopilot、Google SuiteならGemini、にしていくのは避けられません。SalesforceのAgentForceなども選択肢になっていくでしょう。
大きな欠陥や特定の問題解決にだけ時限的に個別的ソリューションを使うことになります。
個別の生成AIの導入より、ベースのデータの入力・管理のほうがはるかにコストがかかります。データレイヤの上に生成AIが載るのが未来の情報システムの姿だとすると既存データを管理しているシステムに整合する生成AIを採用することになると思います。ユーザの利用文化を変える方が難しいという点もあります。

自動化は道半ば

2025年はエージェントが本格化と言われています。技術開発としてはその通りだと思いますが、組織のほうが自動化を受け入れる環境にありません。
生成AIのスキーミングの問題 ([ai300lab]) や組織リエンジニアリングが簡単にできないなどの問題があります。
ソフトウェア開発などでも並列プロセスの干渉などで起こる確率的な障害を生成AIが簡単に修正できるようになるとことには悲観的です。
企業社会と生成AIのギャップは残念ながら今年も拡大し続けると思います。

自社AIストラテジストを育成

大規模言語モデルも付加価値ツールもどんどん進化するとなるとでは今は何をすればいいかということになります。世の中は驚き屋ともいうべき驚くべき生成AIニュースを速報するサイトであふれています。
外から煩悩がどんどん入ってきて定まらなくなるのが日常化します。そういう時代こそ、自社のビジネスモデル、システム、ワークフローに即して動向を判断するスペシャリストを数名育成しておくことをお勧めします。社内AIストラテジストとでも言えばいいでしょうか。生成AIは日進月歩です。エバンジェリストの仕事はこんなことが起こっていますよと周知するより、起こり続けるイベントで社内が動揺しないように抑えることになります。毎日のニュースに惑わされない的確な解説と自社に合った指針を提供します。

むすび

生成AIウォッチングをしていて悲しくなるのは、(a) 最新ニュースに飛びつき続ける、(b) 何もしないでサイドラインで見守る、(c) よく戦略を考える、の3つの区別があまりないことです。進化が激しくて結局全部考え直さなければならなくなるからです。
生成AI各社はすでに高価な基盤生成AIを開発し、それをリリース可能な高速なAIの開発に使っていると言われています。母体の基盤生成AIは高価すぎて顧客に提供するには高価すぎるのです。GPTシリーズとoシリーズの統合とか、博士レベルのスーパーエージェントの登場とか噂には事欠きません。
人間は人間関係や物理世界を含め自分が思っているほど現実社会をよく理解していないので現実世界のすり合わせ(オンボーディング)こそが2025年の課題になると思います。
エージェントの時代にはまだまだ課題がありますが、方向性としては間違いないでしょう。近い将来は組織リエンジニアリングの出番になるでしょうが、まだ時期尚早かと思います。今年も高性能の生成AIは出続けますが、コストパフォーマンス的に企業が簡単に利用できるようになるのはまだ先のように思います。
結局、驚くニュースは続きますが、戦略はシンプルに変わりません。(1) 自分にとって有用なツールを時限的に採用し、(2) 自社システムは現在使っているシステムから少しずつ前進させていく、(3) 生産性向上には将来的な組織リエンジニアリングの検討を進めておく、というのがいいと思います。

参考文献


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